課題9 「一人称にする」

課題

  「一人称にする」


 初めてのダンジョン探索を経験し、無事に帰還した治癒師の少女が宿屋に戻ってきた。

 彼女は部屋に入るなり、ベッドに倒れこんだ。

 大きな失敗をやらかしたことを悔やんで、枕で声を殺しながら泣いた。



作品


 やらかしてしまった。

 宿屋に戻ると受付のおじさんにあいさつもせず、自分の部屋に戻った。

 はぁ。息を吐くたびに、ため息となってしまう。

 何もする気力がない。そのままベッドに倒れこんだ。


 この世界に来て、冒険者になって、やっと二人の女性の仲間を見つけて、初めてのダンジョン。大事な大事な最初の探索。準備は万全に整えていた……と思ったのに、回復の薬を買うのを忘れていたとは。


 仲間二人は気にしないでいいよと言ってくれたけど、ダンジョンから出て別れるときは、二人とも無言だったし。今思い返せば、リーダー気取りし過ぎたのかも。自分がしっかりやらなければ、と意気込み過ぎて空回りしている自覚は少しあった。女の子だけのパーティを組むという目標がダメだったのだろうか?

 もう明日は来てくれないよね、さすがに……


 この先どうしよう。

 女の子だけのパーティを作る気力は、もうないかも。男リーダーのパーティに入れてもらい、地味に治癒師をしてようか。

 ……でもそれって、わたしがやりたかったことじゃねいよね。


 そう考えてると、何だか涙が出てきた。

 「ウッ……ウッ……」

 今はこの枕に私の涙も声も、全部吐き出してしまおう。

 このまま寝て、明日にまた考えよう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る