勇者に幼馴染が盗られそうなので本気出す
Ast
第1話
「シグ、朝」
声が聞こえたと同時にぺちぺちと頬を叩かれる。
「起きた?」
「……起きた。おはよう」
「ん、おはよう」
「ユーちゃん今日は早起きだね」
いつもは俺が先に起きるのだが、珍しいことに今日はユーちゃんが先に起きたようだ。
「違う、シグがいつもより遅い」
「え?」
「もう、お昼」
「まじか」
「ん」
どうやらユーちゃんが早起きしたわけではなく、俺が寝坊したようだ。
といっても、今はど田舎スローライフだ。前世のように時間に追われることはあまりない。
「お昼ご飯作った、食べる?」
「ユーちゃんが作ってくれたんだ、ありがとう」
ユーちゃんの白銀の頭をなでる。ユーちゃんは頭をなでられるのが好きなようで、なでると嬉しそうな顔をする。
「ん。シグママと一緒に」
母さんと一緒に作ってくれたようだ。
「ユーちゃんは食べたの?」
「シグと一緒に食べる」
「そっかじゃあ食べにいこうか」
「ん」
顔を洗ってからリビングに移動すると母さんがいた。
「母さんおはよう」
「やっと起きてきたのね。こんな時間まで寝てるなんて珍しいわね」
「俺もびっくりだよ。……いただきます」
椅子に座り用意されているご飯を食べる。ユーちゃんも隣に座り食べ始める。
「シグ、美味しい?」
「すごく美味しいよ」
「ん、よかった。……シグ、あーん」
ユーちゃんがおかずをフォークに刺してこちらに差し出してくる。
「あー、ん。……おいしい。次ユーちゃんの番ね、はいあーん」
お返しに今度は俺がユーちゃんにおかずを差し出す。
「ん、あむ」
「あなたたち本当に仲がいいわね」
母さんがあきれたような目を向けてくるが実際に仲がいいので問題ない。
「母さんも父さんにしてあげたら?」
「いやよ恥ずかしい」
そんなことを言ってるが二人っきりだとかなりイチャイチャしてるのを俺は知っている。森の中にある泉でイチャついてるのを何回か見たことがある。
「そういえば村長さんの息子のレオ君、勇者様に選ばれたんだって」
「へーそうなんだ」
あいつが勇者に選ばれたのか。ユーちゃんにちょっかいかけてきて鬱陶しかったから居なくなるならうれしいな。
「ユーリちゃんもこんなボンクラよりレオ君の方がいいんじゃない? 勇者様なら将来安泰よ」
おいボンクラいうな。俺だって本気出したらすごいんだぞ。
「嫌、シグがいい」
「ユーちゃん!」
やっぱユーちゃんは最高だ。
俺はユーちゃんに抱き着き頭をなでる。
「……本当、仲いいわね」
母さんのあきれた視線が突き刺さる。だが離れない俺はユーちゃんを愛でつづけた。
ご飯を食べ終わって暫くのんびりしていたのだが、俺たちは今村の入り口にいる。
「レオ、王都でも頑張るんだぞ」
「無茶はしないでね」
「ああ、わかってる。大丈夫だ、魔王なんて勇者の俺にかかれば楽勝だぜ!」
レオとその両親が話している。これから王都へ行くレオとの別れの挨拶だろう。
周りにいる他の人たちも次々にレオに声をかけていく。俺たちもほかの人たちに倣ってレオに声をかける。
「レオ勇者に選ばれたんだってな。頑張れよ」
「ん、がんばれ」
「ユーリ! 来てくれたのか! ユーリに応援されたら頑張らないわけにはいかないな!」
ガン無視されてしまったぜ! 別にいいけど。
レオから離れようとしたらレオが近づいてきて俺の耳元で呟いた。
「王様が魔王を倒したら一つ褒美として俺の願いを聞いてくれるらしいんだ」
「そうか」
「俺はユーリを妻にする。たとえ俺が魔王を倒したとき、お前たちが結婚していたとしても」
「は?」
レオはそう言って離れていった。もう出発の時間になったのだろう馬車に乗り込む。そして馬車が動き出しその姿はだんだん小さくなっていき見えなくなった。
いやまて! ふざけんな! 結婚していても強制的に離婚させて結婚するってなんだよ!! 逃げるか? いやだめだ、逃亡生活なんてスローライフじゃない。じゃあどうしようどうしたらいい。
「シグ?」
ユーちゃんが心配そうな顔をしている。
「大丈夫、何でもないよ」
「ん」
頭をなでると気持ちよさそうな顔をする。
どうにかしてこの日常を守らないと、でもどうしよう。焦るな王との約束は魔王を倒したらだ、まだ時間はある。一度落ち着いてからまたあとで考えよう。
一週間後、再度王都からの使者がやってきた。
「あの今日はどういったご用件で?」
村長が使者に聞く。
「ユーリという少女はいないか?」
ユーリ!? ユーちゃんにいったい何の用だ? めちゃくちゃ嫌な予感がするんだが!
