第十章:セカンド・イグニッション/深紅の乙女より愛を込めて/01

 第十章:セカンド・イグニッション/深紅の乙女より愛を込めて



 ――――駅近く、コンテナヤード。

 線路の分岐点から続くそこは、貨物列車にとっての停車駅。細かい砂利の敷かれた広い敷地の中に貨物コンテナが並べられている、そんな一帯だ。

 本能の告げる警鐘に導かれるがまま、そこへ真っ先にやって来たのは……セラとアンジェの二人だった。

 砂利の上で派手な砂埃を上げ、横滑りしながら止まる真っ赤なクルーザーバイク……二〇一五年式のホンダ・ゴールドウィングF6C。そのハンドルを握るセラと、彼女の腰に手を回して後ろにしがみつくアンジェは、コンテナヤードの中に確かな敵の姿を目の当たりにしていた。

 ――――篠崎潤一郎。

 そして、彼の率いる量産型のコフィン・バンディットの群れだ。その数は三〇体。加えて、傍らには翡翠真と……別のバンディットの姿もある。

 ――――センチピード・バンディット。

 その名の通り、センチピード(ムカデ)のような見た目のバンディットだ。

 黒灰色の体色で、身体のあちこちからは無数の……小さな脚、だろうか。そんな風な形状の気色悪い突起物を生やしている。

 そんな見た目だからか、その姿を目の当たりにしたアンジェもセラも、二人ともセンチピードに対して生理的な嫌悪感を覚えずにはいられなかった。

 とにもかくにも、篠崎潤一郎はそんなセンチピード・バンディットと量産型コフィン・バンディット三〇体、そして翡翠真を引き連れながら、コンテナヤードの中を我が物顔で歩いていた。

「真さん……!」

「本当に、アイツらの手先になっちゃったってワケね……!!」

 ニコニコと楽しそうに微笑みながら歩く潤一郎と、そのすぐ傍に控える翡翠真の姿。

 それを目にしたアンジェとセラは、バイクに跨ったままそれぞれ苦い表情を浮かべる。

「やあ! 待っていたよ神姫の諸君!!」

 すると、そんなアンジェたちに気付いた潤一郎はニッコリとした笑顔を浮かべ、嬉しそうな顔で二人にそう呼び掛けてきた。

「今日は君たちをもてなす為に、姉さんから新型を預かってきたんだ! じっくりと堪能してくれたまえよ!!」

「アイツ、舐めた口を……! 行くわよ、アンジェ!!」

「うん……行こうセラ、真さんを取り戻すんだ……!!」

 そんな潤一郎を前にして、セラとアンジェは頷き合い。そうして二人揃ってヘルメットを脱ぎながらバイクを降りれば、その場でそれぞれ構えを取る。

 セラは腰に引いた両手を、身体の前でクロスさせるように突き出し。そうすればグルリと手首を回し……手の甲を前に、見せつけるように構える。

 その傍ら、アンジェは左手を胸の前にスッと構えた。

 そうすれば――――セラは両手、アンジェは左手。二人の手の甲には閃光とともにそれぞれのガントレットが、神姫の証たる装具が現れる。

 ――――フェニックス・ガントレット。

 ――――ミラージュ・ブレス。

 赤と黒、そして赤と白の装具。各々の手の甲にそれが現れれば、二人はまた各々が構えを取る。

「重装転身!!」

「チェンジ・ミラージュ!!」

 セラは構えた両手を雄叫びとともに腰の位置まで勢いよく引き、両の拳を握り締める。

 アンジェは一度腰の位置まで引いた右手をバッと前に突き出し、クルリと手首を翻してグッと握り拳を作り。そのまま両腕を大きく振れば、身体の右側で……顔の真横辺りで握り拳を作った両手を構えた。

 そうすれば、二人の身体は一瞬だけ閃光に包まれ――――次の瞬間にはもう、彼女たちの姿は神姫のそれへと変貌を遂げていた。

 ――――雷撃に愛されし赤と黒の神姫、ガーネット・フェニックス。

 ――――深紅の焔を纏う赤と白の神姫、ヴァーミリオン・ミラージュ。

 セラはいきなり重砲撃形態のストライクフォーム、アンジェは基本形態のミラージュフォームだ。

 人間武器庫と喩えるのに相応しいだけの重装備で身を固めるセラと、腕のアームブレードと脚のストライクエッジ、四つの刃を煌めかせるアンジェ。各々が神姫装甲に身を包んだ二人は、キッと鋭い眼で潤一郎と、彼の率いるバンディットの群れ。そして……翡翠真と睨み合う。

「アタシが援護する。アンジェ……アンタは好きに暴れなさい、アンタの思う通りに!」

「うん、わかったよセラ……! でやぁぁぁぁっ!!」

 セラが両手に構えた大型ガトリング機関砲がスピンアップし、火を噴くのと同時にアンジェは両腰のスラスターに点火。腕と脚の刃を煌めかせながら、セラの援護射撃を受けながら、超加速の勢いで敵の懐へと一気に飛び込んでいく――――!!

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