【12】フィリアス傭兵団

 ――――僕は旅に出た。シェルリーゼも付いてきた。


「おぬしが万が一にも邪神を倒せたら私も助かるでな。それに、今のおぬしは不老不死とは言えひよっこ同然。野盗に出会っては殺され出会っては殺されを続けていては、いずれ見世物小屋に売られるぞ?」


 確かに、死ねないという事はそういうリスクもある。僕は闘う力を身に着ける為に傭兵となり、シェルリーゼの手ほどきを受けて魔力を宿して闘う剣技、〝魔剣〟の修行に明け暮れた。


 幸いにも、僕にはそちらの才能があったらしい。傭兵稼業で少しずつ名を上げていった僕は、10年後には自分の傭兵団を持つまでになった。そして――――




「――――だからとっとと不滅の魔剣士さんを出せ、っつってんだよ!」


 とある鉱山街の、とある場末の酒場。汚らしい声が店の中を木霊する。

 見るからにごろつきな大柄な男は、酒を左手に、剣を右手に哄笑する。


「不老不死だぁ? バカバカしい! この俺がぶち殺してやるよ!」

「あのさぁ、ウチの傭兵団は猿を飼うサーカスじゃないんだよ」


 男と向き合う、褐色の肌の女性が溜息交じりに言う。んだとぉ、と男が喧嘩腰で言う。


「まずはおめぇから殺してやろうか? この売女ばいたが!」

「なんだ、相変わらず騒がしいな」


 その時、アステルが奥の扉から姿を現した。


「団長!」「団長だ!」


 遠巻きにそれらを見ていた者達が口々に言う。アステルは酒場の中を見回し、大体の状況を察したようだった。


「はぁ、そろそろ新しい団員の募集条件を絞るか……」


 かつ、かつ、と歩むアステル。と、男が露骨に怒りを露わにした。


「何だぁ? こいつが不滅の魔剣士? ただのガキじゃねぇか!」


 そう、アステルの容姿はあの時と同じまま。14歳の少年でしかない。

 だが、少年は大男を前にしても怯まない。


「デケぇ声してんな、お前。傭兵団よりも聖歌隊にでも応募してみたらどうだ? まぁツラだけで落とされるだろうが」

「てめっ、ふざけんな!」


 剣先を向ける男。だが、アステルはその歩みを止めない。

 そして、ずぶり、と剣先がアステルの左胸に沈み込んだ。


「……あ? おま、何、して……」


 驚きで動けない男。アステルは、笑う。


「もうちょっとで心臓だぜ? ほら、早く殺してくれよ」

「く、あ……や、やってられるかちくしょう!」


 男は剣を放り出し、人混みをかき分けて酒場を飛び出していった。と、酒場の中がにわかに活気を帯び始める。


「ちぇっ、今日のは心臓まで刺す度胸すらねぇのか。根性無しが」

「剣を置いて逃げ出す、に賭けてたヤツに酒奢ってやれよ!」


 アステルは自身の傭兵団、フィリアス傭兵団の団員達を見回して苦笑する。


「おい、団長をダシに賭けるなよお前ら。毎度心臓貫かれる身になれ」

「まぁそう言うでない」


 と、シェルリーゼが背後から。相変わらず神出鬼没だ。


「おお、アネゴだ! アネゴも来たぜ!」

「やかましい! 誰がアネゴじゃ! 副団長と呼ばんか!」

『へい! 副団長のアネゴ!』

「こやつら……」


 歯を軋るシェルリーゼ。アステルも笑った。


「はは……ま、酒でも飲もうぜ、アネゴ」

「ふん、14歳のガキはミルクでも飲んでおれ」

「生憎、心は成人してる。お前と同じでな」


 傭兵団の夜は、今日も騒がしく更けていく――――


 




 

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