「ユーリですか?」
「ああ。ユーリという少女はレオ殿の妻となる」
「ええ!?」
「ええ!?」
村長が驚く、俺も驚く。ていうか魔王を倒したらじゃなかったのかよ!
「レオ殿が望んだのだ魔王を倒したらユーリを妻にしたいと、そしてそれまでの間、他の男に手を付けられないように王都で匿ってほしいと」
「は、はぁそうですか」
「ちょっと待ってください! ユーちゃん、ユーリの意思はどうなるんですか!」
俺は使者に抗議をする。無駄だろうけど。
「これは王命だ。逆らうことはできん」
ですよねーふざけんな。
「シグ嫌、行きたくない」
「ユーちゃん……」
どうしたら……。
「その少女がユーリか? 抵抗しても連れて行かねばならん。あきらめろ」
使者の男がユーリを掴む。
「嫌! シグ、シグ!」
「ユーちゃん!」
ユーちゃんに手を伸ばすが周りにいた騎士たちに阻まれ届かない。
騎士を倒すのは簡単だが騎士に手を出したらスローライフが遅れなくなってしまうだろう。
どうしたらいい………………。そうだ。
「ユーちゃん! 王都で待っててすぐに行くから!」
「シグ!」
「大丈夫! 絶対行くから!」
「……わかった。待ってる。早く来て」
「うん!」
抵抗していたユーちゃんは大人しく馬車に乗り、王都へと入ってしまった。
「……………………」
「シグ、うちの息子が申し訳ない」
「………………よくも」
「シグ?」
「…………よくもやってくれたなあのクソやろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
俺は全力で叫ぶ。
「いいだろうその喧嘩買ってやるよ! 俺を本気にさせたことを後悔させてやる!!」
「シグ! ユーリちゃんが連れていかれてショックなのはわかるが少し落ち着け!」
周りに集まった人たちが俺を落ち着かせようとしているが無理だ。こうなったら行ける所まで行ってやる!! 無双だ! そもそも最初の予定はスローライフでなく無双だったのだ。俺tueeeeだったのだ。やってやる。もはや自重はしない!! そうと決まればさっそく出発である。と、その前に両親と村の人たちに挨拶をする。
「父さん! 母さん! みんな! ちょっと魔王倒してくる!!!」
「は? シグ、何言って」
俺は駆け出す。
「行ってきます!!!!」
「ちょっシグ!」
駆け出した俺は風となった。
魔王を倒すために旅に出た俺はまずは王都へやってきた。すぐに行くっていうユーちゃんとの約束もあったからな。お土産を用意するためにちょっと寄り道したがすぐにの範囲内だろう。
「ユーちゃんは王城にいるのかな」
とりあえず王城へ走る。王城につくと門番が立っているので王に謁見を申し込む。もちろん最初は断られたがお土産を見せると王との謁見の許可が出た。
「お前があれをやったのか」
「はい」
「あれが何なのか理解しているのか?」
「はい魔王の側近四魔将の一人です」
寄り道して取ってきたお土産、それは四魔将の一人の首だ。一番近くにいたやつの首を刈り取ってきた。
「何が望みだ」
「勇者との婚約を破棄しユーリを村に返して下さい」
「それはならん」
「なぜですか」
「あれは魔王討伐の報酬だ」
やはり無理か。魔王の首と魔将の首では価値が違うからな。でもまあ予定通りだ。
「では私が魔王を倒します」
「ほう、勇者ではないお前が魔王を倒せるというのか?」
