第二章:紅蓮と金色と、神姫たちは風に誘われて/01

 第二章:紅蓮と金色と、神姫たちは風に誘われて



「にしてもよお戒斗、やっぱ祝日に講義があるのって納得いかねえよなー……」

「全くだ。いつもならサボっちまうとこだが……」

「今日ばっかりは必修も必修だもんなあ。アタシもサボれるモンならサボりたかったよ」

 それから数日後の金曜日。祝日のこの日、普段の平日と同じように私立御浜国際大学に来ていた戒斗は、艶やかな黒いウルフカットの髪を揺らす、腐れ縁の少女――――翡翠ひすいまこととともに、無意味なまでに広大なキャンパスの中を歩いていた。

 何故かと問われれば、単純な話で。今日も今日とて講義があったためだ。

 今日は祝日ではあるものの、大抵の大学は祝日だろうが関係なく授業があるもので。それは戒斗たちが通う、この私立御浜国際大学も同様だった。

 故に、二人はこうして文句を垂れながら、折角の祝日だというのに気怠い調子でキャンパス内を二人して歩いているというワケだった。

 戒斗も真も、祝日に授業があるなんて気に入らない。だから普段なら平気でサボってしまうところだが……二人の会話にもあった通り、今日はどうしても受けなければならない講義があったのだ。

 だからこそ、二人はこの場に居て。面倒な講義を無事に終えた今、戒斗は真と行動を共にしているのだった。

 ――――翡翠真と戦部戒斗は、中学時代からの腐れ縁だ。

 彼女とは昔から、不思議とこうして一緒に行動することが多かった。中学の時も、神代学園に通っていた時も、そして今も。

 真が戒斗と同じこの大学に進学したこと自体は、真が彼への淡い恋心を抱いているが故……といった事情があるのだが。しかし真の意志が介在しない場所でも、二人は何故だかこんな風に一緒に行動することが昔から多かったのだ。

 不思議な縁、という奴だろうか。とにもかくにも、戒斗は今までの例に漏れず……今日もまたこうして真と行動を共にしていた。

「腹減ったなあ。戒斗、学食行かねえ?」

「ん? まあ……そうだな。たまには真に付き合うか」

「やっりぃ! じゃあ今日は戒斗の奢りな!!」

「駄目に決まってんだろ」

「ぶー、良いじゃんかよ別にー。こーんなに可愛い女の子が頼んでるんだぞー? 奢ってくれたって良いじゃんかよ」

「駄目なものは駄目だ。諦めろ、真」

「ひでえなあ、戒斗がそんなに女の子に優しくない薄情者だとは知らなかったぜ」

「違う、間違っているぞ真」

「どこがだよ?」

「俺は女の子に優しくないんじゃない、真に優しくないんだ」

「ひっでえ!」

「…………冗談だ。今日ぐらいは奢ってやるよ」

「マジで?」

「マジだ。ただし限度ってモンを考えてくれよ」

「やっりぃ!! さっすが戒斗、気前が良いじゃねーか!!」

「さっきまであんなにブーブー言ってた癖に、調子が良いというか現金というか……ま、その辺も真らしいか」

 だだっ広いキャンパスの中を歩きながら、二人でそんな風になんてことのない会話を交わしつつ。戒斗と真は二人揃って学食棟の中へと入っていく。

 入って行った後、学食の中にある券売機でそれぞれ食券を……今日は真の分のお代も戒斗持ちで買って、昼食を調達。カウンターで受け取ったトレイを持ち、適当に空いている席へと着く。

 微妙に昼時からズレた時間帯だからか、今の学食は割に空いていた。見受けられる客の数は……パッと見で四組か五組といったところか。

 そんなガラガラな学食の中、二人は窓際の四人掛け席に着き。対面に向かい合いながら、昼食を摂りながらでまた他愛のない会話を交わしていた。

「ってか戒斗、この後どうすんだ?」

 そうして箸を動かしながらの会話の最中、真はふと思い立ってそんなことを目の前の戒斗に、何気ない調子で訊いてみる。

「用事があるからな、昼飯が終わったらとっととおいとまさせて貰う」

「ははーん、まーたアンジェちゃんでも迎えに行こうってえのか?」

 相も変わらずぶっきらぼうな調子で答えた戒斗に、真はニヤニヤと好色じみた笑みを浮かべてそんなことを言うが。しかし戒斗はそんな真に対し、肩を竦めつつ「……今日は祝日だ」と呆れ気味に返す。

「あ、そっか」

 とすれば、真は今更ながらそのことに気が付いたようで。ぽかーんと間抜けに大口を開けた後、照れ隠しのように小さく笑う。

 ――――今日は祝日、即ち神代学園は休みだ。

 だから、今日ばかりはいつものようにアンジェを迎えに行く必要もない。これが平日だったのなら、真に言われた通りにアンジェを迎えに行くところだったが……休日ということは、今日はその必要もない。故に戒斗はこの後、本当に別件で用事が入っているのだ。

 ――――閑話休題。

「にしてもよ、なんだか最近は忙しそうだな、お前」

 そうして戒斗が呆れ返っている中、照れ隠しの笑顔から薄い笑みに表情を戻した真はそう、何気なしに口にする。

「なんだよ、藪から棒に」

「いやさ、最近の戒斗見てっと、どーにもそう感じるんだよな。なんつーか、急に生気が戻ってきた感じ? なんだよ、やりがいのあることでも見つけたのか?」

「…………ま、そんなところだな。前にも君に言った通りだ」

 戒斗が遠い目をしながら答えると、真は「へへっ」と嬉しそうな笑顔を見せ。

「なら良いことじゃんかよ。戒斗が何をやってるのかは知らねえし、聞きたくもないけど……でも、やりたいことがあるってのは良いことだ」

 と、心の底から嬉しそうにそんな言葉を投げ掛けてくれた。

「かもな」

 そんな真に、戒斗はフッと小さな笑みを返す。

 とまあ、こんな風な会話を真と交わしつつ……いつの間にか、昼食の時間は過ぎていった。

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