第四章:正義に燃えよ烈火の拳、剛烈の神姫クリムゾン・ラファール/02
頭の中に鳴り響く警鐘に導かれるがまま、飛鷹と美雪の師弟二人は現地に駆け付けていた。
真っ赤な一九七〇年式のプリマス・ロードランナーと、白と青の一九九〇年式スズキ・RGV250
場所は……都市部から少し離れた、郊外にあるショッピングモール。複数の建物から成る小規模なタイプの、オープンモールという奴だ。
そのモールの中央にある、広場のような場所。複数の小さな移動販売店があり、簡素な椅子やテーブルがあり……平時ならカップルや家族連れなんかの客で賑わっているであろうそこで、今は異形の怪人が暴虐の限りを尽くしていた。
――――ライノセラス・バンディット。
その名通り、ライノセラス……即ちサイの特性を宿したバンディットだ。
丸みを帯びた身体は灰色で、身長は二メートルを優に超える大きさ。醜悪な顔面の鼻部分は高く伸び、それこそサイの角のような形状になっている。見た目はまさにヒト型に変化したサイといった感じだ。
そんなライノセラス・バンディットが、オープンモールの広場で暴れていた。
あの怪人が暴れ出してから既に多少の時間が経っているらしく、広場には何人もの犠牲者たちが力なく転がっている。
ある者はライノセラスの象徴的な角に背後から串刺しにされ、またある者は強靭な腕での殴打をマトモに喰らい、移動販売店に叩き付けられて即死し。またある者は大きく重い身体に踏み潰され、無残な圧死を遂げ…………。
「くっ……!! 遅かった……っ!!」
そんな凄惨な光景を目の当たりにした美雪は、バイクに跨ったまま……白いフルフェイス・ヘルメットを脱ぎながら、悔しげな声を漏らしていた。
「悔やむのは後だ! これ以上を許すワケにはいかん……行くぞ、美雪!!」
飛鷹は自分のロードランナーから降りつつ、悔しさを滲ませる美雪を叱咤するように言い、そのまま暴れるライノセラスに向かって駆け出していく。
すると美雪は「……はい、師匠!」と頷き返し、バイクから降りると……同じくライノセラスに向かって走り出していった。
「ひっ……!」
「ギュルルルル……」
そうしている間にも、暴れるライノセラスは次なる標的へとにじり寄る。
狙われているのは、幼い女の子だ。どうやら逃げ遅れたらしく……腰が抜けて
「やだ、やだよぉ……っ!!」
「フシューッ……」
「誰か、誰か助けてぇ……っ!!」
鼻息を荒げ、不気味な声を上げながら女の子に手を伸ばすライノセラス・バンディット。
そうして女の子が毒牙に掛けられそうになった時、小さな彼女が涙を流しながら、心からの助けを求めた時――――そんな間一髪のところで、飛鷹がライノセラスに飛び掛かった。
「てぇりゃぁぁぁぁ――――ッ!!」
「フシュ……ッ!?」
雄叫びとともに飛鷹の繰り出した鋭い飛び蹴りを喰らい、驚きと苦悶の声が入り混じった唸り声を漏らしながら彼方へと吹っ飛んでいくライノセラス・バンディット。
「えっ……?」
飛び蹴りを喰らって吹っ飛ぶライノセラスの巨体と、目の前に颯爽と現れた赤髪の女――――伊隅飛鷹。
そんな二つの影を、女の子は
「大丈夫、もう心配いらないよ」
女の子が戸惑っていると、そんな彼女の傍にサッと風のように現れた美雪がそう、小さな身体を抱きかかえながら囁きかける。
「そこまでだ、ネオ・フロンティア!! ……美雪、早くその子を親御さんのところに!!」
バッと格闘戦の構えを取りながら飛鷹が雄々しく叫ぶ傍ら、美雪は「はい!」と力強く頷き返し、女の子を抱きかかえたままバッと地を蹴って飛ぶ。
