第7話-7歳の洗礼と【積分魔法】⑤

「さて、貴方がた転生者は学問を発展させるために転生しました。これより、それぞれの学問を司る魔法を授けましょう」

 ピタラスは残りの三人──【地学の支配者】、【生物学の覇者】、【化学の不死者】となる者たちをグラルたちと同じく喚ぶと、三人の少年が現れた。

「【地学の支配者】、ミスト!!」

「【生物学の覇者】、ビオル!」

「か、【化学の不死者】、ケルン……」

「「「我ら三人揃って……【科学の伝導者】だ!!」」」

 三人揃って香ばしいポーズをとった。しかし口調もポーズも何もかも揃っておらず、揃っているのは台詞くらいのものだった。

「なんだ、ただの痛い奴か」

「あはは、こんな感じの図をどこかで見たような……」

「なんだとぉ!? お前だって転生者なんだから〝これくらい〟想像したりするだろうが!!」

 【地学の支配者】ミストが言った言葉に【生物学の覇者】ビオルは堂々と腕を組んで頷き、【化学の不死者】ケルンは少し顔を赤らめてコクリと頷いた。

「……俺はただの数学オタクなだけでお前らみたいな趣味は持ち併せていない」

「いやいやいや! 異世界だぞ、少しはそういう想像をしたりしないのか!?」

「断じて一度もないな」

「無い、かな……? それよりもその、戦隊ものみたいなポーズをとってて恥ずかしくはないの?」

「……そりゃ、恥ずかしいに決まってるよ」

 香ばしいポーズをとって硬直していた【化学の不死者】ケルンは頷いた。

「け、ケルンお前……! 俺たちを裏切る気か!? おい! ビオル、〝あれ〟をやれっ!!」

「オーケー! オンドゥルルラギッタンディスカー!?」

「……滑舌が悪くなってるな。一度病院に行ったらどうだ? この世界に病院があるかは知らないが」

「っ……!? っるっせえよ! ネタだよ、ネタ!! そんなのも通じないのかよ……!?」

 ビオルは渾身の滑舌ネタを披露したのだが、グラルに真面目に返されてしまいグラルを怒鳴る。

「お前ら、頭……大丈夫か?」

「あー駄目だこいつ! ネタが通じないとか、一体どんな頭してんだ……!?」

「ずっと数学漬けの毎日だったからな……!」

「ビオル、言葉ではきっと勝てないんじゃないかな? それに……なんか可哀想だよ」

「誰が可哀想に見えるんだ?」

 不意にケルンが口を滑らせてしまう。すると、抑揚のない口調で言葉を発するグラルの姿がケルンの前に現れた。

「なあ、一体誰が可哀想なんだ? 一応初デートで死んだんだから少なくともお前らよりかはマシだ」

「は? お前……! それでリア充だったのか!?」

「世界とはどうしてこんなにも残酷なんだろうか……」

「ちょっ、皆! 落ち着いて!!」

「──もう! うるさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

 収拾つかなくなりかけたところをアイズの一喝で全て沈黙に変わる。

「「「「……す、すいません」」」」

 四人揃って【科学の伝導者】はアイズに謝罪した。

「ふぅ……やっと話ができます。では【物理学の勇者】には【加重魔法】を、【地学の支配者】には【化石魔法】を、【生物学の覇者】には【変性魔法】を、【化学の不死者】には【粒子魔法】を授けます。そして、【数学の賢者】には【積分魔法】を授けましょう……!」

 ピタラスの言葉に五人全員が頷いた。

 そして順番に虹色の光の粒子が集まって一つの大きな光になると胸の中に入り込んでいく。

「それでは、〝ステータス〟と唱えてください!」

「おお、【積分魔法】だ……! これで俺はジェットコースターを積分出来る……!!」


────────────────────


グラル・フォン・インテグラ─Lv13


HP:534/534

MP:3125/3125

SP:420/420


称号:【賢者】【エフダッシュ辺境伯次男】【転生者】【数学の探求者】【数学を極めし者】【シスコン】


固有魔法:【積分魔法】


使用可能魔法:【積分魔法(不定積分)】


状態:【疾風迅雷付与】


────────────────────


(ステータスが前よりも少し上がってるな……!)

 盗賊との戦いで身体を使ったため、それに応じてレベルとステータスが上昇したのだ。

「おおっ! す、スゲー!!」

「お、おお……!」

「これが異世界……!」

 三馬鹿──もとい、【科学の伝導者】も自身のステータスを見て少し興奮気味であるようだ。その証拠に三人の眼光がギラギラと輝いている。

「おい、アイズ……大丈夫か?」

「えっ!? う、うんん……何でも、ないよ……」

 グラルがアイズに声をかけると、アイズは背筋を跳ねさせて後ろを振り返った。

 彼らとは対照的にアイズは自身のステータスを見て目を輝かせるのではなく、むしろ怯えていたのだ。

「何かヤバいものでも見たのか……?」

「…………」

 アイズは軽く頷いただけで言葉で答えようとはしなかった。

「また今度……会うことが出来たら教えてあげるよ。そのときまでに私は、きっと──」

「……?」

 単純にグラルはアイズを心配しただけだったのだが、アイズの今の言動の理由わけが掴めずに首を傾げた。

「あら? そろそろお別れのようですね……。では最高に、皆さんが学問を発展させることを期待していますよ?」

 五人は頷き返すと、たちまち五人の意識は“色の無い光”に包まれるのだった。



※※※



「い、今の激しい光は、一体……!」

 ディクスが目に手をかざして光が収まると手を下に下ろした。

「まさか……! ピタラス様に会ったのか!?」

「まあ、会うには会ったな」

「グラル様! 実際にピタラスと会ったのならば、ピタラス様はどのようなお姿をしていたのでしょうか? やはりお美しいのでしょうか……?」

「一気に捲し立てられるとかなり困るんだが……。それよりも洗礼が終わったのならばここを後にしてもいいんだよな……? 帰って早く父さんに対してすべきことがあるからな」

「せ、せめて少しだけでもお話を!」

「……時間の無駄だな」

 そしてグラルは司祭の真横を素通りして洗礼の間を後にしたのだった。

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