課題6 「敵ボスを不気味に描写する」

課題

  「敵ボスを不気味に描写する」

 

 男チッカは、敵ボスの住む街へと入った。

 チッカは偵察員である。

 チッカは敵ボスのよく行く酒場へと行った。

 そこでボスを見つけた。



作品


 チッカは酒場へと入り、カウンターについた。視線を感じる。平然をよそおいウイスキーを注文する。

 「お客さん、どこから来たんだ」

 太った主人らしき男が問いかける。

 少し間をおいてチッカは「隣の国の首都からだ」と、本当のことを言った。

 酒場が一瞬静まったような気がした。当然だ。盗賊の首領がこの国を支配するようになってからというもの、わが国とは一触即発の事態が続いている。隣国の者と知られたなら、そりゃ敵意を買う。

 しかし、直観でウソは危険だと感じたのだ。ウソを瞬時に見抜く能力者は案外多くいる。世間で知られているよりもずっと。チッカはウイスキーを舐める。いい酒である。

 この国の盗賊団は、密造酒を作って金を稼ぎ、その金で戦力をかき集めて国を乗っ取ったのだ。しかし当時の盗賊団は、国を乗っ取れるほどの戦力は持っていなかった、そうわが国は分析していた。何か優れた「能力」を持った者が盗賊にいる。だから国すら支配できた。その首謀者の候補が、この盗賊団の首領だ。

 盗賊たちを率いている、ボスに関する情報を手に入れる。それがチッカの今回の仕事だ。

 ボスは、クラークという名で呼ばれていることだけはわかっている。しかし、わかっているのはそれだけで、容姿はもちろん、能力についてもまったくつかんでいない。酒を一滴も飲まないという情報があるが、そんな人間はいくらでもいるだろうし、参考になりそうもない。


 「何の用事でこの国に?」

 チッカの隣に座ってきたのは、薄汚い爺さんである。ウイスキーグラスを持つ手が、小刻みに震えている。アル中だ。幼い頃のチッカを虐待した父親もアル中だったので、爺さんに強い不快感を抱く。

 「酒さ。俺の国にはないような、いい酒があると聞いたんだね。実際、このウイスキーはうまい」

 決してウソではない。グラスを傾け軽く口に含み、舌で転がせ、のどに流す。スモーキーな香りが鼻へと突き抜けた。いや待てよ。この酒はいくらなんでも良すぎる。かなりの高級品だ。金をどれだけ要求されるのか、チッカは少し不安になった。

 「心配するんじゃねぇ、わしのおごりじゃ」

 隣の爺さんが、チッカの腰をつかんでくる。その瞬間、強烈な寒気がチッカを襲った。腰のつかまれ方が、幼少期に性的虐待を受けたときの父親の手と同じ感触だったのだ。

 無意識に封印していた記憶がよみがえり、チッカの体は硬直し何一つ言葉がでてこない。


 「チッカ、大きくなったじゃないか」

 「アッ……」

 横にいたのは爺さんのはずなのに、そこにはチッカの死んだ父親がいた。

 体が恐怖で震える。父親から逃げようとするが、体が動かなかった。

 「ヤ、ヤメて……」

 

 「ヘッヘッヘッ」という笑い声が響く。酒場中の者がチッカを見て笑っている。

 ふと見ると、隣にいたはずの父親が、今度は見知らぬ紳士になっていた。

 チッカは小便をもらしていた。何の能力だ……そう、ぼんやり思うだけだった。


 「クラーク様、どうぞ」

 店の主人らしき人物が、その男に紅茶を出した。

 




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