第九章:ヴァルキュリア・フォーメーション/06

「減らず口はそこまでにしておけッ!!」

 意味不明なことを、自信満々な顔で高らかに宣言してみせた篠崎潤一郎。

 そんな潤一郎に対して叫び、戒斗は二挺拳銃を撃ちまくりながら突っ込んでいく。

「ふっ、事実を言ったまでのことさ!!」

 潤一郎はそんな戒斗の猛攻を軽々といなしつつ、右手のアルビオンシューターを巧みに操り……二連射。

 そうして彼の放った光弾は、戒斗の手の中に在ったスティレット自動拳銃を正確に捉え……二挺とも、戒斗の手の中から吹っ飛ばしてしまう。

「くっ……!?」

「その程度かい?」

「野郎ッ!!」

 拳銃を飛ばされたことに焦りながらも、戒斗は戦うことをやめようとはしない。

 潤一郎の射撃で拳銃が吹っ飛ばされた直後、戒斗はアサルトアーマーの右腕装甲……その前腕の甲に仕込まれたグレネード発射機を炸裂させた。

 増加装甲に施されたカヴァーが吹き飛び、そこから四〇ミリのグレネード弾が潤一郎目掛けて飛び出していく。

 しかもこのグレネード弾はただのグレネード弾じゃない、対バンディット戦用に調整された超高威力の榴弾だ。一撃で撃破とはいかなくても……ダメージを与えることぐらいは出来る!!

「ぐっ!?」

 まさか腕にグレネード・ランチャーが仕込まれているとは想像もしていなかった潤一郎にとって、この攻撃は完璧な不意打ちだった。

 故に回避行動すら取れぬまま、潤一郎は腹にグレネード弾の直撃をモロに喰らってしまう。

 プロトアルビオンの真っ白い装甲から激しい火花を散らしながら、後ろに大きくたたらを踏む潤一郎。

 戒斗はそんな潤一郎に対して攻撃の手を緩めることはなく、更に追撃。右腕に残ったもう一発も叩き込むと、今度は左腕装甲のグレネード二発も続けざまに叩き込んでやる。

 一発、二発、三発……と、プロトアルビオンの装甲で次々とグレネード弾が炸裂する。

 そうすれば、潤一郎は苦悶の声を漏らしながらその場で身を捩る。流石にプロトアルビオンそのものの撃破までは不可能だったが……しかし、大きな隙を作ることは出来た。

「うおおおおおっ!!」

 そうして潤一郎が大きな隙を晒すと、戒斗は後ろ腰に懸架していたKVX‐2コンバット・ナイフを左手で抜刀。逆手持ちにそれを握り締めると……あろうことか増加装甲を、アサルトアーマーを身体から吹っ飛ばしてしまう。

 強制パージ、実行。装甲の固定部に仕込まれた爆発ボルトが炸裂し、戒斗の纏うVシステムを覆っていた増加装甲が、アサルトアーマーが強制的に排除される。

 そうして弾け飛んだアサルトアーマーが地面に転がる中、身軽になった戒斗は雄叫びを上げながら潤一郎に突っ込んでいく。

 ――――全ては、奴と対等に渡り合う為だ。

 アサルトアーマーはあくまで複数のバンディットとの継続戦闘を目的とした増加装甲システムであって、一対一の戦い……それもアルビオン・システムのような強大な相手との戦いを目的としたものではない。

 寧ろ、奴との戦いでこの鈍重さは却って不利になってしまうのだ。

 そのことを、今までの僅かな手合わせで理解していた戒斗は――――重装甲というアドヴァンテージを敢えて捨てる形でアサルトアーマーを脱ぎ、通常状態でプロトアルビオンと、篠崎潤一郎と戦う判断を下したのだ。

「この程度で、僕が!!」

「今日こそ決着をつけてやる!!」

「やっぱり君は強いね……僕の好敵手ライバルたるに相応しいよ、君は!」

「その減らず口、今日限りで終いにしてやるッ!!」

 身軽になった戒斗が懐に飛び込み、左手のコンバット・ナイフを振るう。

 それに対し、純一郎はアルビオンシューターの銃身下部にある銃剣型のブレードを展開。それで以て戒斗の振るうナイフを受け止めてみせた。

 コンバット・ナイフと銃剣型ブレード、交錯する互いの刃に火花を散らしながら、ヴァルキュリア・システムとアルビオン・システム……戦部戒斗と篠崎潤一郎が至近距離で睨み合う。互いの黒と白のヘルメット越しに、赤いツインアイと青いゴーグルバイザー越しに。

