第一章:刹那、尊き日々の残影/05

 そんな真の突拍子もない提案を切っ掛けに、何だかんだと皆で写真を撮ることになった。

 まあ、店の中にはセラたち以外には有紀ぐらいしか客も居ないし、別にそれぐらいは構わないだろう。そういう絶好の状況だということもあり、真はノリノリでやたらめったらに皆の写真を撮りまくっていた。

 例えば――――幾つか、例を挙げてみようか。

「おいおい……どんだけ撮るつもりだよ」

「良いじゃねーのさ、こういうのは撮れる時に撮るのが大事なんだよ戒斗!」

「そーそー、シャッターチャンスって奴だよねー真さんっ」

「おう、アンジェちゃん分かってんじゃないのさ。よしきた、こっち向いてくれ!」

「こんな感じで良いかな?」

「グッドグッド! カーッやっぱアンジェちゃんの笑顔は最高だぜ! ほら戒斗、お前も早く入れよ!」

「カイトもおいでよー」

「……分かったよ、分かった分かった」

 あっちこっちに駆け回ってはシャッターを切りまくる真に戒斗が肩を竦める傍ら、アンジェはそんな彼女に笑顔で写真を撮られていて。そんな二人に呼ばれると、戒斗も仕方なしに……でも満更でもないといった風にアンジェの隣に入り、一緒になって真に写真を撮られたり。

「ふふっ、楽しそうですね」

「ああ、そうだね遥くん」

「おっとっと、そっちも忘れちゃいねえよ! ホラ遥さんも、こっち見てこっち!」

「えっと……こんな感じですか?」

「そうそう! にしても遥さん美人だなあ……戒斗のヤロー、セラちゃんといいアンジェちゃんといい、恵まれすぎてるぜ」

「真さんも十分お綺麗だと思いますよ?」

「ははは……ありがとな遥さん」

 そんな風に写真を撮られる二人の方を見つめながら、ニコニコと笑顔で様子を見守る遥と……独りマイペースに煙草を吹かしながら珈琲を楽しんでいた有紀。そんな二人の方にも真は近寄っていくと、今度は遥の写真を撮り始める。

 カウンターの奥に立つ遥は、真が感じた通り……被写体としては最高クラスだ。

 一七七センチのスタイル抜群な長身、真っ青で綺麗な髪に、整いすぎているほどに整った顔付きに浮かべる優しげな表情。そんな遥を撮るとなれば、真でなくてもこんな反応になってしまうだろう。

「というか、私も撮るのかい?」

「折角知り合ったんだし、有紀さんの写真も撮らせてくれよ!」

「まあ、別に肖像権がどうのとか言うつもりはないし、撮る分には構わないが……私なんかを撮っても楽しくはないと思うがね。それこそ綺麗な遥くんやセラくん、可愛らしいアンジェくんでも撮ってた方が良いんじゃないかな」

