第4話 アニマノイド。

 目の前の彼女の顔がくしゃっと歪む。


 今にも泣き出しそうな顔で、


「ひどいよタケル……」


 そう呟くと、ばっと振り返りそのまま乱暴にドアを開け駆け出す彼女。


 ああ。


 一瞬何が起きたか分からず呆然としてしまった僕は、それが取り返しのつかない最悪の結果をもたらしてしまった事に気付き、慌てて彼女を追いかけた。


 しばらく行ったところで追いついた。


 彼女は足を止め、それまで堪えていた嗚咽を漏らし。


 泣きながらトボトボと歩き出す。


 僕にはその後をゆっくりとついて行くことしかもうできなかった。




 僕はアオ。


 狼モチーフのヒューマノイド。それも愛玩種、だ。


 タケルの十歳のときのクリスマスプレゼントとして用意された僕。

 それから三年。まあまあ仲良くやって来たかな。


 先輩のたぬきモチーフのみどりはまん丸顔のお嬢様風。

 彼女は五歳の誕生日プレゼントだったというのが自慢。タケルの幼馴染として買ったのだと母親が言っていた。



 そう。


 僕たちは愛玩種。アニマルモチーフヒューマノイド。通称、アニマノイド。


 バイオテクノロジーで創造された肉体に、アンドロイド用に開発された最新AIを搭載してる。完全自律思考型のヒューマノイドだ。


 人間の寂しさを埋めるために開発された僕ら。


 もちろん僕らだけじゃない、昔ながらのペット型ロボット型アンドロイド型などなど、いろんな愛玩種がおもちゃ屋さんで売られてる。


 そんな中でも僕らはひときわ人気が高い。感情が完全に人間と同等だとして愛玩種擁護法ではかなり手厚く保護されている。人権みたいなものに近い権利まで認められていたりもするのだ。




 ぼくらは、恋もする。


 ふつうに買主以外の人間とも接する事ができる。


 でも。


 それでもぼくらは人間じゃ、ないのだ。


 みゃーこ。


 タケルはダメだよ……。




 商店街を抜けしばらく行くと昔ながら風な垣根のあるお宅があった。


 人口が減り土地が余ったせいか、土地は全ての希望者に分け与えられることとなった。

 そこに前世紀後半にあったアニメの様なおうちを再現して住んでいる人も多い。


 みゃーこのお家はそんな縁側のあるノスタルジックなおうち。


 ご主人のおじいさんの膝で甘えるみゃーこ。


 そのうち寝てしまった彼女をゆっくり座布団の上に残しておじいさんは居間に入って行った。


 僕は……。



 彼女が起きるまで、その寝顔を見つめることにしたのだった。

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