「トゥアッ!」

「ぐっ!? ……この程度!!」

「っ!? ……畜生、まだだ!」

 そして触れ合っていた刃同士が離れれば、二人は格闘戦へと移行する。

 戒斗の振るうナイフが潤一郎の白い装甲を傷つけ、逆に潤一郎が振るう銃剣型ブレードが戒斗の胸、漆黒の胸部装甲を深々と抉る。

 片方に一撃を当てれば、反撃で手痛い一撃を喰らってしまう――――。

 そんな、互いに消耗し合う刃と刃の応酬。どちらも一歩たりとて退かぬ、互角の攻防戦が少しの間、二人の間で繰り広げられていた。

 だが――――ふとした時に、その力関係は一気に片方へと傾いてしまう。

(今だ……!)

「ふっ!」

「ぐぁっ!?」

 ある瞬間だ。潤一郎は戒斗の動きの中に僅かな隙を見出し、その瞬間にアルビオンシューターを撃ってきたのだ。

 至近距離から不意打ち気味に放たれた光弾は、戒斗の腹辺りを的確に捉えていて。不意打ちを食らった戒斗は腹部装甲から激しい火花を散らしつつ、後ろに軽く吹っ飛ばされてしまった。

「やっぱり手加減が許される相手じゃないみたいだね、君は……!」

 そうして戒斗が吹っ飛んでいった隙を見逃さず、潤一郎は瞬時にアルビオンシューターのローディングゲートを開き、そこから白いアルビオン・カートリッジを抜く。

 すると、潤一郎は代わりとなる別のBカートリッジを、草色のカートリッジをシューターに装填した。

『GRASSHOPPER ACTIVATE』

 そうしてローディングゲートを閉鎖すれば、アルビオンシューターから鳴り響くのはそんな電子音声。

 それが鳴り響いた瞬間、潤一郎の……プロトアルビオンの脚に、金色のエネルギーフィールドが纏い始めていた。

 ――――グラスホッパー・カートリッジ。

 その名の通り、今まさにアンジェと交戦しているバッタ怪人……中級個体である再生体グラスホッパー・バンディットの力を凝縮したBカートリッジだ。

 効果は、強大な脚力を使用者に付与すること。故にこうして今の彼の両脚に、金色のエネルギーフィールドが形成されているというワケだ。

「手加減抜きで行かせて貰うよ! ……でりゃぁぁぁぁっ!!」

 アルビオンシューターを右腰に吊るした潤一郎はそう言うと、スッと構えを取り……走り出す。

 そうして助走を付けながら一気に戒斗の懐へと潜り込み――――そうすれば潤一郎は、そのエネルギーフィールドに包まれた脚で強烈な回し蹴りを繰り出してきた。

「ぐあぁぁぁぁっ!?」

 潤一郎の不意打ちから立ち直れぬまま、戒斗は無防備なままその回し蹴りをモロに喰らってしまい……脚が激突した装甲から強烈な火花を散らしつつ、再び大きく吹っ飛んでいく。

「さあて、これでチェック・メイトだ……!!」

 吹っ飛んだ戒斗が地面に転がるのを見て、潤一郎はトドメの一撃を……鋭い飛び蹴りを転がる彼に喰らわせようとしたのだが。しかし、そうした時――――彼と戒斗との間に二つの流星が、蒼と赤の流星が割り込んできた。

「――――それ以上」

「この男に、手出しはさせないわよ…………!!」

 ――――間宮遥、神姫ウィスタリア・セイレーン。

 ――――セラフィナ・マックスウェル、神姫ガーネット・フェニックス。

 間一髪のところで戒斗と潤一郎の間に割って入ってきた二つの流星は、蒼と白、そして赤と黒。二人の気高き乙女に……神姫たちに相違なかった。

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