第九章:切なる祈りとともに/03
「おいやめろ、幾らなんでも無茶だ!」
「無茶は承知だ! 止めてくれるな、ウェズッ!!」
「落ち着けよ兄弟! その身体じゃあ無理だ!!」
一方その頃、病室では……バンディット出現の報せを聞いた戒斗が、無理矢理に病室を飛び出そうとしていて。ベッドから起き上がろうとする彼を、ウェズがどうにかこうにか必死に止めている最中だった。
「それでも! ……それでも、俺は俺に出来ることをしたいんだ!!」
肩を掴んで止めようとするウェズの手を振り払おうとしながら、ウェズの顔を見上げながら……戒斗は真っ直ぐな双眸からブレない視線をぶつけて、ウェズにそう叫ぶ。
「例えVシステムが無くても……それでも、それでも俺は! アンジェの隣に立ち続けるって……決めたんだよ!!」
「戒斗、お前…………」
「だからウェズ、頼むから行かせてくれ! アンジェも向かったんだろ? だったら……アンジェの戦う場所が、アンジェの隣が、アンジェの立つ場所が! そこが……そこが俺の居場所なんだっ!!」
その言葉に、迷いの消えた真っ直ぐな瞳を前にして。心の底からの叫びを聞いてしまえば……ウェズの中からはもう、彼を止めるという選択肢は消え失せてしまっていた。
そうすればウェズはやれやれと諦めたように肩を竦めると、今まで戒斗の肩を掴んでいた両手をスッと彼の肩から放す。
「ウェズ……!」
「…………分かったぜ兄弟、俺の負けだ。お前の気持ち、お前の覚悟はよく分かった。……付き合うぜ、お前のその無茶によ」
「すまない、恩に着る……!!」
「貸しひとつだぜ。今度、一杯奢ってくれや」
「ああ、喜んで……!!」
呆れたようなジェスチャーを大袈裟にとってみせるウェズの横で、戒斗はベッドから起き上がる。
起き上がると、右腕に刺さっていた点滴の針をバッと抜き取り。そうすれば包帯まみれの身体で手早く私服へと着替え、そしてベッドサイドに置いてあったショルダーホルスターを掴み取れば、黒いカッターシャツの上にバッと羽織る。
「っ……!」
そうしてホルスターを身に着ける最中、戒斗は身体の節々から伝わる鈍痛に顔をしかめていた。
心配に思ったウェズが「痛むか?」と問うと、戒斗は皮肉っぽい笑みを湛えながら「まあな」と頷き返す。
「ま……気合いでどうにかしてみせるさ」
「…………無茶に付き合うとは言ったが、やり過ぎんなよ」
「分かってる、加減は心得ているさ。アンジェを二度も泣かせたくはないからな」
言って、戒斗は左手でショルダーホルスターに収められた自動拳銃、愛用のシグ・ザウエルP226・マーク25を抜く。
銃把を左手で握り締めたまま弾倉を外し、装填状況を確認。NXハイパーチタニウム弾芯の九ミリパラベラム・特殊徹甲弾が全弾フルロードされているのを確認すると、弾倉を銃把の底から叩き込む。
そうすれば右手でスライドを引き、初弾装填。改めてスライドを僅かに引き、薬室に弾が装填されているのを確認した後……ディコッキング・レヴァーを操作して撃鉄を安全位置に落とすと、また銃をホルスターに戻す。
そうした後で、最後に上からグレーのカジュアルスーツジャケットをバッと羽織った。
「行こうぜ、ウェズ」
「ああ、連れてってやるよ兄弟。お前の居場所って奴にな」
そうして身支度を終えれば、戒斗はウェズの肩を借りながら病室を後にしていく。
そんな彼の瞳からは、横顔からは――――もう今までのような暗く重い色も、迷いの色も全て消えていた。
「待っていてくれ、アンジェ――――今すぐに、俺が行くから」
(第九章『切なる祈りとともに』了)
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