【95】不死人の酒盛り

 ――――傭兵団は、大陸一だと言われるほどに大きくなった。

 

 未だに団長の地位にあった僕は、それを後進に譲って傭兵団を離れた。ご丁寧にも〝名誉団長〟とかいう称号まで貰って。

 まぁ、〝名誉副団長〟になったシェルリーゼは怒ってるけど。『副団長の名誉とはなんじゃ!』みたいな。いや、付けたヤツに怒ってくれ。


 別に傭兵稼業が飽きたわけじゃない。今でも仕事は程々にこなしている。

 ただ、約束の日が数年後に迫っている今、あまりそちらに精力を傾けるわけにもいかないんだ――――




「――――何じゃ、いきなり酒を飲もうなどと。二人だけで飲むのは数十年ぶりかの」


 不思議そうな顔でアステルの前の席に座るシェルリーゼ。グラスに酒を注ぎながら、アステルは笑った。


「仕方ないだろ。思い出話に浸れるような知り合いは、もうお前しかいないんだ」

「ふむ。まぁそれに関しては私も同じじゃな」


 グラスに注がれた酒をくるくる回しながら、シェルリーゼは愉快そうに笑う。


「いやぁ、ここまで長かったのぅ。おぬしが私の神々しいオーラに気圧されていた顔が、今も目に浮かぶわ」

「バカ言うな。神様って名乗るとか頭大丈夫か、って思ってただけだ」

「照れるな照れるな。私には全て分かっておるぞ?」

「……はぁ」


 相変わらず幸せな脳みそだな、とアステルは口の中だけで呟いた。


「傭兵団を立ち上げ、色んな事があったな。なぁ、アネゴ?」

「むぅ……あやつら、一生許さぬぞ。あやつらが定着させたせいで、今も私はアネゴ呼ばわりなんじゃからな」

「向こうの一生はとっくに終わってるんだ。許してやれよ」


 おぬしには私の気持ちは分からぬよ、とすねた様子で言うシェルリーゼ。


「……たくさん、死んだ。傭兵団なんだから当たり前かもしれないけど、出来れば誰一人死なせたくなかった」

「欲張りじゃのう。不滅の魔剣士に助けられぬなら、ほとんどの人間には助けられないじゃろうに」

「それでも、だ」


 顔を伏せるアステル。と、シェルリーゼがばんとテーブルを叩いた。


「えぇい、やめんか! こういう話は酒を飲みながらの肴代わりに話すもんじゃろうが。何で一滴も飲まないうちに喋りたくっておるのじゃ!」

「あぁ、悪い……って待て。先に話を始めたのはそっちだろ。なに責任転嫁してんだよ」

「何の事かのぉ? まぁよい、さっさと飲むぞ!」


 グラスを持つシェルリーゼ。アステルもそれに続き、


「乾杯」

「乾杯!」


 約束の日は、すぐそこだ――――

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