課題4 「地理設定などの説明を、会話文などを使って読みやすくする」
課題
「地理設定などの説明を、会話文などを使って読みやすくする」
クヴェール国の北の山脈には、複数のグリフォンがいる。そのため、さらに北のフタール国へと行くには、山脈を西か東に遠回りせねばならない。唯一、山脈の下を抜ける坑道があるが、そこはドワーフたちが占拠しており、通行するには彼らに大金を支払う必要があった。
作品
若い女剣士が、村に入った。背中には何やら大きな荷物を背負っている。
「やっとここまで来たか。しかし、これからが本番だ」
そうつぶやいて、視線の先に立ちはだかる山脈を眺める。それはまるで警告を発するかのように、あらわになった地肌がほのかに赤色をおびていた。
女剣士も、樹々の生い茂った緑の山々を期待してはいなかった。どちらかというと、雪が降り積もり暴風が吹き荒れる白い山々を想像して警戒していたのだ。だからその赤々とした山脈の姿には、少し安心したものの得体の知れぬ恐怖も感じていた。
さて、どうやってあの山脈を越えようか。女剣士は胸に手を当てる。そこには書簡を隠し持っていた。ここクヴェール国の王女直筆のものである。この書簡を山脈を超えたフタール国の王に届けなければならない。そう、たとえ我が命に代えてでも、書簡は守り抜かねばならぬ……
ひとりの老人が見えた。やせて、腰をかがめて歩いている。話しやすそうな人物だ、そう女剣士は感じた。
「すまぬ。少し話を聞きたいのだが、時間はあるだろうか」
いくら見すぼらしい老人とはいえ、女剣士は礼を失することはしない。
「……なんじゃ。こんな村に、えらい美人さんが来たのぉ。こりゃぁ、みんなが驚くで」
老人は嫌らしい表情を隠そうともしなかった。
何か変な方向に話が進んでしまいそうだな。そう感じた女剣士は、強引に本題へと移る。
「あの山脈について話を聞きたいのだ。わたしは用事があって、山を越えた先のフタール国へと行かねばならぬ。その行き方を、この村の誰か知ってはいないだろうか」
いきなり老人の表情が、緩やかなものから険しいものへと一変した。
「お前さんは、来ると所を間違えたようじゃ。あの山をよく見ろ。もし目が良ければ、何かが飛んでいるのが見えるかもしれん」
女剣士は言われた通り、老人の視線の方向を凝視する。視力には自信があった。しかし、どこをどう見よというのだ。ここから見る山々は、あまりに離れすぎている。仮に大きな鳥が飛んでいたとしても、とても確認できる距離ではない。
「今ではもうわしの目では見るのが無理じゃが、若い頃にはやつらが飛んでいる姿をしょっちゅう見た。山と空の境界のすぐ近くの、空の方を見るのじゃ。そうすれば奴らを認識しやすい」
確かに、そう女剣士はうなずく。空を背景にしてもう一度山々の輪郭をゆっくりと視線でなぞっていく。すると、見えたのだ。
「何だあれは! この位置から見えるとは、相当でかいぞ!」
何かが飛んでいるのだ。女剣士は驚愕した。
「グリフォンじゃよ。やつらは山脈を支配しとる。これでわかったか。お前さんは来る所を間違えたのじゃよ。山脈を越えるのではなく、西か東へ遠回りして行くのがフタール国へのルートじゃ。むしろ、なぜそれを知らなんだ? 誰かにだまされたか?」
「わ、わたしはとても急いでいるのだ。フタール国に行かねばならない緊急の用がある。それで、一番早くたどり着けるルートはこの村からだと、信頼できる地位の者から聞いたのだ。しかし、これでは……」
女剣士は絶望した。
彼女の目には、数体のグリフォンが確認できた。無理だ……。おそらくその百倍は生息していると考えて間違いない。グリフォンの縄張りに入ったなら、数十体がこの身を狙って襲ってくるだろう。とても勝負になどならない……。
「ふん、なるほど。お前さんの格好を見ると、それなりの者のようじゃ。いや、失礼。わしは、この村の村長をしておった者じゃ。今では隠居したがな」
老人は笑顔を見せる。その表情にはもう嫌らしさは微塵もなく礼儀正しいもので、女剣士もその言葉をすんなり信じることができた。
「そうでしたか、それとは知らず失礼した」
女剣士は深く一礼する。
「いやいや、そうかしこまることはないで。どう考えても、お前さんの方が地位は上じゃ。そうじゃろ?」
女剣士は黙っている。
「それでお前さんの言うこともわかった。ここから、あの山脈を越えるルートは確かにある」
「えっ、あのグリフォンから逃れることのできる道があるのですか?」
「ある。といっても、坑道じゃ。あの山の下を掘って、フタール国へと抜ける坑道がある。じゃがな、そこはドワーフどもが支配しとる」
言葉の通じぬグリフォンより、言葉が通じ人間と交渉があるドワーフの方がいい。女剣士の目に輝きが戻った。
「それでは、ぜひその坑道の入り口を教えていただきたい」
「教えるのは簡単じゃが、タダでは入れぬぞ。いや、わしらが金をせびろうとするのではない」
老人は続ける。
「ドワーフが膨大な通行料を要求するのじゃよ。普通の額ではないぞ。ドワーフどもは、金に困ってはないからな。奴らとしては、内部を探られる怖れを侵してまで他種族を招き入れることはせぬということじゃ。我ら人間もドワーフにはそれなりに信頼されているとは言え、まだ坑道を見せてくれるまでには至っていない。どうしても坑道を通るのなら、信用に足る人物を証明するものとしてそれなりの金額が必要じゃし、もちろん道中は目隠しされるじゃろうで」
老人の説明で、女剣士は自分の背負っているモノの意味がやっと理解できた。
彼女はその背中の荷物をズシリと置き、中身を老人に見せた。
「このお金は、必要になるからと持たされたものです。これで足りるでしょうか」
老人は驚いた。これほどの量の金貨は、これまで見たこともない。
「そうか。これほどまでに重大な任務なのじゃな。すまなかった、早急に対応すべきじゃったが、わしがぼんやりしすぎとったようじゃ」
老人は女剣士に背を向けて、スクッと背中を伸ばしたかと思うと、村中に響くかのような声で叫んだ。
「おぉい! 誰か村長と参謀に知らせてくれぇ! 緊急事態じゃ! 今すぐわしの家の前に来るようにとな!」
その大声で驚く女剣士に、老人は振り返りやさしく微笑んだ。
女剣士も、思わずニコリと笑ったのだった。
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