第四章:NIGHT RAID/05

「セイレーン、アンタ……!?」

 突如としてどこからともなく間に割って入り、自分を守ったウィスタリア・セイレーン……遥の姿を目の当たりにして、セラが眼を見開いて驚く。

「話している暇はありません! お二人はバンディットの対処を! 彼女は……私が相手をします!」

 戸惑うセラの方にチラリと振り向きながら、遥が普段通りの凛とした声音でそう言うと。するとセラもまた彼女の意図を――――今は一刻も早くバンディットを撃滅すべきだという彼女の意図を察し。驚いた顔のまま、クッと小さく頷き返す。

「……! ええ、任せたわよセイレーン! ホラ戒斗、ボサッとしてないで行くわよ!!」

「あ、ああ……!!」

 二人が口論していた隙を突き、この場から遠ざかっていたバット・バンディット。

 セラは美雪の対処を遥に任せると、逃げていったバットを追撃すべく戒斗とともに駆け出していく。

「…………」

 そうして二人が走り出す中、遥はすれ違いざまに戒斗と小さくアイ・コンタクトを交わしていた。

 ――――美雪さんのことは、私が。

 ――――君に任せたぞ、遥。

 そんな意図をすれ違いざま、一瞬のアイ・コンタクトで暗黙の内に交わし合った後、戒斗と遥、二人の背中は遠く離れていく。

 遥はそんな風に戒斗と一瞬だけ目を合わせた後、すぐさま目の前の、剣と脚を交える彼女……風谷美雪、神姫ジェイド・タイフーンの方に向き直る。

「ウィスタリア・セイレーン……貴女が、師匠の戦友だったんですね」

 とすれば、遥のコバルトブルーの瞳と、自身の翠色の瞳とで視線を交わし合いながら……美雪がそう、低い声でボソリと呟いた。

「師匠……? 何のことですか」

 だが遥にはその言葉の意味が分からず、疑問符を浮かべることしか出来ない。

 そうしていれば、美雪は途端に顔を強張らせ。やはり凄まじい剣幕で、遥に向かってこう叫んでいた。

「とぼけないでください、来栖くるす美弥みやッ! 師匠のことを……伊隅いすみ飛鷹ひようのことを忘れただなんて、絶対に言わせないッ!!」

「伊隅、飛鷹……!?」

 美雪の口からその名を聞いた途端、遥はまた鋭い頭痛を感じ……クッと顔をしかめる。

 そんな風に遥が鋭い頭痛を覚え始めた中、美雪は遥のウィスタリア・エッジと交えていた脚を下ろしつつ。軽く飛び退いて間合いを取りながら、目の前の遥に向かってこう告げた。

「……いいでしょう。ここで貴女の実力を試してあげます」

「私は……貴女と戦うことは望みません」

 一瞬覚えた頭痛が治まると、遥は目の前に立つ美雪に対してそう言うが。しかし美雪は「だとしても!」と叫び、

「私には貴女を超える理由がある! ウィスタリア・セイレーン!! 貴女を超えて……私が、私こそが師匠のお傍に居るに相応しい神姫だと! それを今日、此処で証明してやる!!」

 まるで宣戦布告のように叫べば、美雪はそのまま遥に向かって飛びかかってくる。

「戦うしか……ないのですか!!」

 それに対し、遥は剣を構えるしかなかった。こちらにやる気がなくても、向こうが仕掛けてくるというのであれば……もう、戦うしかない。例え相手が、風谷美雪だとしても。

 神姫ウィスタリア・セイレーンと神姫ジェイド・タイフーン、美雪は遥が遥であることを知らぬままに……神姫二人、交戦開始。





(第四章『NIGHT RAID』了)

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