第七章:少女は風に誘われて/01
第七章:少女は風に誘われて
そんな出来事があった一日が終わりを告げ、普段と何も変わらずに始まりを迎えたこの日。今日も今日とて、戒斗はアンジェを乗せたZをいつものように早朝の私立神代学園の校門前へと滑り込ませていた。
校門前へと横付けしたZから降り、戒斗が助手席側のドアを外側から開けてやる。
「あっ、おはよー」
「ええ、おはようアンジェ。それに戒斗も」
そうしてアンジェが車から降りた頃、二人は偶然にもセラと鉢合わせしていて。アンジェがいつものように微笑んで声を掛けると、セラもセラで薄い笑顔を浮かべながら、二人にそうやって挨拶を返してくれた。
「遥さんから聞いたよー。あの後、お店に来てくれてたんだね」
「……ええ。遥に話を聞いて貰ったお陰で、アタシも色々と吹っ切れたわ。二人とも、今まで辛く当たって悪かったわね」
「気にするなよ。君の事情は……あの時は間が悪くて聞きそびれちまったが、俺も何となく察してはいる。そのことを思えば、無理もない話だ」
「僕は最初から全然気にしてないから、セラも気にしないで。僕はセラともっともっと仲良くなりたいだけだからさっ」
申し訳なさそうな顔で今までのことを詫びてくるセラに、戒斗は普段通りの調子で、アンジェは笑顔でそう言う。
すると、セラはフッと小さく笑み。薄く柔らかな笑みを浮かべながら、二人にこんなことを呟いた。
「……………二人とも、やっぱり優しいわね。アンタたちは優しすぎるぐらいに優しいわ」
戒斗と、それにアンジェ。目の前に立つ二人の顔を交互に見つめながら、セラは小さくそんなことを呟いていた。
そんな風にセラが薄く笑んでいると、アンジェは笑顔のままで彼女の手を取り。すると「ほら、行こっ!」と言って、セラの手を引いて駆け出し始める。
「ちょっ、待ちなさいよアンジェっ!? 転んじゃうって!!」
アンジェに急に手を引かれて、思わず転びそうになりながら。セラは戸惑いつつも、連れられるがままにアンジェと一緒に校門の向こう側へと消えていく。
そうやって駆けていった二人の背中を、遠くなっていくアンジェとセラの背中を、戒斗は独り安堵した表情で見送っていた。
昨日、遥から聞いていた通り、セラは色々と吹っ切れたようだ。昨日まで彼女の顔にあった影色や、背負っていた重い何かの気配は、もう今のセラからは完全に消えている。
これで、ついでに遥との……ウィスタリア・セイレーンとの不仲も解消してくれればとも戒斗は思うが、その辺りはセラ次第だ。出来ればそうなって欲しいが、こればっかりはどうなるか分からない。二人の問題は、結局のところ二人次第なのだから。
「あの……戒斗さん?」
そうして戒斗がZのオレンジ色のボディに寄りかかりながら、遠くなっていく二人の背中を見送っていると。すると彼は何処からか、別の少女に声を掛けられていた。
「君は……確か昨日の」
声のした方に振り返ってみれば、するとそこに立っていたのは――――昨日アンジェと一緒に助けたあの少女、
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