第十二章:疾走、ガーランド

 第十二章:疾走、ガーランド



 時系列は前後して、戒斗がコンテナヤードに現れた頃。彼が病院を抜け出したとの一報を受けた有紀は、現場に向かって蒼のアメ車、二〇二一年式のC8型シボレー・コルベット・スティングレイ……いいや、ガーランドを走らせていた。

 有紀が技術の粋を集めて作り上げたスーパー・マシーン。そのガーランドの運転席に座りながら、ステアリングを握りながら……有紀はその車内でガーランドと、つまり車自身と言葉を交わしていた。

『病院を抜け出してまで駆け付けるとは、私には理解しかねます』

「どうしてだい、ガーランド?」

『今の彼にVシステムも無い、バンディットと戦う術は何も無いはずです。神姫に任せておけば良いはずのこと、傷付いた身体でわざわざ危険な場所に自ら赴くなど、非合理的でしかありません』

 車内に木霊する、無機質な男声の電子音声。ガーランド自身が発するその言葉に、有紀は「前にも言ったが、人間は理屈じゃないんだよ」と普段通りのニヒルな語気で返す。

「……それに、正直言って私は嬉しいよ」

 返した後で、ボソリとそんなことも有紀は呟いていた。

『嬉しい、ですか?』

 人工知能ながら戸惑いを見せるガーランドに、有紀は「ああ」と頷いて肯定の意を示す。

「彼が動いたということは……彼の中で燻ぶっていた迷いが吹っ切れたということ。彼の折れた心が元に戻ってくれたということだ。何が切っ掛けかは知らないが……もし、もしも今の彼が再び戦う力を欲しているのだとしたら、私は」

『……つまり、ドクターは彼に試作型XGドライバーをお渡しになると?』

「最終的には、本人の顔を見て判断するがね。……なあに、心配するなガーランド。最悪の場合は私が着装するよ」

『ドクターが……ですか』

「何か不満かね?」

『いえ、あまり私の趣味ではないな、と思いまして』

「…………本当に嫌味なAIだな、君は」

『お褒めにあずかり、恐悦至極に存じます』

「褒めてないよ、誰もね」

『――――そろそろ現場に到着します。ドクター、心の準備を』

「ああ」

 現着間近を告げるガーランドに頷き返しながら、有紀は助手席を……そこに置いてあるアタッシュケースをチラリと見る。

「……戒斗くん。君がもし、本当に戦う力を……アンジェくんと共に未来を切り拓く力を欲するというのなら、私はこれを君に託そう。君が人間の自由と平和を守るために、君にとって大切なものを守るために戦える、そんな真の意味での戦士になれていたとしたら……君ならば、きっとなれるはずだ。人類最後の切り札、黒い勇者に」





(第十二章『疾走、ガーランド』了)

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