第二章:XGの鼓動/01

 第二章:XGの鼓動



 病室で戒斗とセラが話していたのと、ほぼ同じ頃――――純喫茶『ノワール・エンフォーサー』では。

「それで、戒斗さんは?」

「さっきも言った通り、無事に目を覚ましたよ。遥くんが心配せずとも、経過は良好だ。今はアンジェくんの代わりにセラくんが面倒を見てくれているはずだよ」

「そうですか、それは良かった……。アンジェさんも、今は家に帰られているのですよね?」

「今まさに私が病院から送り届けてきたところだ。そのついでに、こうして君のところで羽を休めているというワケさ」

「……アンジェさん、本当に心配していましたからね、戒斗さんのこと」

「全くだ。あそこまで愛されるなんて、普通はまずあり得ない話だよ。本当に幸せ者だね、彼は」

「そうですね」

 微妙な時間帯だからか、割に空いた店の中。カウンター席の端の方に座る有紀は、奥に立つ彼女――――間宮まみやはるかと笑顔でそんな会話を交わしていた。

 綺麗な青く長い髪を揺らす遥と、カウンター席でコーヒーカップを傾ける有紀。穏やかな空気の中、二人で小さく笑い合っていると……ふとした時に、カウンターの上に置いていた有紀のスマートフォンが着信でぷるぷると震え始めた。

「全く、誰だい……?」

 カップ片手に、やれやれといった様子で有紀はスマートフォンを手に取り、誰だこんな間の悪い……と思いながら画面に視線を落とす。

 すると、電話をかけてきた相手は――――P.C.C.S総司令、石神いしがみ時三郎ときさぶろうだった。

「やれやれ、私も少しは休みが欲しいよ」

 相手が石神とあらば、流石の有紀も出ないワケにはいかない。

 石神からの着信で震え続けるスマートフォンを片手に、有紀はやれやれといった風に肩を竦め。するとカップに残った珈琲の残りを一気に飲み干すと……白衣の懐から幾らかの現金を取り出し、カウンターの上に置く。

「悪いね遥くん、私はそろそろ行くよ。お代はここに置いておくから」

「はいっ。また来てくださいね、有紀さん」

 そうして有紀は席を立ち、遥と軽く挨拶を交わした後で店を出ていった。

(戒斗さん、無事で良かった)

 カランコロンとベルが鳴り、有紀が店から去って行く。

 そうして彼女が居なくなった店内で、後片付けをしつつ……遥は思う。

(でも……気になるのは、真さんのこと。そして……私の知らない私のこと)

 後片付けをしながら、内心でひとりごちながら……遥はふと、自分の右手に視線を落とす。青と白のセイレーン・ブレスを出現させた、ほっそりとした右手へと。

「私は……何処から来て、そして何処へ行こうとしていたのですか…………?」

 ブレスに問いかけてみても、何も答えてはくれない。

 ただ、頭の片隅に走る鋭く、そして小さな頭痛だけが……間宮遥の中で着実に大きくなりつつある、しかし彼女自身が未だ気付かぬ綻びを知らせていた。

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