第十三章:WAKE UP, THE HERO

 第十三章:WAKE UP, THE HERO



 現れたガーランドと有紀を、這いつくばった格好のまま呆然とした顔で見上げる戒斗。

 そんな彼を見下ろしながら、有紀はやれやれと肩を竦めつつスッと手を差し伸べる。

 彼女の手を借りてよろよろと立ち上がる戒斗に、彼の顔を真正面から見据えながら、有紀はこう問うた。

「君はまだ、戦うつもりかい?」

 ――――と、至極真剣な眼差しで。

「当然だ……! まだ、まだアンジェやセラが戦っている……!! Vシステムが無くたって関係ない! 俺は、俺の戦いを続けるだけだ…………っ!!」

 そんな風に有紀に問われれば、戒斗は迷わずにそう答える。

 すると、有紀はフッと嬉しそうに笑み。短く「そうかい」と頷くと、続けて戒斗にこんな質問を投げかけた。

「ひとつだけ、聞かせてくれ。君は何のために戦う?」

「決まっている! アンジェが戦うのなら、俺も戦う! アンジェの隣が俺の居場所で……アンジェの隣で、アンジェと生きる明日の為に! それが……俺の戦う理由だ!!」

 真っ直ぐな戒斗の答えに、有紀はニヤリと嬉しそうに笑い。そうすれば有紀は――――。

「――――よかろう、ならば私から君にプレゼントだ!」

 そう言って、片手にぶら下げていたアタッシュケースを開けてみせた。

 その中に納まっていたのは――――二つのツール。バックルのような形をした『試作型XGドライバー』。そして四角く分厚いカード型の物、黒い認証用メモリーカートリッジだった。

「これは……?」

 アタッシュケースの中に納まっていたドライバーとメモリーカートリッジ、見慣れないそれを見て戒斗が首を傾げる。

「試作型XGドライバーだ。これを腰に装着したまえ」

「ドライバーって……おい先生、まさか!?」

 ――――試作型XGドライバー。

 その名前を耳にし、何かを察した戒斗がハッとして有紀を見ると、彼女は「その通りだ」と言ってニヤリと不敵に笑む。

「これこそ、私から君に託せる最高の武具……人類最後の切り札、黒い勇者――――その名も、ヴァルキュリアXGだ」

 ――――ヴァルキュリアXG。

 その名を聞けば、これが何のためのツールなのかは敢えて語るまでもない。これが有紀から戒斗に託す、新たなる力であることは……敢えて、答えるまでもない!!

「……恩に着るぜ、先生!」

 戒斗は頷いてアタッシュケースの中身を取ると、ドライバーを……大きなバックルのような形をしたそれ、試作型XGドライバーを腰に当てる。

 そうすれば、ドライバーの端から自動的に延伸されたベルトがぐるりと胴体を一周し……身体に巻き付いて。ドライバーを彼の身体に固定させる。

「ちなみに、ドライバーがその形なのは私の趣味だ。変身アイテムといったら、やはりベルトだろう?」

「アンタはホンットに意味分かんねえな……!」

「だが、君も嫌いじゃないはずだ」

「……まあな!」

 ニヒルな笑みを浮かべて見守る有紀に、戒斗もまたニヤリとしながら頷き返すと。有紀がスッと手渡してきたもうひとつのツール、黒い認証用メモリーカートリッジを受け取る。

「メモリーカートリッジをドライバーの側面に差し込むんだ。その後でドライバーのアームを右に倒し、もう一度リリースすれば着装シークエンスが始まる。詳しいやり方は……ま、君なら敢えて説明をするまでもないね」

「……ああ!」

 頷き合い、有紀が何歩か離れて距離を取る中。戒斗は受け取ったメモリーカートリッジを左手に持ち、バッとそれを正面に掲げる。

「あれは……?」

 そんな様子を見て、潤一郎は首を傾げていて。

「戒斗さん……それは!?」

「ちょっ、戒斗……まさか、まさかそれって!?」

 真と交戦する遥とセラの二人は、戒斗の姿と……彼が手にする物を見て驚いていて。

「カイト……カイト、カイトぉーっ!!」

 そして、アンジェの声が響き渡る中。戒斗は掲げたメモリーカートリッジをドライバーに差し込み、そして構えを取る。

 カートリッジをドライバー左側面のスロットに差し込み、そのまま左手でバックル上面の細いアームを右にガチンと倒し……その流れのまま、左手もドライバーの上に添える。

「ヒトの心の光が消えない限り……俺たちの胸に光がある限り! 俺には……限界なんてない!!」

 叫びながら、戒斗はバッと右手を天高く掲げた。その手を手首からクルリと捻り、広げた手のひらで……まるで、太陽を掴まんとするかのような構えを取る。

 そのまま、右手をジリジリと胸の高さまで下ろし……そして、彼は雄叫びを上げる。ヒトを超え、神すらもも超える……そんな、黒い勇者へと変わる為に。

「――――――着装!!」

『Expansion』

 雄叫びとともにバックルのアームを左に倒し、同時に両手を腰の位置に下げる。

 そうすれば、瞬間――――鳴り響いた電子音声とともに、戒斗の身体が眩い閃光に包まれた。





(第十三章『WAKE UP, THE HERO』了)

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