第八章:True Fighter/02

「ふっ……!!」

 先陣を切ったのは、やはり遥だった。

 ライトニング・マグナムを牽制程度に連射しながら、まずはモラクス・バンディットの懐に飛び込んでいく遥。モラクスは両刃斧で彼女を迎撃しようとはしたが、しかし飛び込む遥の素早さには追いつけず。振るう左手のブレイズ・ランスで鋭い刺突を見舞われると、モラクスは激しい火花を散らして吹っ飛んでいく。

「それなら……!!」

「――――見えています! 貴方の動きは……全てッ!!」

「っ!?」

 モラクスを援護しようと、アイムは遥の背後からクロスボウを撃ったが――――しかし、遥は既にそれを見切っていて。振り向きざまにライトニング・マグナムを連射すれば、向かい来る光の矢を全て空中で叩き落としてしまった。

 まるで、後ろにも目が付いているかのような正確さだ。

 そんな人間離れした迎撃に、アイムが戦慄する中――――それによって生じた隙を遥は見逃さず。すぐさま左手のブレイズ・ランスを投擲すると、アイムに命中させて怯ませる。

「ハァァァァッ!!」

 そうすれば、アイムが怯んだ隙に遥は一気に距離を詰め、肉薄。まずはアイムの右手首にハイキックを一撃、挨拶代わりに喰らわせてやれば、厄介なクロスボウをアイムの手から弾き飛ばしてやる。

「ふっ……!!」

 そうしてアイムの最大の武器を無力化すれば、蹴りの勢いのまま遥はその場で大きく回り……すぐ傍の地面に突き刺さっていたブレイズ・ランスを回収。とすれば、振り向きざまにそのブレイズ・ランスで更なる追撃を仕掛けた。

「ハッ……!!」

「あああぁぁぁ――――っ!?」

 振り向きざまの斬撃を喰らわせ、アイムが身体から激しい火花を散らす中、遥は腰溜めに構えたライトニング・マグナムを速射して更に追い撃ちを喰らわせる。

 すると、アイムは体中から猛烈な火花を散らしながら、大きく後ろに吹っ飛んでいった。

「貴様――――ぁっ!!」

「っ!!」

 そうして遥がアイムを吹っ飛ばした直後、急接近してきたフォルネウスが長剣で斬り掛かってくる。

 それに対し、遥は右手のライトニング・マグナムを――――そのトリガーガードの付け根辺り、直角になっている部分を使い、フォルネウスの斬撃を防御。

 そんな風にフォルネウスの長剣を受け止めれば、直後に遥は左手のブレイズ・ランスを振るい、横薙ぎの強烈な一撃をフォルネウスの横っ腹に叩き込んだ。

「ハァッ!!」

「ぐぅ……っ!?」

 息つく間もない神速のカウンターにフォルネウスは怯み、思わず飛び退いて遥から距離を取ってしまう。

「な、何なのだこの力は……!?」

 とすれば、次にフォルネウスの口から漏れるのは、そんな戦慄の言葉だった。

「でやぁぁぁぁぁっ!!」

 すると、フォルネウスが遥に恐れおののく中――――息つく間もなく、今度は飛鷹が斬り掛かってくる。

 奇襲じみたタイミングで懐へと飛び込み、ビームソードで一閃。フォルネウスはどうにかそれに対応こそしてみせたが、しかしダメージを負うことは避けきれず。右の腕甲を浅くだがビームの刃に斬られてしまっていた。

「ぐぅぅぅっ……!?」

「ハッ、怖じ気づいたか! 桜花戦乙女同盟は潰えてなどいないッ!! 私と美弥が居る限り……貴様らの好きにはさせん! 我らは……我ら桜花戦乙女同盟は、不滅だぁぁぁぁっ!!」