そうすれば、美雪は少し離れた場所に立っていた……どうやらこの子の母親らしき人物のところに着地し。抱きかかえていた女の子を渡しながらこう言う。
「……もう大丈夫ですよ、早く逃げてください!」
「ありがとうございます……! 本当に、本当に……っ!!」
「礼には及びません。それより……早くっ!」
「はい……っ!」
母親は美雪から女の子を受け取り、その小さな身体をぎゅっと抱き締めながら……泣き腫らした目で、何度も美雪に礼を言っていた。
そうして女の子と母親を逃がしてやると、二人の気配が遠くなっていくのを肌で感じながら……美雪は飛鷹の隣まで走り、彼女とともにライノセラス・バンディットに正対する。
「師匠……許せません、絶対に……!!」
「罪もない人々を手に掛けたその所業、断じて許さんッ!! 行くぞ美雪、呼吸を合わせろッ!!」
「はい、師匠っ!!」
そうして頷き合うと、二人はそれぞれの構えを取り……飛鷹は両手に、美雪は右手に神姫の証たるガントレットを出現させる。
「はぁぁぁぁっ! てぇりゃぁぁぁっ!!」
雄叫びを上げながら、飛鷹は両の拳を腰まで引き……その流れのまま、両腕を大きく上に伸ばす。
バッと伸ばした両腕を、そのまま大の字になるみたく左右に広げ。すると飛鷹は広げた両腕を翻し、右の拳と左の拳、雄叫びとともに二つの拳を胸の前で勢いよく叩き付けた。
ガァンっと激しく激突する拳の間から、激しく火花が散り……同時に両手の甲には赤と黒のガントレットが――――『ラファール・チェンジャー』が出現する。
「ふん……っ!!」
美雪は低い唸り声とともに両手を身体の下でクロスさせ、静かに……しかし闘志を滲ませた構えを取る。
そうすれば、彼女の周囲に猛烈な風が吹き始め……それが一点に集まるようにして、美雪の右手には緑と白のガントレット『タイフーン・チェンジャー』が現れた。
「行くぞ……! 剛烈転身、ラファールッ!!」
「絶対に許しはしない! 疾風転身、タイフーンッ!!」
飛鷹はぶつけた拳と拳を放し、勢いをつけて腕ごと上半身を大きく左に振り、その勢いのまま身体を右に振り返し……グッと拳を握り締めた左腕を身体の前で斜めに構えながら、腹の底からの雄叫びを上げる。
同時に美雪は、構えた両腕をクロスさせたまま、バッと左方に大きく振りかぶり……勢いをつけて、両手を身体ごと大きく右側に振り返す。
そうすれば、美雪は腕をクロスさせたまま両手を反時計回りに回し。そのまま真上に構えた両腕を、バッと身体の左側に下ろした。立てた右腕を身体の左側に構え、右肘辺りに……手のひらを前に向けた構えを、添えるようにクロスさせた構えを取って。両手ともに、小指と薬指だけを折り曲げた格好で。
――――紅蓮の焔が飛鷹の身体を包み込み、猛烈な疾風が美雪の周囲を吹き荒れる。
そうすれば、次の瞬間にはもう……二人の姿は全く別のものへと変わり果てていた。
――――赤と黒の神姫、クリムゾン・ラファール。
――――緑と白の神姫、ジェイド・タイフーン。
飛鷹は腕と脚の放熱スリットから白い蒸気を吹き出し、美雪は首元の白いマフラーを靡かせながら……神姫への変身を遂げた師弟二人が、異形のサイ怪人、ライノセラス・バンディットの前に立ち塞がる。
「天竜活心拳の誇りに賭けて、貴様は私たちが倒す! ……行くぞぉっ!!」
そして、宣戦布告のような飛鷹の雄叫びとともに――――神姫クリムゾン・ラファールとジェイド・タイフーン、そしてライノセラス・バンディットとの戦いの火蓋が切って落とされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます