第六章:風とともに羽ばたいて/01

 第六章:風とともに羽ばたいて



 意識を失っていた戒斗が目覚めてから――――重傷だったが故に暫くは入院生活が強いられている彼の元に、毎日大勢が押しかけていた。

 代わる代わるで面倒を見てくれているアンジェとセラ以外にも、時たま遥や有紀、それに南……有紀から助手扱いされている彼、みなみ一誠いっせいも頻繁に様子を見に来てくれている。

 そして、今日も今日とて戒斗の周りには――――。

「――――でね、そうしたらカイトが助けてくれて。あの時はすっごく嬉しかったんだ。だから僕もカイトを守れるようになりたいって、思って、それで……色々あって、遥さんも知ってる通り神姫になれちゃったんだ」

「ふふっ、戒斗さんらしいですね…………」

 午前十時頃。今日はアンジェの他にも遥がお見舞いに来てくれていて。病床に横たわる戒斗を挟んで対面に座る二人は、そんな風に……アンジェの昔話、幼稚園ぐらいの頃に戒斗がアンジェを助けた時の思い出話に花を咲かせていた。

 聞かされている側の戒斗からしてみれば、自分のことだけに……まあ、何とも言えない気分なのだが。しかし同時に、二人が楽しそうだからまあいいか、とも思う。こうしてわざわざお見舞いに来てくれていることだし……そんな二人が楽しそうなら、自分も楽しく思える。

「あはは、話してたらなんか小腹空いてきちゃったな」

 そうした楽しい思い出話がひと段落すると、アンジェがふとそんなことを口走る。

 すると遥が「でしたら、私が売店で何か買ってきましょうか?」と気遣うが。しかしアンジェは「いいよいいよ、僕も行くから」と首を横に振り、

「カイトも行く? ちょっとした気分転換にさ」

 と、戒斗も一緒に下の売店に行かないかと誘ってきた。

 だが誘われた戒斗は「いや、いい」と小さく首を横に振る。

「二人にこうして相手して貰っているだけで、十分に気分転換にはなってる。俺のことはいいから、二人で行ってくるといいさ」

「うーん……でも、カイトを独りぼっちにしちゃうのもな」

「……俺は子供か」

「僕からしてみたら似たようなものだよ。だよね、遥さん?」

「ま、まあ……かも知れませんね?」

 苦笑いしながら言う遥に肩を竦めつつ、戒斗は「いいから、二人で行ってこいよ」とアンジェたちに言う。

 するとアンジェは分かったと頷いて、

「じゃあ、行ってくるよ。すぐ戻るからねっ」

 そう言うと、遥とともに病室を出ていった。

「…………ありがたい話だな、本当に」

 二人が出ていって、がらんとした病室の中。ベッドの上に横たわりながら、戒斗が何気なくそうひとりごちていると――――。

「――――そうですね、貴方は本当に恵まれています」

 何処からか、唐突に少女の声が聞こえてきて。驚いたカイトがハッと声のした方に視線をやってみれば、

「美雪……!?」

「…………お久しぶりです、戒斗さん」

 開け放っていた病室の窓、その窓枠の上にしゃがみ込む形で……何故か、風谷美雪の姿がそこにはあった。

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