【56】満ち溢れる死の匂い
――――順調に傭兵団は名を上げていった。僕にとっては強くなることが一番なので、傭兵団は正直二の次だったんだけど、やっぱり愛着みたいなものは出てくる。
彼らの為に、そして何よりフィリアの為に、強くなろうと決めた。
そして、気付けばもう50年。傭兵団の団員はどんどん入れ替わり、膨れ上がっていく。元団員が結婚し、その子供が傭兵団に入ったりする事もままあった。
ある時、フィリアス傭兵団はとある王国からの依頼を受ける。何でも、王国が封印を施していた魔物が目覚めるので、これを機に一気に駆除したい、と。
レジスタンスが多数存在するような、あまり良い噂を聞かない国だったので、少し迷った。けど、封印が弱まりかけている、という部分にフィリアが重なり、放っておけなかった。
そして僕は、この選択を数十年に亘って後悔する事になる――――
――――まさしく、地獄絵図だった。
辺りには、死体、死体、死体の群れ。大切に育ててきた傭兵団の面々が、血だまりの中に倒れ伏している。
この日の為に選り抜いた精鋭の団員、200人。立っている者は、もはやいない。
「ぐっ……!?」
「シェルリーゼ!」
止むことのない魔物の大群に押し込まれ、シェルリーゼの腹が抉られた。飛び散る鮮血が血の海に混じる。
不老不死たる彼女はすぐに傷を治したが、明らかに顔色が悪い。無理もない。これまで、幾度となく死んでいるのだから。
「おい、大丈夫か!」
「だい、じょうぶじゃ……この程度で死ねたら、苦労はせんよ」
自嘲交じりに笑い、彼女は剣を構える。アステルは歯を軋った。
「くそ……くそっ! 王国のヤツら、ふざけやがって!」
これはもう、傭兵団一つで対応できる規模じゃない。恐らく、自国の兵力の消耗を嫌い、流れの傭兵団を捨て駒に魔物の戦力を削ろうとしたのだ。
許さない。許せない。大切な仲間を死に追いやったヤツらが。大切な仲間を死地に連れてきた自分が。
「なまじ死ねぬ身ゆえ、少し鈍感になっておったのかもな。私達は……」
シェルリーゼは亡き団員達を見回し、目を瞑る。けれどすぐに見開き、魔物達を見据えた。
「前を向け。こやつらは私達を逃がす気など毛頭ないじゃろう」
「ああ……分かってる。弔いも、復讐も、後だ!」
かくして、魔物の死骸がうず高く積まれたその一ヵ月後、とある小王国の愚王が何者かによって惨殺される事となる――――
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