最終話 紫坂尚人
俺はサイコロを投げた。サイコロはコロコロと回転をしながら、地面へと落下した。地面を数回転がってからサイコロは止まった。
サイコロの目は二だった。一マス、ニマスと進んで足を止めた。視線を下げて文章を読んでいく。そこには『男に財布をとられる』と書かれていた。
シュバッ、と音がして男が現れた。
「…………」
男は無言で近づいてきてトランクスに差してある財布を取った。シュバッ、っと音がして男は消えた。
「何も言わずに取っていきやがった。あの野郎、少しは会話してやろうという気持ちはないのか、まったく」
「……財布を取られるのは別にいいんだね。お兄さん」
深雪がなぜか呆れた表情で見てきた。
「ああ、金なら銀行に預けてるし、カードも家に置いてあるからな。二万円お前にやったから残り五千円しか入ってないしな」
「へえ~。尚人は財布に二万五千円入れてたんだ。多いのか少ないのかよくわからないね」
「今頃これぽっちしか入ってないのかと嘆いていることだろう」
俺は男のがっかりした姿を想像して笑った。
「あっ、悪い笑みを浮かべてる」
深雪は笑った。お前も悪い笑みを浮かべてるじゃねえか。
気を取り直して俺はサイコロを投げた。サイコロはコロコロと回転をしながら、地面に落下する。地面を数回転がって止まった。
サイコロの目は三だった。一マス、ニマス、三マスと進んで足を止めた。視線を下げて文章を読んでいく。そこには『女に右腹をナイフで刺され、ぐりぐりされる』と書かれていた。
シュバッ、と音がしてナイフを握った女が現れた。
「覚悟するがいいわ」
女はやたらと甲高い声を上げると、全速力でこちらに向かってきた。
俺は慌てて逃げようとしたが、時すでに遅く女は目の前にいた。
「死んで詫びろ」
何の事柄についてだ? 女は俺の右腹をナイフで刺し、激痛が走った。
女はナイフを動かし、右腹を抉ってくる。
「痛っ!」
あまりの激痛に甲高い声を上げてしまった。
「真似するな!」
女は俺をギロリと睨み付けて怒鳴った。真似しようと思ってしたわけじゃない。
俺は女の腹を思いっきり蹴っ飛ばした。女はナイフを俺の右腹に残したまま地面に倒れる。ナイフを抜き取ると、ちゃちい布で押さえつけた。ちゃちい布が役に立った。
「何するの! 痛いじゃない!」
「俺の方が痛えわ。刺されてるんだからな」
「そんなの知ったことじゃないわ」
女はまるで自分が被害者かのような顔で叫んだ。
「目的は果たしたから帰らしてもらうわ」
シュバッ、と音がして女は姿を消した。
「おい、ナイフ忘れてるぞ……ってもう遅えな」
持て余したナイフをどうするか考える。持って帰るか。あっても邪魔になんねえしな。
「ふっふっふ。ちゃちい布が役に立ったでしょ。私はこうなる事を見越して、お兄さんにそれを……」
「さて、先に進もうか」
「酷い! 最後まで言わせてよ! 割り込みお兄さん」
「深雪がサイコロ投げろ。両手が塞がってから」
深雪の前まで足でサイコロを押し出した。
☆☆
深雪はサイコロを投げた。サイコロはコロコロと回転をしながら、地面に落下した。地面を数回転がって止まった。
「三マスだよ。姉ちゃん、お兄さん」
一マス、ニマス、三マス、と進んで足を止めた。視線を下げて文章を読んでいく。そこには『ガラクタを高価な物と偽る幼い少女が物々交換を要求してくる』と書かれていた。
シュバッ、と音がして幼い少女が現れた。
「このお皿は高価なの。十万はするの。でも特別に現金ではなく物と交換してあげるの。私っていい子なの」
少女が持っているのはゴミ置き場から拾ってきたのかと思うほど汚くひび割れているお皿だった。どう見ても安物だ。あと自分でいい子って言うな。媚びていると思われるぞ。
「これは今じゃないと手に入らないの。そのくらい高価なの。だから早く物を渡すの」
少女は深雪に向かって手を出すと、物を促した。俺は深雪の耳元に口を寄せて水晶玉とナイフを渡すように言った。深雪はこくりと頷いた。
「この水晶玉とナイフをあげる」
深雪は俺と歩美から受け取った水晶玉とナイフを少女に差し出した。少女は受け取ると、深雪にお皿を渡した。
「何か黄ばんでいるし血糊が付着しているけど、よしとするの。洗えば使えるの」
シュバッ、と音がして少女は消えた。
「どんな使い方をすれば、そんなに汚くなるんだろうね」
深雪がお皿を指差して言った。
「お前が言うな。汚さは水晶玉とどっこいどっこいだ」
「ひび割れてないだけ私の方がまだましだよ」
深雪は胸を張った。威張るなよ。
☆☆
「アイテムカードそろそろ使うか」
「そうだね。使おう」
歩美が同意してくれた。
「深雪」
俺は深雪にアイテムを使うように促した。
「わかったよ、お兄さん」
深雪は頷き、アイテムカードを使った。直後、サイコロが現れる。
「うんしょ」
深雪は二個のサイコロを抱えて投げた。二個のサイコロはコロコロと回転をしながら、地面へと落下する。地面を数回転がって止まった。
「八マスだよ。お姉ちゃん、お兄さん」
一マス、ニマス、三マス……と進んで、八マス目まで来たところで足を止めた。
目の前には二階建ての一軒家が建っている。
「これが俺の家だ」
鍵を開けて、歩美と深雪に家の中に入るよう促す。歩美と深雪は家の中に入っていく。俺も後に続き、鍵をかけた。
「ゆっくりくつろいでくれ」
俺はそう言い残し、二階へ上がると、部屋に入った。部屋に入るなり、俺は怪我の手当てをして服を着た。それから部屋に置きっぱなしにしていた携帯電話を取り、ある方へ電話した。
『尚人か。何だね?』
しわがれた声が携帯電話の向こうから聞こえた。
「王様、ご報告です。
『そうか。ご苦労。明日も頼んだよ』
「お任せください」
俺は通話を切った。
「ふぅ」
俺はため息をつき、耳に装着し髪の毛で隠していた小型のワープ装置を取り外した。王様の住むお城まではこれを使って行っているから楽だが、帰りは歩かなくてはいけないから面倒くさい。それが
俺は部屋を出ると、一階に下り、リビングに向かった。
歩美と深雪は楽しそうに談笑していた。
「あっ、尚人」
「お兄さん」
歩美と深雪は手を振ってきた。俺は軽く振り返しながら、二人の近くに寄っていく。
――これからの毎日に気分を抑揚させながら。
もしもこの世がスゴロクだったら 神通百力 @zintsuhyakuriki
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