第四章:NIGHT RAID/01
第四章:NIGHT RAID
――――バット・バンディット。
戒斗たちの前に突如として姿を現したそのバンディットは、まさにコウモリ怪人と呼ぶに相応しい姿をしていた。
体色は茶色に近いような黒色で、釣り目気味の顔面は醜悪というレベルを超えた気色の悪さ。外見上で最も特徴的なのは、その翼……脇の下から手首辺りまで、腕と胴体を繋ぐように生えた、まるで魚のヒレのような形状の翼だろうか。
とにもかくにも、戒斗たちの前に突如として現れたバット・バンディットは、そんな気持ちの悪い風貌のコウモリ怪人だった。
「…………」
そんなバット・バンディットが、量産型のコフィン十数体とともに戒斗とセラ、二人をジッと睨み付けている。
だが睨んでいたのも数秒のことだ。バットがクッと顎で示すと、それに呼応してコフィンたちがすぐさま戒斗たちに襲い掛かってきた。
「ったく、こんな時に……!!」
それに対し、セラは――――結果的にだが戒斗を押し倒す格好になっていた彼女はいち早く立ち上がり、襲い来るコフィンたちを巧みな体術でいなす。
ナイフを突き立ててきた奴は、そのナイフを持つ右手首を極めつつ……同時に顎先に肘鉄をお見舞いし昏倒させ。それ以外の奴には長い脚を駆使した回し蹴りなど、蹴りを中心とした攻撃を喰らわせてやる。
「雑魚はすっこんでなさい!」
そうしながら、セラは隙を見て黒革ライダース・ジャケットの左脇に手を突っ込むと……そこから大柄なリヴォルヴァー拳銃、六インチのコルト・アナコンダを引き抜いた。
革のショルダーホルスターから引き抜いたアナコンダ、ステンレスの肌が銀色に妖しく光るそれを右手一本で構え、セラは撃鉄も起こさぬままダブル・アクションで連射する。
――――雷鳴。
夜の埠頭に木霊する四四マグナムの強烈な銃声は、そう表現するに相応しいだけの轟音だった。
銃口から瞬く火花も、腕を襲う反動も、その凄まじい銃声と強烈な威力に相応しいだけのものだ。
しかしセラはそれを右腕一本で容易く受け流すと、そのまま六発全てを続けざまにブッ放す。
すると、彼女に対し更なる攻撃を仕掛けようとしたコフィンたちは怯み、上手い具合に間合いを取ってくれる。また一体に関しては、上手い具合に四四マグナム弾が眉間に命中し……頭を弾き飛ばすことで、仕留めることができていた。
「早く有紀に連絡しなさい! Vシステムをとっとと出動させるのよ!!」
そうして六発を撃ち終えた右手のアナコンダ、開いたシリンダー弾倉から空薬莢を叩き落とし……手早く懐から取り出したスピードローダーで六発を一気に再装填しながら、セラは戒斗に向かって叫ぶ。
「生憎と、まだ修理中だ……!!」
だが彼女の背後で、戒斗は起き上がりながらそう答える。
「チッ、そうだったか……!!」
セラは舌打ちをしつつ、アナコンダのシリンダー弾倉を手首のスナップを利かせて片手でガチャンと嵌め直し。するとジーンズのポケットから何かを取り出せば、それを背後の戒斗に投げ渡した。
「んん……!?」
戸惑いながらも、咄嗟に空中で掴み取った戒斗が手のひらの中を見ると。するとその中にあったのは車のキー……すぐ傍に停まっている、彼女のダッジ・チャージャーのキーだった。
「これでどうしろって!?」
「トランク!」
どうして今のタイミングで車のキーを渡したのか、戸惑う戒斗が問いかけると。セラはコフィンたちに向かってアナコンダを撃ちまくりながら、背後の彼にそう叫び返す。
「とっておきのベイビーが積んであるのよ、それでコフィンどもの対処をお願い!」
「こんなこともあろうかと、って奴だな……! オーライ、そっちは任せろ!」
続くセラの言葉で彼女の意図を察すると、戒斗はニヤリと不敵な笑みを浮かべ返し。受け取ったキーを握り締めながら、そのまま背にしたチャージャーの方へと走っていく。
「準備までの間ぐらい、アタシが時間を稼ぐ……!!」
そうして戒斗がチャージャーの元に駆け込んでいく中、セラは周囲のコフィンを射撃と体術でなぎ倒しつつ……隙を見てアナコンダをジャケットの下、ショルダーホルスターに収め直す。
愛銃を仕舞ったセラは、その場でバッと構えを取った。身体の前でクロスした両手、手の甲を見せつけるようにクルリと回す構えを。
そうすれば、彼女の両手の甲に赤と黒のガントレットが――――『フェニックス・ガントレット』が閃光とともに出現する。
