第十一章:強襲、白き流星/05
「弾は幾らでもある! 撃ちまくれよ兄弟! 全部備品だからな……弾代もガソリン代も、全部P.C.C.S.持ちだ!!」
「最高!」
「後で始末書書くの手伝えよな!?」
「ああ、何枚でも付き合ってやるよ!!」
ハンヴィーから降りたウェズが大きな対バンディット戦用自動ライフル、ARV‐6E2エクスカリバーを撃って牽制する傍ら、ハンヴィーの銃座から……天井のハッチから顔を出した戒斗が、そこに取り付けられているブローニングM2HB重機関銃をチーター・バンディット目掛けて撃ちまくる。
「カイト、どうしてっ!?」
戒斗とウェズ、ブローニングとエクスカリバー。二人の銃口から五〇口径の激しい銃声が絶え間なく木霊する中、アンジェは現れた戒斗を見つめながらそう、戸惑った様子で彼に呼びかける。
「アンジェが戦ってるって思ったら、居てもたっても居られなくってな!!」
そうすれば、戒斗は尚もチーター目掛けてブローニングを撃ちまくりながら、アンジェにそう叫び返す。
「でも、そんな身体じゃあ無茶だよっ!!」
「無茶は百も承知! ……Vシステムが無くたって関係ない! 俺の居場所は……俺が俺で居られるのは……アンジェ! 君の隣だけなんだよ!! アンジェが戦うのなら、そこが……そこが、俺の戦う場所でもあるんだ!!」
戸惑うアンジェに心の底からの言葉を、叫びを上げながら、戒斗はブローニングで盛大な機銃掃射を続ける。
「グルルルル……」
そんな苛烈な機銃掃射には、さしものチーターも怯んだようで。低い唸り声を上げながら、チーターはじりじりと後退していく。
それを見て、戒斗は遥たちに呼びかけていた。
「二人とも、真を頼む!!」
「……わかりました!」
「オーケィ! アンタの男気に免じて、今日は言うこと聞いてあげるわっ!!」
呼びかけに応じ、遥とセラは戒斗が作った隙を……チーターが後退していった隙を突き、二人で真を取り囲む。
そうすれば、どうにか真を拘束しようと動き始めるが……しかし身軽に動き回りながらグラファイトボウを撃つ真に、遥とセラは中々近づくことができない。
「生身で、良い度胸してるね。流石だよ……とても素敵だ、君のその勇気と度胸は」
真が神姫二人と交戦する傍ら、乱入してきた戒斗を見つめる潤一郎はニヤリと嬉しそうに笑み。とすれば、アルビオンシューターの狙いをハンヴィーに……戒斗が銃座に付く、合衆国製の軍用四駆の方へと向ける。
「でも――――これなら、どうかな?」
そうすれば、潤一郎が右手で構えたアルビオンシューター……その銃口にチリチリと金色の光の奔流が迸り始める。
小さな唸り声とともに、その光はシューターの銃口、その奥へと集まっていく。最大級の一撃を撃ち放つ、まるでその前兆のように。
そうしてエネルギーを最大級まで収束させれば、潤一郎はニヤリとしながらシューターのトリガーを引き絞った。
瞬間――――アルビオンシューターの銃口から戒斗のハンヴィー目掛けて、太い金色のビームが放たれる。
――――『アルビオン・フィニッシュ』。
アルビオン・システムに備えられた最大威力の攻撃、必殺技だ。その強力無比な一撃が、今まさに戒斗に向かって放たれた――――!!
「っ! カイト、危ないっ!!」
「やっべ……!!」
そんな一撃が放たれるより一瞬早く気付いたアンジェが叫ぶと、戒斗は咄嗟に銃座から這い出て、そのままハンヴィーより飛び降りる。
すると、彼がハンヴィーの屋根から飛んだ瞬間――――潤一郎の放った金色のビーム、必殺技『アルビオン・フィニッシュ』の直撃を喰らったハンヴィーが爆発した。
「オイオイオイオイ!? ちょっ……なぁぁぁぁっ!!」
「ぐ、ぁっ……!!」
その爆発の余波を受け、近くに居たウェズとともに戒斗が大きく吹っ飛んでいく。
「カイトっ!?」
機銃掃射が止んだ隙を突き、再び迫ってきたチーター・バンディットと交戦しながら、アンジェが叫ぶ。
彼女の叫び声が響く中、吹っ飛んだ二人は地面を大きく転がる。
ウェズと戒斗、二人の身体がコンテナヤードの地面、砂利の上にゴロゴロと転がって……そして、二人は離れた場所でそれぞれ倒れる。
そうして地面に転がれば、戒斗は這いつくばった格好で……ボロボロになりながらも、しかし意識は手放さないままクッと顔を起こす。
「まだだ……! まだ俺は……死んじゃいない……! まだ、戦える…………!!」
軋む身体に鞭を打ち、弱る心に闘志を燃やし。戒斗は懐に伸ばした左手でシグ・ザウエルP226の自動拳銃を抜くと、這いつくばった格好のまま潤一郎目掛けて撃ちまくる。
だが、たかが九ミリパラベラムの拳銃弾でプロトアルビオンの装甲を貫通できるはずもない。
「これで、君ともお別れか……寂しくなるけど、仕方ないよね」
戒斗の放つ拳銃弾が白い装甲の表面で弾ける中、潤一郎は少しだけ悲しそうな声で呟き……トドメだと言わんばかりに、右手のアルビオンシューターの銃口を戒斗に向ける。
(……終わるのか、こんなところで)
自身に向けられた純白の大型拳銃。その銃口を見つめながら、左手の拳銃を撃つ手は止めないまま……戒斗は、そんなことを考えていた。
(俺は……俺は結局、何も出来ないまま……)
――――――諦めるのか?
(いいや……諦めない)
―――――諦めて、たまるか。
(まだだ、まだ何か手はあるはずだ。俺は……俺はもう、諦めない。生きるために、戦うために……アンジェの明日の為に、アンジェと生きる明日の為に! 俺は……俺は! 絶対に諦めない!!)
諦めかけた戒斗が、折れた心を叩き上げた瞬間。篠崎潤一郎が、今まさにアルビオンシューターのトリガーに指を掛けた瞬間。今にもトドメの一撃を撃ち放とうとした瞬間――――蒼い閃光がこの場に、コンテナヤードに滑り込んできた。
「……うん?」
戸惑う潤一郎が、シューターの銃口を下げながらそちらの方に視線を向ける。
「あれ、は…………」
戒斗も突然現れたその閃光、蒼いマシーンの方を横たわったまま見つめた。
地面に這いつくばる戒斗、そのすぐ間近に派手な横滑りで滑り込んできたそれは――――C8型の蒼いシボレー・コルベット・スティングレイ。
何処かで見覚えのある、その蒼いマシーン。開いたその車のドアから颯爽と降りてきたのは――――。
「――――全く、君は本当に無茶ばかりをしてくれるな」
重厚なアタッシュケースを小脇に抱えた、紅色の髪と白衣を靡かせる皮肉屋の科学者――――篠宮有紀だった。
(第十一章『強襲、白き流星』了)
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