第八章:True Fighter/03

「とぉりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 アイム・バンディットを撃破した余韻に浸る間もなく、飛鷹はバッと地を蹴って走り出し。今まさに自分に飛び掛かろうとしていたモラクス・バンディットへと、逆に自分から飛び込んでいく。

 そうして繰り出すのは、握り締めた拳の猛攻撃。目にも留まらぬ速さで繰り出される拳のラッシュに対し、無防備なまま懐に飛び込まれたモラクスは為す術もなく。ただただ胸を、腹を、胴体全体を猛烈な勢いで殴られ続け、重いダメージを蓄積させられてしまう。

「野郎……ッ!!」

 そんな拳の猛ラッシュをどうにか振り切ると、モラクスは反撃に転じる。

 両手の両刃斧を振りかぶり、斧での重い攻撃を次から次へと繰り出していく。

「その程度で……この私が倒せるかぁっ!!」

 だが、飛鷹はそんな両刃斧の動きを完全に見切っていて。容易く避けてみせると、その度に殴打や蹴りをカウンターと言わんばかりにモラクスへと見舞わせる。

「くそっ……! なら、コイツはどうだぁっ!!」

 そんな一方的な戦いの中、モラクスは戦況を覆そうと奇策に出た。

 飛鷹から大きく飛び退くと、モラクスは両刃斧を二本とも投擲。それで以て飛鷹を怯ませ、あわよくばダメージを与えようと目論んだのだが…………。

「ラファール……ショットォッ!!」

 しかし、飛鷹は即座に拳から放った二発の炎弾、ラファールショットで容易く迎撃。とすれば「なにぃっ!?」と驚くモラクスへと再接近し、今度は抜刀したビームソードで斬り刻む。

「フンッ! ハッ! たぁりゃぁぁぁぁぁっ!!」

「ぬぅぅぅぅっ!?」

「そらそらそらそらッ! とぉりゃぁぁぁぁぁっ!!」

「うぐぅぅぅぅ……っ!!」

 右手と左手、同時に抜刀した二本のビームソードを振るい、肉眼では捉えきれないほどの速さでモラクスを斬りつける。

 緑色のビームの刃、それがモラクスの赤い身体を撫でる度、その身体には真っ赤に溶けた傷跡が次から次へと刻まれていく。

 そうして斬撃の猛攻を仕掛けたのは、時間にして僅か五秒ほどだっただろうか。しかし、そんな僅かな間にもモラクスは数十回、いいや三桁に届きそうなほど斬りつけられていて。攻撃の手を止めた飛鷹が飛び退いた頃、その騎士のような赤い身体には無数の溶けた刀傷が刻まれていた。

「うぐ……っ! クリムゾン・ラファール……ま、まさかこれほどまでとは……っ」

 身体中に刻まれた傷跡から白煙を吹きながら、大ダメージを負ったモラクスは思わずその場に膝を突く。

「この拳は弱き者を守るため! 力なき者を守るため……私は、貴様らのような邪悪に決して負けはしないッ!!」

 そんな死にていのモラクスに叫びながら、飛鷹はビームソードを腰に収め。そうすれば飛鷹はその場で構えを取ると……気を練り、今度は左腕を赤熱化させ始めた。

 とすれば、次の瞬間には当然、真っ赤に染まった左腕には紅蓮の焔が纏わりつく。握り締めた拳を滾らせながら、飛鷹はその場でバッと構えを取ってみせた。

「行くぞッ! 天竜活心拳は究極奥義……!!」

 そうして左腕を赤熱化させると、飛鷹は地を蹴って飛び出す。

 背中と足裏の補助スラスターを全開に吹かして加速しながら、飛鷹は構えた左拳を……赤熱化し、紅蓮の焔が燃え滾る拳を振りかぶりながら、モラクス・バンディット目掛けて突っ込んでいく。

「貫くッ!! 天竜活心拳の誇りに賭けてッ!! 我が奥義……止められるものなら、止めてみろぉぉぉぉっ!!」

 加速しながら、更に飛鷹は左肘の補助スラスターにも点火。猛烈なスピードで飛んでいく身体と、燃え滾る左腕を更なる高次元の速度にまで叩き上げる。

「必ぃぃっ殺っ!! 劫火ごうか爆砕ばくさい……クリムゾンッ!! ブラスタァァアア――――ッ!!」

 よろよろと立ち上がりながら、無防備を晒す瀕死のモラクス・バンディット。

 そんなモラクスの懐に飛び込むと、着地した飛鷹はバンッと力強く一歩を踏み込み……スラスターを吹かして加速した左拳、焔に包まれた拳を全力でモラクスの胸に叩き込んだ。

 その拳は、特級バンディットたるモラクスの胸を。まるで中世の騎士のような真っ赤な身体を叩き割り。その拳から伝わる衝撃は胸の奥深く、モラクスの身体の奥底まで突き抜ける。

 そうして衝撃が突き抜ければ、彼女の左拳から……モラクスの内側へと多大なエネルギーが急速に送り込まれる。

 ――――それは、僅か一瞬のこと。

 そんな一瞬の内に、モラクス・バンディットの体内に送り込まれた飛鷹の、神姫クリムゾン・ラファールの膨大なエネルギー。それはすぐさま暴走を始め、モラクスの身体を内側から焼き尽くしてしまう。

「う、ぬ、ぐ――――ぬわああああああぁぁぁぁっ!!」

 身体を内側から焼き尽くされ、激痛に物凄い叫び声を上げるモラクス。

 飛鷹はそんなモラクスに一切の慈悲は見せず、僅かにスッと眼を細めると……モラクスの胸に叩き付けた左拳を、グッと力強く握り締めた。

「――――――爆砕ッ!!」

 握り締めるとともに、飛鷹が叫ぶ。

 そんな叫び声が轟いた瞬間――――限界を迎えたモラクス・バンディットの身体が、焔に焼かれたモラクスの身体が内側から弾けるように爆裂した。

 ――――真っ赤な火柱が、辺り一面を包み込む。

 爆発したモラクスが巻き起こした爆発は、飛鷹自身をも包み込んで燃え上がる。

 しかし……そんな焔の中から、飛鷹は無傷のままゆっくりと歩み出てきていた。

 ――――『劫火ごうか爆砕ばくさいクリムゾンブラスター』。

 その名こそ、今まさに飛鷹が放った必殺技の名だ。拳を通して暴走したエネルギーを送り込み……それで以て敵を内側から焼き尽くし、爆発四散させる強力無比な一撃。それこそが、飛鷹がモラクスに叩き付けた一撃、劫火爆砕クリムゾンブラスターだった。

「この拳と、そして我らが誇りに賭けて……私は、決して負けはしないッ!!」

 火柱の中から姿を現しながら、飛鷹は低く張りのある声を来栖大社の境内に轟かせる。

 ――――モラクス・バンディット、撃破。

 これで残るは二体。強敵たる特級バンディット、倒すべき敵は――――残り、二体だ。

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