「――――重装転身!!」
ガントレットが出現した瞬間、セラは雄叫びを上げ。身体の前でクロスしていた両腕を、そのまま腰の位置まで引き下げる。
すると――――彼女の身体は眩い閃光に包まれて。そうすれば次の瞬間にはもう、セラは神姫の姿へと変わり果てていた。
…………神姫ガーネット・フェニックス。
赤と黒の神姫装甲に包まれた重火力の乙女が、異形の怪人たちの前に姿を現していた。
状況を鑑みて、基本形態のガーネットフォームだ。セラは両手にレヴァー・アクション式のショットガンを出現させると、それでコフィンたちの注意を引きつつ……今まさに戒斗を襲おうと、飛び立とうとしていたバット・バンディットに飛びかかっていく。
「でやぁぁぁぁっ!!」
セラの雄叫びと、断続的に響くショットガンの銃声。
それを背中越しに聞きながら、戦う彼女の気配を感じながら、戒斗はチャージャーの元まで走り。大柄な黒いボディの後部に回ると、そこにある鍵穴にさっき受け取ったキーを差し込んで捻った。
すると、閉じていたトランクがバコンと音を立てて解放される。
そのトランクを上に跳ね上げた戒斗が、この時代のアメ車特有の、無意味なぐらいにだだっ広いトランクルームの中に見たのは……横長の、長方形の形をした黒い樹脂製のハードケースだった。
「これは……」
トランクルームにあったのは、ペリカン社製の頑丈なライフルケースだ。
恐らくセラの言う『とっておきのベイビー』というのは、このケースのことだろう。厳密に言えば、その中身か。
そう思った戒斗は、戸惑いながらもライフルケースに手を掛け。それのロックを解除し……開いてみる。
「AR‐15に……冗談だろ、グレネード・ランチャーまで!?」
パカリと開いたライフルケース、その中に鎮座していたのは――――軍用の、自動ライフルだった。
――――コルト・M727。
米軍の物で、通称『アブダビ・カービン』。八〇年代の古い自動ライフルで……銃身の短い、いわゆるカービン・ライフルという奴だ。
伸縮式の銃床に十四・五インチ寸法の取り回しやすい短銃身は、現代のM4カービンに準じている。
また、ライフル上部のキャリング・ハンドル……持ち運ぶときに便利な、要は取っ手だ。それは銃から取り外せない固定式だから、仕方なしに直接ハンドルの上に照準器を、エイムポイント社製のCOMP‐M2ドットサイト照準器を取り付けてある。
加えて、円筒形のハンドガード下部を取り外し。そこには……なんと、強力なM203グレネード・ランチャーまでもが装備されていた。四〇ミリ口径のグレネード弾をブッ放す、強烈な軍用火器だ。
M727本体もフルオート機構を装備した完全な軍用モデルだし、これはどう見たって民間人が所有できる代物ではない。
だが……Vシステムも使えない今の状況下、これほど頼れるものは他になかった。
「ただのグレネードじゃないわ、対バンディット戦用のスペシャルな四〇ミリよ! コフィン程度なら軽く吹き飛ぶはず……試してみなさい、戒斗!!」
ニヤリとしたそんなセラの叫び声が響く中、戸惑っていた戒斗もまたニヤリと不敵に笑むと……そのライフル、M727アブダビ・カービンを掴み取る。
「そうさせて貰おうか……!!」
戒斗はライフルと一緒にケースに収められていた、樹脂製の弾倉ポーチを右腰に括り付け。同時にグレネード用の弾帯ベルトも袈裟掛けにしつつ、M727本体にも弾倉を叩き込む。
アルミ製の三〇連発スタナグ弾倉を叩き込み、チャージング・ハンドルを引いて初弾装填。伸縮式の銃床もいっぱいまで引き延ばすと、ついでにハンドガード下部のM203グレネード・ランチャーの銃身も前にスライドさせ、そこに弾帯ベルトから掴み取ったグレネード弾を一発シュコっと装填し……銃身を元の位置に引き戻す。
安全装置も解除し、セレクターは一気にフルオート位置だ。
戒斗はそんなM727の銃把を左手に握り締めると、クルリと後ろに振り返り。バッとライフルを構えると、一気にバット・バンディットへと突っ込んでいくセラの代わりに……彼女の周りに展開する量産型、コフィン・バンディットたちの対処を始めた。
「さあ、踊ろうぜ……!!」
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