 返す刃で二度、三度と瞬時に斬り掛かり、同時に蹴り技もフォルネウスに叩き込む。

 そんな飛鷹の猛攻を、流石のフォルネウスも追い切れず。とすれば防御する暇もないまま、フォルネウスはその純白の身体を斬り刻まれ……最後に飛んできた鋭い蹴りを喰らうと、長剣を取り落としながら大きく吹っ飛んでいってしまう。

「美弥、あの飛び道具持ちは任せろ!」

 そうしてフォルネウスを吹っ飛ばせば、飛鷹はビームソードを腰に収めながら遥に叫ぶ。

「任せました、飛鷹っ!!」

 飛鷹に頷き返し、遥は再び圧縮した足裏スプリング機構を解放。急加速し、吹っ飛んでいったフォルネウスを追撃していく。

 流星のように飛んでいく彼女を見送りながら、拳を握り締める飛鷹。そんな彼女の前には……よろよろとしつつも、取り落としてしまったクロスボウをどうにか拾い上げ。満身創痍になりながらもそれを構えるアイム・バンディットの姿が。

「このぉ……っ!!」

 拳を構える飛鷹目掛けて、アイムはクロスボウを連射する。

「甘いわぁっ!!」

 だが――――飛鷹は向かい来る光の矢を、全て拳で弾き飛ばしてみせた。

「な……っ!?」

 飛んでくる矢、それも光の矢を、己の拳のみで叩き落とす。

 そんな常識外れもいいところな飛鷹の所業を目の当たりにして、アイムはクロスボウを構え続けるのも忘れて狼狽してしまう。

「先刻の手合わせで、貴様の動きは既に見切った! その技……私にはもう通用しないッ!!」

「馬鹿なことを……っ!!」

 飛鷹の挑発でハッと我に返ったアイムは、再び構えたクロスボウを連射するが……しかし飛鷹は、飛来する矢のことごとくを拳のみで叩き落としてみせる。

「隙ありッ!! たぁりゃぁぁぁぁっ!!」

 それでもアイムはめげずに撃ち続けていたが、飛鷹はやはりその全てを叩き落していて。そんな中で飛鷹はアイムの動きに……激しく焦るアイムの動きに僅かな隙を見出せば、途端に拳から炎弾を発射。アイムの手にしていたクロスボウを木っ端微塵に破壊してみせる。

 ――――『ラファールショット』。

 焔を纏わせた拳を突き出し、真っ赤な炎弾を発射する技だ。

「ぬあぁぁっ!?」

 ほんの僅かな隙を突き、針に糸を通すような正確さで放たれた炎弾。

 そんな予想外の攻撃に、当然アイムが反応できるワケもなく。クロスボウを破壊されたアイムは苦悶の声を上げ、飛鷹の前に大きな隙を晒してしまう。

「そこだぁぁぁっ!!」

 アイム・バンディットの晒した、大きすぎる隙。

 当然、それを見逃す伊隅飛鷹ではなく。飛鷹は雄叫びを上げれば、その手に……今度は両手に真っ赤な焔を纏わせた。

「バーニング……スライサァァァァッ!!」

 轟く叫び声を上げながら、飛鷹は焔を纏う両手で鋭い手刀を斜めに振る。

 そうすれば、手刀を振るった彼女の手から――――今度は真っ赤な焔の刃が放たれた。

 ――――『バーニングスライサー』。

 今まさに彼女が口にしたその技は、見ての通りの技だ。焔を纏った手刀を振るい、真っ赤な焔の刃を放つ切断技。飛鷹は斜めに振った手でそれを二発、続けて放っていた。

 続けざまに放たれた炎の刃が空中で重なり、まるでアルファベットの『X』のような形になってアイム目掛けて飛翔する。

「うわぁぁぁぁ――――っ!?」

 飛来する、重なり合った焔の刃。

 無防備を晒すアイムはそれの直撃を胸に喰らい、激しい火花を散らしながら苦しみの声を上げる。

 とすれば、バーニングスライサーを喰らったアイムの胸部。騎士甲冑のような茜色の胸には、撃ちこまれたバーニングスライサーと同じ『X』を描く傷跡が深々と刻まれていた。

「うぐ……っ」

 痛々しく刻まれた胸の傷跡から白煙を吹かしつつ、よろめくアイム・バンディット。

 完全に瀕死の状態だ。しかし――――だからといって、伊隅飛鷹は気を抜かない。最後の一撃を叩き込むまで……彼女の戦いは、終わらない!!

