黒薔薇
戦慄たかお
第1話 出会い
衝撃だった。
そいつは誰にも流されることなく、色とりどりの花が咲き誇る花畑の中に生えている黒薔薇のようだった。
高校の入学式。ありきたりな例えをすれば希望に溢れ、誰しもが期待に胸を弾ませるイベントといって良い。
例に漏れず俺 山田太郎も気持ちが高揚し、心なしか学校へ向かう足取りも軽くなっている気がする。
顔は下の上 身長もそこそこ、学力も普通 特にこれといった特技もなく至って普通の面白みもない16歳の男だが、それでも何かあるんじゃないかと自然と口角が緩んでしまう。
少しくらい自惚れてもいいじゃないか。
この名前のせいでどれだけ苦労したと思ってるんだ。
俺は「山田 太郎」と言う自分の名前のせいで中学時代に少しばかり苦い思いをした。
まあその話は長くなるので置いとこう。
「よう!相棒!」
あれこれと考えていたら後ろから肩を叩かれた。
「あぁ。かつきか。急に叩かれたからびっくりしたよ。」
朝一とは思えないテンションのこの男の名前は鈴鹿 克己
中学からの付き合いで、広く浅く付き合い、あまり仲の良い友達がいない俺にとっては数少ない本音で喋れる友達だ。
「すまんすまん!入学式ってことだからテンション上がっちゃってね!」
「お前の脳内花畑はいつもだろうが。」
「おぉ。朝から言うねぇ。まあ今日から合法的にJKと触れ合えるって考えたらこんなテンションになるだろ!」
「お巡りさん。危険人物はこちらです。」
119を打ち終わり、着信ボタンを押そうとしたところで学校についてしまった。
こいつを警察につき出すのはまたの機会になりそうだ。残念。
「それよりクラスに可愛いコいねえかな~。」
「お前の脳内は九割女か。」
「でもよ太郎!一年間やっていく上で大事なことだろ?!」
「まあ1つの要素ではあるがな。」
「だろ?やっぱ太郎も心の中ではむっつりなんだな~」
「うるせえ。通報するぞ。」
かつきとは入学前のクラス発表で同じクラスと分かった。腐れ縁ってやつだ。まあこの下らないやり取りを一年間もすると考えたら笑けてくるが嫌いじゃない。
そうこうしている内に教室に付いた。
少し遅い時間帯に来たのでもう結構な人が着いているようだ。
扉を開けて教室に入ると案の定人が行き交い、ちょっとした祭り状態になっていた。
「おっす!俺は鈴鹿克己!一年間よろしくぅ!」
なんてこと思っている間にかつきは皆が集まっている輪に入っていった。
あいつは確かに能天気な性格をしているがああやって人の輪に入り、いつの間にか皆を引きつけ中心となっている。俺にはなく単純に尊敬する所だ。
やはり皆最初が肝心と思っているわけで、我先にと自分をアピールし、どうにかして自分の居場所を確立しようと躍起になっている。
その事を馬鹿にしているわけではない。逆にこのような普段とない明るい雰囲気に一種の好感を持てる。
だから俺もこうしちゃいれないなと思い皆の輪に入ろうとした矢先に1つこの教室の異変に気がついた。
そこだけ空間が空いているのである。
教室内に人が溢れ、行き交う中にまるで地雷で埋められているんじゃないかと言うほどに半径二メートル以内に誰も入らないのである。
その円の真ん中にそいつはいた。
私服制の学校のため、各々が思いのまま派手に着飾り華美な髪色をし、色をとりどりの空間の中に、黒色のセーラー服を着て腰まではあるであろう毛染めなど知らないである漆黒の髪色をした全身黒のそいつがいたのである。
それだけなら真面目な学生で終わるのだが、皆が希望に胸膨らみ輝いた目をしてる中、そいつだけは何か諦めたような、達観いや諦観したような目をしており、それどころか群れを作りたがる学生たちを軽蔑しているとさえ取れる目をしていたのだ。
実際誰にも口を聞くそぶりを見せず、半径二メートルの絶対領域に意を決して入って喋りかけた勇者達にも目もくれず無視を貫いていた。
そして絶対的にそいつの存在感を無視できない要素があった。
二度見どころか三度見するくらいの美人だったのだ。
つり目気味ながらもぱっちりとした目に細く筋の通った鼻、紅く艶のある唇に髪色と対照に白く透き通った肌。これだけでも美人と定義するには十分の要素だ。
そいつは孤高という生ぬるい言葉ではなく「異質」という言葉が似合うほどこの空間とかけ離れた存在であった。
黒薔薇 戦慄たかお @koko622
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