【78】絆、繋がり、そして、枷

 ――――フィリアス傭兵団は、二つに分かれた。


 王国のレジスタンスに加担し、あの愚王を殺して新たな王が生まれた日。僕達の働きを認めてくれた新王の提案により、騎士団と傭兵団に分けたんだ。


 団員一人一人の希望を聞いて振り分け、騎士団は王国の為に、傭兵団は以前と同じように気ままな傭兵稼業に戻る。僕とシェルリーゼはもちろん傭兵団に残った。騎士団長なんて柄じゃない。


 あの日の失策を胸に刻み、僕は傭兵団を更に大きくした。もう、下卑た思惑に振り回されないように――――




「――――そう、ですか……」

「ああ、すまない。本当に、すまない」


 アステルは腰を折る。と、女性も恐縮したように頭を下げた。


「い、いえ! 団長さんが謝る事じゃないですから! その、し、失礼しました!」


 そう言って女性は団長室を出ていく。アステルはドアが閉まる様を悲しげな瞳で見ていた。


「ふむ、よかったのかの?」


 と、後ろから声。


「……あのさ。僕の私室にいきなり出てくるのはやめろよ」

「何を今さら。私とおぬしの仲じゃろ?」


 悪びれもせずに言う。アステルは溜息を吐いた。


「……いいんだよ。不老不死のバケモノと結ばれたところで、彼女は幸せになれない。けっして」

「幸せの形は人それぞれじゃろうに。それに、おぬしの不老不死は仮初のモノに過ぎぬ。望むなら今ここで」

「何度も言わせるなよ。僕は、死ねない」

「そうかの。ま、今ここで不老不死を取り上げたらこれまでの年月分の老いが一気にのしかかってきて、老衰死するのがオチなのじゃがな」

「……しれっと怖い事言うなよ」


 その様子を想像してゾッとする。シェルリーゼは口の端を吊り上げた。


「まったく、罪作りな男よの。そうやって何人の女を泣かしてきたのかのぉ」

「よく言う。お前も何度も求婚されてるだろ。古臭い口調のガキに欲情する感性が僕には全く分からない」

「その感性が古いのじゃよ。中身はもうジジイじゃからなぁ」

「うっさいババア」


 いつものように軽口を交わし、アステルはもう一度溜息を吐く。


(フィリアを助けたとして、僕はどうなるんだろう……)


 この不老不死はシェルリーゼに与えられたモノ。彼女の力が弱まれば、さっき言われたようにあっという間に老衰死する事だって考えられる。


 それはフィリアも同じだ。彼女の体が朽ちずに眠り続けられているのは、皮肉にも邪神の力が逆に流れ込んでいるためらしい。


(……まぁ、今考えてもしょうがないけど)


まだあと、20年以上もある。アステルは思考を打ち切った――――

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