課題5 「人物の特徴や性格を際立たせる」

課題

  「人物の特徴や性格を際立たせる」


 戦士ソウタは、仲間にする魔術師を見つけるため、冒険者ギルドにいた。

 同じように魔術師のユキナも、戦士を探すため、ギルドに来ていた。

 ギルド事務員の紹介により、お互い引き合わされた。

 「レベル3戦士、ソウタだ」

 「レベル4魔術師、ユキナ。火属性の攻撃魔法が使える」



作品


 ソウタは冒険者ギルドの事務員に案内されて、一人の女魔術師に引き合わされた。

 「ソウタと申します!」

 彼は気合を入れてお辞儀した。緊張もしていたし、ろくに相手の顔も見ていなかった。だから、顔を上げた瞬間……

 「えっ? まだ子供?」

 あ然としてしまった。身長からして10歳くらいの少女だ。栗色に光る目つきこそ妙に落ち着いているものの、女としての肉体的発達は皆無である。どう見てもガキだ。いくら自分がまだ低レベルの戦士だといっても、子供を紹介されるとは思わなかった。

 「ちょ、ちょっと待ってください事務員さん! さすがにこんな子供とは一緒にパーティは組めませんよ!」

 ソウタはツバを飛ばして訴えた。いずれ冒険者ギルドのトップ戦士となるつもりの自分に、このような扱い。期待しているという言葉はなんだったのか。その言葉を信じていたのに、調子に乗せるために出まかせを言っていたのか。ソウタの手が汗で濡れ、怒りに近い何かが体の底から湧き上がってくる。


 「なんなのコイツ?」

 顔を真っ赤に紅潮させているソウタを指さして、魔術師の少女ユキナが事務員に聞く。その様子は、ワンワンとうるさく吠える子犬に背を向け、友達と話をしているかのように落ち着いていた。

 「ユキナさんとパーティ組む予定の、戦士のソウタどのです」

 「あっそ。でも、わたしはおサルさんを仲間にしたくてココに来たわけじゃないの。強い戦士を探してるのよ」

 「彼はまだレベルは3と低いですが、将来有望な戦士です」

 若い男の事務員は、ユキナにほほえんで続ける。

 「間違いなくトップ級の戦士に育ちますよ。そこのところは、わたしが保証します。そしてソウタどの。このユキナさんもレベル4ながら、すでにかなり強い火属性の魔術を使えます。魔術の成長速度は極めて異例です。ちなみに年齢はソウタどのと同じです」


 「おいガキ、今俺をサル呼ばわりしたな!」 

 事務員の説明も上の空に、ソウタは顔を紅潮させてユキナに詰め寄った。

 「顔がブスなだけかと思えば、性格までブスじゃねえか。この拳一発で、その顔と性格が少しでも直るようにしてやろうか!」

 殴りかかろうとするそぶりを見せるソウタに、事務員の男も魔術師の少女ユキナも全く動揺した様子がない。ユキナに至っては、アクビすらしている。

 「このやろぉ……」

 痛い目を見なければ、わからないようだな。ソウタは少女の顔をかすめる位置に右手の拳を放つ。

 その瞬間、ユキナが杖を向けたかと思うと、ソウタの髪の毛がメラメラと燃え上がったのだ。

 「アチチチチ!」

 ソウタは奇声を上げて床を激しく転げまわり、頭をかきむしる。事務員は表情ひとつ変えず胸のポケットから魔術札を取り出すと、ソウタに向けポイっと投げた。

 シューッ! 

 と、火が消える音が部屋に響いた。

 魔法札が水に変化し、燃え上がるソウタの髪の毛を一瞬で消火したのだ。


 許さねぇ……

 床に伏してずぶ濡れになったうえ、真っ黒こげになったソウタの顔に、ギラギラと怒りを含んだ目が光る。一方ユキナは腕を組んで、軽蔑を隠そうともせずソウタを横目で見下ろしている。

 許さねぇ、許さねぇ、許さねぇ!

 ソウタは前方へと勢いをつけ、瞬時に立ち上がると同時に腰の剣を抜いた。

 「風斬ッ!」

 水平に切り抜いた剣から、風の刃が弧を描いてユキナへと襲っていく。

 「炎鳥!」

 素早く身構えたユキナの杖からは炎が鳥の形となり、風の刃を喰らおうと突進する。


 キーン! と高音の爆発音が鳴ると、部屋中の物が爆発したかのように粉々に壊れて舞い上がった。



 「はぁ、どうしたものか……」

 ハンカチでホコリを払いながら、若い事務員はため息をついた。

 「こうなることは予測できていたのに、どうして上のお方はこの二人を組ませようとするのか」

 


 ホコリのせいで薄暗い中、怒りに満ちたソウタの目と、ユキナの軽蔑の目が、静かに交差していた。


 

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