第一章:揺れ動く心、不穏の気配と戸惑いと/03
――――その頃、篠崎邸では。
人里離れた場所に建つ豪華絢爛な洋館。そんな館の広間にはいつものように篠崎財閥の現当主・
「先日の成果は上々ですわ、お爺様。グラスホッパーの修復作業も進行中、次の計画も既に始まっています。ひとつ気掛かりな点があるとすれば、あの新たな神姫……ジェイド・タイフーンのことですが。しかし、そちらも問題ありませんわ」
「うむ、よくやったね香菜」
香菜の報告に、十兵衛は満足げな顔を浮かべ。その後で「香菜、次の計画とやらについて話しておくれ」と十兵衛が言うから、香菜はニコリと微笑んで説明を始めた。
「次の計画というのは、バット・バンディットの実戦テストですわ」
「ちょっと待ってくれ姉さん、僕の記憶が確かなら……バットは確か、暗闇でしか活動できない欠陥品とか言ってなかったかい?」
香菜が説明を始めた直後、潤一郎が珍しく口を挟んできて。そんな風に怪訝な顔をして言う彼に対し、香菜は露骨に嫌そうな顔をしてこう言った。
「馬鹿とハサミは使いようという言葉がありましてよ、覚えておきなさい潤一郎」
突き放すような調子で言う香菜に、潤一郎は「ま、姉さんは僕と違って頭が良いし、ちゃんと考えがあるんだろうけどね」と言って肩を揺らすと、また傍観者の立場へと戻っていく。
そうして潤一郎が引っ込む中、香菜はコホンと咳払いをして。表情も声のトーンも上機嫌なものに戻すと、改めて十兵衛に説明を……バット・バンディットとやらの実戦テストに関する説明を始めた。
「バットはご存知の通り、性能こそ低いですけれど、でも暗殺用としては悪くないバンディットですわ。機動性も高いですし、より良い使い方を模索してみたいんですの」
香菜の説明を聞き、十兵衛は「ふむ」と思案するように暫しの間、唸る。
「ふむ……面白い。構わんよ香菜、思う通りにやってみなさい」
そうして思案をした後、十兵衛は
「ありがとうございます、お爺様」
香菜は許可してくれた祖父にペコリ、と恭しくお辞儀をする。
そんな彼女に対し、潤一郎は全く別のことを問いかけていた。
「そういえば姉さん、『アルビオン・システム』の調整は出来たのかな?」
そんな弟の問いに、香菜は不機嫌そうな顔を浮かべながら「……ええ」と頷き、
「プロトアルビオンの調整なら、とっくに完了していましてよ。折角ですわ、潤一郎も出たらどうかしら?」
「いいね、やってみるよ姉さん」
潤一郎が爽やかな笑顔で頷くと、香菜はやれやれといった風に肩を竦め。そうすれば、テーブルの上……潤一郎の前へと黒いアタッシュケースをゴトンと置く。
そのアタッシュケースを見て、潤一郎は子供のような笑顔を浮かべ。すぐにアタッシュケースを手に取ると、ロックを解除して開いてみせる。まるで新しいおもちゃを買って貰った子供が、包みを開くときのような……そんな無邪気そのものな顔で。
そうして、無邪気な笑顔を浮かべる潤一郎が開いたアタッシュケース。その中には――――真っ白い、巨大な拳銃のような物が収められていた。
(第一章『揺れ動く心、不穏の気配と戸惑いと』了)
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