「見せてやろう、天竜活心拳の神髄を……!!」

 よろめくアイムを真正面に見据えながら、飛鷹はその場でバッと構え。演武のように両腕を大きく動かした後、深く呼吸を練り……極限まで高めた気を、左足へと集中させる。

 そうすれば、練りに練った気が集まった左足は太陽のように真っ赤に染まり。そうして赤熱化すれば、次第に紅蓮の焔が足全体を包み込む。

「我が拳、我が誇り! 天竜活心拳の名のもとに……行くぞぉっ!!」

 左足を赤く滾らせる彼女の周囲には、いつしか紅蓮の焔が渦巻き始めていて。空気すらもが熱く焦がされるほどの熱気の中、伊隅飛鷹はその声を轟かせる。猛烈な気迫と気合いに満ちた、その声を。

「覚悟ッ!!」

 カッと目を見開いた飛鷹は叫ぶと、雄叫びとともに走り出し……バッと地を蹴って飛び上がる。

「天竜活心拳・奥義ッ!! ディィィバインッ……反転! ダァブルシュゥゥゥゥゥ――――トッ!!」

 飛び上がり、遙か上空から繰り出すのは鋭い飛び蹴り。

 焔を纏わせた左足での、流星のような勢いでの飛び蹴りは、赤い軌跡を描くその蹴りは……まさに流れ星。

 そんな急降下の飛び蹴りをアイムに叩き込めば、その直後に飛鷹はアイムの身体を蹴って再び飛び上がり……空中でクルリと身を捩って反転。流星のような勢いでの飛び蹴りをもう一撃、アイムの背中に叩き込んだ。

「なぁぁぁぁぁぁ――――っ!?」

 そんな飛鷹の飛び蹴り、必殺技たる二連撃の直撃を喰らったアイムは、その強烈すぎるダメージを許容しきれず……断末魔の雄叫びとともに、その場にがっくりと膝を折る。

「ふぅ……っ!!」

 そうしてアイムが膝を折る頃、飛鷹もまた着地していて。アイムの断末魔の雄叫びを、その気配を背中越しに感じながら……ただバッと構えを取り、息をつくとともに静かに残心する。

 直後――――飛鷹の背後で大爆発が巻き起こり。爆風とともに吹き上がる真っ赤な火柱の中、紅蓮の焔に包まれたアイム・バンディットはその身を焼き尽くされ、一片の欠片も残さぬまま……塵となって、消えていった。

 ――――『ディバイン反転ダブルシュート』。

 神姫クリムゾン・ラファールの必殺技、赤熱化した足に焔を纏わせ、強烈な一撃を叩き込む『ディバインシュート』を元に、天竜活心拳の使い手たる飛鷹自身が特訓の末に編み出した派生技だ。

 それは見ての通り、一撃目を叩き込んだ後、相手の身体を踏み台としてもう一度高くまで飛び上がり……続く二撃目で追撃を仕掛ける必殺技だ。通常のディバインシュートの二倍の威力を瞬時に叩き込むことが出来る技で、まさに特級バンディット相手には最適の技といえるだろう。

 だが、先に述べた通り、これは飛鷹自身が独自に編み出したディバインシュートの派生技であり、正確には神姫クリムゾン・ラファールの必殺技ではない。あくまでディバインシュートを元にした、分類的には同じ技なのだ。

「まずは……一体!!」

 大爆死を遂げたアイムを焼き尽くした火柱を背に、飛鷹は残心したまま、背後を振り返らぬまま。勝利の余韻に浸ることもなく、ただそれだけをひとりごちる。次なる敵を――――モラクス・バンディットを見据えながら。

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