マイナス7(5)
僕とタカと芹奈はA組で、ケイゴとミキは隣のB組だ。もっとも、どっちだったか記憶があやふやだったので、それとなく芹奈の後にくっついていったのだけど。
自分の席を見つけ出して座ると、前後のクラスメイトとの距離の近さに少し戸惑う。大人になるとパーソナルスペースって広くなるんだな。だからこそ、その中に入れる恋人がそれだけ特別な存在になるんだろう。
それに比べると、高校時代の異性関係っていうのは、まだどこか曖昧だと思う。
机の横に下げたままになっていたカバンの中に、当時使っていた財布とケータイが入っているのを確認する。そうそう、これもわざわざ学校まで来た理由のひとつだった。現代人として(微妙に七年ほど未来人だけど)この二つがないと行動が大きく制限されてしまう。
そのまま真面目に一日授業を受けてみた。24歳の学力で優位に立つどころか、受験の時にあれほど苦労しておぼえた公式や英単語をほとんど忘れてしまっているのは少しショックだった。
社内や顧客相手にプレゼンした経験があると、教師たちが1時間の授業のためにどれほどの準備をしているかもわかるようになった。給料がどれほどかは知らないけど、たぶん割に合ってないんじゃないかな……。
歴史や地理の教科書をパラパラと見た感じでも、僕の知っている世界と特に違いはなさそうだった。
授業が終わると、それぞれ部活だの他の友達との付き合いだのがあるので、帰りはみなバラバラだ。タカを捕まえてこの“タイムリープ”現象について相談してみようかとも思ったけど、もう少し様子を見ることにした。
あらためて追体験したこの学校生活があまりにもリアルで自然すぎて、あえて避けていたもうひとつの可能性についてどうしても考えてしまうからだった。
それはつまり、僕は最初からずっと高校二年生のままで、その後の七年間――大学生活も、芹奈と付き合っていたことも、社会人になったのもぜんぶ白昼夢のような妄想でしかないという可能性だ。
そんな長大で生々しい妄想がありえるのかどうかはわからない。でも少なくとも、時空を超えたとかいうよりは、はるかに合理的に説明がついてしまう。
両親にももちろん話せやしない。息子の頭がおかしくなってしまったのかと心配されるだけで、七年後の未来に戻る方法を真剣に考えてくれるとはとても思えないし、僕だってそんな親はちょっとイヤだ。
僕自身でさえ、僕が正常だとは断言できない。僕が知っている未来を証明してくれる者は、ここには誰もいないのだから。
そして、そもそも考えなくてはいけないことがもうひとつ。
――僕は本当に、あの七年後の世界に戻りたいのかな?
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