「倒します。なので私が魔王を倒したら勇者との約束はなかったことになりますよね?」
「そういうことになるな」
よっしゃ言質いただき! 言質とれなかったらこっそり魔王をサポートして倒せなくしてやろうと思ってたけど、とれてよかった。
「では最後にユーリに会わせてもらってもよろしいでしょうか」
「かまわん。案内してやれ」
「はっ」
王は近くにいた騎士に命令をする。
俺は騎士についていきとある部屋の前に連れていかれる。
「ここだ」
「ありがとうございます」
道案内をしてくれた騎士に礼を言い部屋に入る。
「ユーちゃん!」
「シグ!」
俺を見るなり飛びついてきたユーちゃんを抱きとめる。
「シグ、村に帰りたい。帰れる?」
「ごめんね。もうちょっとだけ待ってねすぐに帰れるようにするから」
「ん、わかった」
悲しそうな顔をするユーちゃんの頭をなでる。いつもは頭をなでると嬉しそうな顔をするのだが今回は悲しそうな顔のままだった。
「じゃあそろそろいくね」
「ん、すぐに来て」
「わかった、すぐ迎えに来る次は一緒に帰ろう」
「ん」
部屋を出て城を出ようと歩ているとレオがいた。
「な、なんでここにシグが要るんだよ!」
「なんでだろうな」
「お前が何をしようとユーリは俺のものだ! いい加減諦めろ!!」
諦めろ? 馬鹿か諦めるわけないだろうが。
「断る」
「なっ! ふんっ俺はさっき魔物を倒したんだ」
「へー」
「聞いて驚け! ゴブリンだ五匹のゴブリンを倒したんだ! しかも同時にだぞ」
「凄いね」
「そうだろう。お前じゃ出来ないことだ!!」
ゴブリンとかいくらでも蒸発させられるぞ。
「もう行っていいか?」
「さっさと村に帰れ!」
「じゃあな」
俺はレオと別れ城を出て、王都からも出る。
さて、魔王の首でも貰いに行くか。それでユーちゃんと村でスローライフをするんだ。
俺が王都から出て数日後、残りの三人の魔将と魔王が討ち取られ、世界に平和が訪れた。そして人々は魔王を討ち取った者を首狩りの英雄と呼んだ。
英雄感が全くないのが不満である。まぁ首を狩って王城に持って行ったのが行けなかったのだろう。王が首狩りの英雄だなと冗談で言ったのがいつの間に王都内にまで広がってしまった。近いうち国内そして最終的には国外にまで広まりそうだ。
それはさておき魔王を討伐した後、一か月間王都で生活してから俺とユーちゃんは村へ帰った。勲章の授与やらなんやらに思いのほか時間がかかってしまった。王には引き留めるために爵位とか領地とか言われたがすべて断った。
勇者のレオは王都に残り騎士となり道を選んだようだ。会うたびユーリは俺のものになるはずだったのに! とうるさいのでできればもう会いたくない。
そして今俺たちは村に向かう馬車の中だ。もう少しで村につくだろう。
「シグ」
「あ、村が見えてきたね」
やっと村についた。これでまたスローライフを送ることができる。そうだスローライフを送るためにやっておかないといけないことがあった。
「ユーちゃん」
「ん」
「村に着いたら結婚しよう」
「ん、結婚する」
うれしそうに微笑むユーちゃんはとてもかわいかった。
勇者に幼馴染が盗られそうなので本気出す Ast @Astraea
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