第六章:静かな月明かりの下で/02
「風呂、もう入ったのか?」
「うん、ついさっき出たところ。カイトは?」
「右に同じく、だ」
――――深夜。
半月が照らす夜空の下、戒斗とアンジェはいつものように隣同士になった自室の窓を開け、窓越しにそんな会話を交わしていた。
「それにしても、さっきは皆すっごい顔して驚いてたねー。あの時のパパとママの顔といったらもう……」
「当然だよな。パトカーで突然帰ってくれば、あんな顔にもなるさ」
つい数時間前の出来事、二人でパトカーに乗って家まで帰ってきたときの……両親や遥の唖然とした反応を思い出し、アンジェがクスクスとおかしそうに笑い。戒斗もそれに言葉を返しつつ、同じように笑みを浮かべる。
「…………美雪ちゃん、よかったね」
そうして二人で笑い合っていると、ふとした時に少しだけ遠い目をしたアンジェがポツリ、と呟いた。
戒斗は彼女の言葉に「ああ」と頷き返し。同じように遠い目をしながら、遠くの夜空と……半月の月明かりを眺めながら、続けて独り言のように呟く。
「本当に……よかった」
と、心の底からの純粋な気持ちが滲み出た、そんな言葉を。
「あの時のカイト、昔僕を守ってくれた時みたいだった。……やっぱり、カイトは優しいね」
「さっきも言ったけど、アンジェが居なきゃ流石に躊躇してたさ。不審者だと思われかねないからな」
「でも、カイトは結局一人だったとしても、美雪ちゃんに手を差し伸べていたと思うよ?」
「そうか?」
「うん、僕には分かるよ。だって……カイトは、誰よりも優しい男の子だから」
「……買い被りすぎだ」
「ううん、違うよ? 買い被りなんかじゃない。カイトがどれだけ優しい心の持ち主なのかは、一番近くでずっと一緒に居た僕が、誰よりも知っていることだから」
「…………アンジェがそう言うのなら、そうなのかも知れないな」
「そうだよ、君はそうなんだ」
二人で呟き合いながら、小さくそっと夜空を、月を見上げてみる。
「…………やっぱり僕は、神姫になってよかったと思ってるよ」
そうして二人で月を眺めていると、アンジェが何気ない調子でそんなことを呟いて。戒斗がそれに「どうしたんだよ、藪から棒に」と言うと、アンジェは見上げる視線を窓越しの彼へと向け直しながら……アイオライトの瞳で見つめて、そっと戒斗に囁きかける。
「僕はカイトの為に戦うって決めた。それは多分……ううん、間違いなくこの先も永遠に変わらない。それが、僕が神姫として戦う理由だから」
「…………」
「でも……同時に、さっきこうも思ったんだ。僕らが見つけた時の美雪ちゃんみたいに、悲しそうな……寂しそうな顔をしている誰かを、一人でも多く助けられたらって。
僕に出来ることは、遥さんやセラに比べたら、ずっと小さなことなのかも知れない。でも、それでも……僕は、僕に出来ることをしたいって。美雪ちゃんを見ていて、僕はそう思ったんだ」
「アンジェ…………」
「でも、一番はカイトだからね? そこは未来永劫、絶対に変わらないから。僕の力は、僕の手に入れたこの光は。他の誰でもない、カイトの為に……あの時、手に入れた光だから」
細く、でも確かな芯のある声で呟くアンジェに、戒斗はフッと笑みながら「……俺もだ」と呟き返す。
「――――俺も、アンジェと生きるためにあの力を、あの光を……ヴァルキュリア・システムを手に入れた。アンジェ独りだけを戦わせたりはしない。
だから……約束だ。アンジェが俺のために力を使うというのなら、俺もまたアンジェの為にこの力を使う。他の誰でもない、君だけの為に」
「…………ふふっ、そっか」
「ああ、そうだ」
微笑むアンジェと、横目の視線を向けながら微笑み返す戒斗。
こうして、出逢いの夜が更けていく。柔な風が頬を撫でる、そんな静かな夜が。穏やかな半月の月明かりに見守られながら、ただ静かに…………。
(第六章『静かな月明かりの下で』了)
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