「またまた、有紀さんだって十分美人の部類に入るぜ?」

「ふっ、お世辞でも嬉しい言葉だね。ありがたく受け取っておくよ」

「べっつにお世辞じゃねーっての。……ホラ撮るぜ!」

「いきなりだね……」

 そうして遥をひとしきり撮りまくって堪能した後、今度は有紀の方にカメラを向けてみる。

 とすれば、自分まで被写体になるとは思っていなかった有紀が皮肉交じりにそんなことを言うが、しかし真は押し切って有紀の写真もパシャパシャと撮り始める。

「真、こっちも撮りなさいよっ!」

「よしきた! セラちゃんこっち向いて! ハイ笑って笑って! ……うっわすげえ美人。なんだこれヤベえな。撮ってる方が見とれちまうよ…………」

「ふふっ、もっと褒めても構わないのよ?」

「いやあスゲえよ……なあセラちゃん、今度真面目にウチのスタジオ来てくんない? ちょっと大真面目に撮りたいかも」

「気が向いたら行ってあげるわ。……ホラ戒斗、アンタもこっち来なさいよ!」

「ちょっ、またかよ!?」

「いいからいいから! アタシはアンタと写りたいの!」

「まあ構わないが……真、この辺で良いか?」

「オーケィ、バッチリだ! いくぜお二人さん!」

「……よし、次はアンジェもこっち来てよ!」

「ん、分かったよっ。えっと……この辺で良いかな?」

「良いじゃないアンジェ、アタシと二人でコイツ挟んであげましょうよ」

「戒斗……オメー今の状況分かってるか? 完全に両手に花じゃんかよ……畜生羨ましいな、戒斗お前ちょっとアタシと代われ」

「俺はどんな顔したら良いんだ……?」

「んー、笑顔で良いんじゃないかな? 折角カイトと僕とセラで一緒に撮るんだからさ、笑って写ろうよっ」

「……ま、そうだな」

 そんな具合に有紀を撮った後、今度はセラに呼びつけられて数枚撮ると、彼女に引っ張られて戒斗も半ば強引にフレームイン。そうしてツーショットをまた何枚か撮れば、今度はアンジェも入って三人で撮ることに。

 そうすれば、右側アンジェで左側がセラといった風な配置で……完全に戒斗を左右から挟む形に。とすれば真が意味不明な悔しさをわざとらしく滲ませるから、二人に挟まれる戒斗は凄く微妙な表情を浮かべる。

 とはいえ、アンジェにそう言われてしまうと……戒斗も自然と納得して。やれやれといった調子ではありつつも、何だかんだと三人一緒に写真を撮って貰ったり。

 ――――とまあ、幾つかの例を挙げればこんな感じだ。

 他にはカツサンドを頬張る有紀だったり、独り優雅にコーヒーカップを傾ける有紀だったり。それ以外にはカウンターの奥に立って笑顔を浮かべる遥の姿とか、四人で楽しそうに話すセラと遥、戒斗とアンジェを写したり…………。真はそんな風に、皆の日常風景みたいなものを撮っていた。

「よっし、じゃあ最後に皆で集合写真でも撮ろうぜ!」

 そんなこんなで写真を撮りまくった後、真は皆にそんな提案を持ちかけていた。

 提案した直後、真はすぐにカメラバッグに括り付けていた三脚を持ち出し……それを展開。さっきから首にぶら下げていたニコンのカメラを三脚に固定すれば、有紀も含めた皆に「こっちこっち!」と声を掛けてカメラの前に並んで貰い、手早く構図を決める。

「でも、真さんが入れないよ?」

 そうしてカメラの前に皆で立つ中、アンジェが真に……カメラの微調整をしている真に言うが。しかし真は「いいのいいの」と笑顔で首を横に振って、

「アタシはさ、あくまで写真を撮る側の人間だから。別に写んなくったって構わねーのさ」

 と、自分は映らなくても良い旨をアンジェに伝えた。

 それでもアンジェは「でも……」と食い下がるが、真は「いいっていいって」の一点張り。

 そんな中、静観していた有紀が「……ひとつ、いいかな」と呆れ顔で口を挟み、

「冷静に考えてみたまえ。そんなもの……セルフタイマーを使えば何もかも解決じゃないかね?」

 と、ため息交じりにそんな至極当たり前のことを、全力で呆れきった顔で呟いた。

「……あっ」

「言われてみれば、その通りだね……」

「あ、あははは……普段全く使わねえから忘れてたわ、セルフタイマー……」

 とすれば、アンジェと真はきょとんとした顔で顔を見合わせ。アンジェは苦笑い気味に、真は引き攣った笑みを浮かべながらそう言う。

「あのねえ……」

「ふふっ、言われてみればその通りですよね」

「……そんな機能があるのか、今のカメラは」

「いや昔からあるわよ!?」

 そんな二人に対し、セラは頭を抑えながら呆れ返り。遥はクスクスと楽しそうに微笑み、その横で戒斗が今更すぎることを呟くから……思わずセラがそれに全力で返してしまったり。

「ま、まあとにかく! 撮ろうぜ皆!」

 とまあ、こんな具合の些か間抜けなやり取りを経つつ……セルフタイマー機能の設定も終了。やっとこさ皆で写真を撮ることに。

「タイマーは十秒だ! いくぜ……ほい!!」

 カメラのシャッターボタンを押し込み、真はカメラを倒さないように気を付けつつ皆の元に駆け寄る。

 そうして真が混ざり、六人全員が揃ったところで……。

 ――――パシャリ。

 真がシャッターを押してからキッカリ十秒後、そんな具合の動作音が小さく聞こえれば、今この瞬間が……今というこのとき、この一瞬が写真の形に切り取られていた。

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