第8話-各地に散らばる五人の転生者

「父さん……これから父さんに【積分魔法】を使って〝能力〟を追加するぞ」

 グラル達は洗礼を終えると場所を変えてエフダッシュ辺境伯の王都の別荘へと移動していた。

 そして今、グラルはディクスの書斎にいる。

「出てよ! 【不定積分】!!」


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∫(___)dx=(???)


※積分したいものを空欄に入力してください。


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 グラルは空欄に「ディクス・フォン・インテグラ・エフダッシュの能力」と入力して積分を実行する。

「よしっ! 【積分実行】!」

 ディクスの身体が淡い光に包まれて一瞬強く光ると、次第に光はおさまっていく。

「上手くいったみたいだな。父さん、自分のステータスを確認してみてくれ……!」

「はあ……私はその呼び方についてもう諦めた。それでは確認するとしよう。【ステータス】!!」


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ディクス・フォン・インテグラ・エフダッシュ─Lv37


HP:1978/1978

MP:788/788

SP:574/574


称号:【エフダッシュ辺境伯】【統治者】【武勲を立てた者】【王に仕える者】


使用可能魔法:【火属性初級魔法】【水属性初級魔法】【風属性初級魔法】【光属性初級魔法】【火属性魔法】【水属性魔法】【風属性魔法】【光属性魔法】【雷属性魔法】(new)


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「雷属性、だと……!? なんということだ!」

 属性魔法の属性については火、水、風、土、光、闇の基本属性エレメントから派生して火と水から氷属性、水と光から癒属性、風と光から雷属性、風と土から嵐属性、の4つの派生属性が存在している。

 この基本属性は光属性と闇属性のみ所持している者が極端に少ないため、癒属性と雷属性はさらに所持している者が少ないのだ。特に癒属性を持っていれば傷を治すことができるので、必ずといっていいほどエリート街道を一直線に進むことができる。

──つまり何が言いたいのかと言えば、ディクスは今にして、そのとても希少な魔法である【雷属性魔法】を手に入れてしまったのだ。

「これは……全盛期の私を超えることも難しくはないのではないか……!?」

 そして、グラルとディクスの取引はディクスに大きすぎる利益を与えて終わりを迎えたのだった。



※※※



 【地学の支配者】ミスト、【生物学の覇者】ビオル、そして【化学の不死者】ケルンは共に同じ国の生まれであり、生まれた国はグラルの生まれたべネトレット王国から遠く離れたプリアント公国である。

 プリアント公国は王が治めるのではなく、選挙によって選ばれた商人などの有権者から選出されるので、ある意味、元の世界のような近代的な国だ。

「まさか同じ国にいたなんてな~」

「やっぱ気が合うな、俺ら……」

「元の世界のネタも通じるしな~! 『あいつ』とは違ってな」

 ミスト達三人は洗礼の時にピタラスに喚ばれて初めてお互いの顔に見覚えがあることに気がついたのだ。

 彼らは「よっしゃーーー!! キバっていくぜ!」と某特撮ネタをお互いに言い合うとハイタッチを交わしたのだった。

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお──!! ネタが通じるーーーっっっ!!」」」

 最後に、ネタで通じ合える喜びを発狂することで表現して握手をしてそれぞれの親のところへ戻っていった。



※※※



 グラルのいるべネトレット王国の王都アークゲートと話は変わり、アイズは隣国であるロンバルド王国に転生しており、ロンバルド王国の王都ミラで洗礼を受けていた。

(まさか……私の称号に────があるなんて……! これじゃあこの国で迫害されちゃう! い、いくら【勇者】の称号があったとしても……)

 アイズが怯えた理由──それは【魔に魅入られし者】という称号。魔法に魅入られたということなのだが、人によっては厄災に気に入られるとの解釈の違いから迫害の対象となってしまった称号である。

 もしアイズの称号が露見すれば【堕ちた勇者】などと侮蔑の視線に晒されることになってしまう。しかし王国が【勇者】という称号を見逃すはずもないために国の傀儡人形になってしまうだろう。

「どうしようどうしようどうしようどうしよう──!」

 アイズは心の底から『この鳥籠から外へ連れ出してくれるような【勇者】』を望んでいた。

(【数学の賢者】さんなら、私を救ってくれるかな……?)

 真っ先に自分を心配してくれた【数学の賢者】であるグラルの顔がアイズの脳裏を過ぎるが、転生したのならば当然生まれた国も違うだろうと考えて再び瞳に影を落としてしまった。

(誰か……助けて……!)

 手が汗ばむことを気にする余裕もない程に焦っており、アイズは両手で何かを包むように握りしめて祈っていた。

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