第四章:NIGHT RAID/04

 戒斗たちの前、戦場に変わり果てていた日没の埠頭に突如として姿を現したのは、あの風谷美雪だった。

 横滑りしながら停まった、スズキ・RGV250Γガンマ。白ベースに紺と水色のラインが入ったレーシーなカウルが目を引くそれに跨がっている少女は、間違いなくあの風谷美雪だったのだ。

「現れたな、バンディット……!!」

 美雪はバイクに跨がった格好のまま、白いフルフェイス・ヘルメットを脱ぐと。首元の白いスカーフを潮風に靡かせながら……ドスの利いた声で呟くとともに、その顔を暗い憎悪の色に染め上げる。

 すると美雪はバイクから降りて、そのまま全速力で走り出した。

「とうッ!!」

 走り込み、バッと地を蹴って飛び上がると、美雪はそのまま生身でバット・バンディットへと強烈な飛び蹴りを喰らわせる。セラとの間に割って入るように、彼女の邪魔をするように。

「ちょっと、何すんのよ!!」

「退いてろッ!!」

「っ……!?」

 邪魔をした彼女を、必殺技『ノゥ・マーシィ』を放つのを邪魔した美雪に、セラは怒った顔で掴み掛かるが……しかしそれ以上の剣幕でギッと睨み付けてきた美雪に押され、そのままセラの方が殴られてしまう。

「行くぞ、バンディット……!!」

 そうして美雪はセラを押し退けると、その場でバッと構えを取った。両手を身体の下でクロスさせる、そんな構えを。

 彼女が構えを取った瞬間、美雪の周囲に強烈な風が巻き起こり……その風が右手の甲に集まれば、彼女の華奢な腕に緑と白のガントレット『タイフーン・チェンジャー』が出現する。

「ふん……っ!」

 そんな風にチェンジャーが出現すると、美雪は両腕をクロスさせたまま、バッと左方へ振りかぶり……勢いを付けて両手を身体ごと右側に振り返す。

 すると、そのまま美雪は腕をクロスさせたままで両手を反時計回りに回し……真上に掲げた両手を、バッと身体の左側へと下ろした。

 立てた右腕を身体の左側に構え、右肘辺りに……手のひらを前に向けた構えを、添えるようにクロスさせる構えを美雪は取ってみせる。両手とも、小指と薬指だけを折り曲げた格好で。

「疾風転身、タイフーン……!!」

 そんな構えを取ると同時に、美雪は低くドスの利いた声で叫ぶ。

 そうすれば、彼女の周りには猛烈な疾風が巻き起こり。タイフーン・チェンジャーの丸いエナジーコア、風車のようなそこに風が集まる中……美雪の身体は、眩い光に包まれる。

 すると、風が収まった頃にはもう、彼女の身体を緑と白の神姫装甲が包み込んでいた。

 ――――神姫ジェイド・タイフーン。

 彼女はセラの目の前で、緑と白の神姫装甲を煌めかせる……首元に白いマフラーを靡かせる、そんな神姫の姿へと変身を遂げていた。

「ちょっと、何言ってんのよ……!?」

「貴女は引っ込んでいてくださいッ!!」

 そんな風に美雪が変身を終えた頃、さっき彼女に殴られていたセラは怒り半分、困惑半分といった感じに美雪の肩を掴み、彼女を止めようとした。

 だが……美雪はまたも鋭く睨み付けながらそう言うと、今度はセラに向かって回し蹴りを繰り出してくる。

「くっ……!!」

「バンディットは全部、この私が殺し尽くす! 誰にも……誰にも邪魔させやしない!!」

「……ッ、でも!!」

「邪魔だ、引っ込んでいろッ!!」

 口論の末にセラと美雪の二人は揉み合いになりそうになり、美雪は怒りにまかせてセラへと二撃目の回し蹴りを放つ。

 だが――――その回し蹴りが、セラの神姫装甲に触れることはなかった。

「ッ、貴女は……!!」

「…………」

 何処からか入ってきた何者かが、振り回された美雪の脚をセラに当たる前に止めていたのだ。

 自分の回し蹴りを受け止めた何者かの姿を目の当たりにして、美雪がキッと険しい顔をする。

 そんな彼女の脚を受け止めたのは、細い長剣……聖剣ウィスタリア・エッジ。

 そして、それを構える蒼と白の神姫は。青く長い髪を靡かせる、その乙女の名は――――神姫ウィスタリア・セイレーン。即ち、間宮遥に他ならなかった。

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