第一章:BLADE DANCERS/01

 第一章:BLADE DANCERS



「チッ、結構多いわね……!」

 頭の中に鳴り響く警鐘に導かれるがまま、敵の現れた場所に愛用の真っ赤なクルーザーバイク、二〇一五年式のホンダ・ゴールドウィングF6Cで滑り込んでいったセラが目の当たりにしたのは、彼女の予想を超えた敵の軍勢だった。

 場所は立体駐車場の中。そこには三体のバンディットと……そして例の量産型、コフィン・バンディットが十五体ほど集っている。

 その三体のバンディット、ひとつは蒼に近いような濃い紫の体色をした……まるで、サソリのような見た目をしたバンディットだった。

 ――――スコーピオン・バンディット。

 両手が甲殻類のハサミのような形状をしていたり、明らかに毒の類を有している、それこそサソリとそっくりな尻尾を生やしていたり、やはり身体の節々が硬い甲羅のような構造になっていたりと。その特異な見た目からして、一発でサソリの類だと分かる怪人がまず一体。

 それ以外にも、どう見てもゴリラの類な……ゴリラをより巨大に、そして醜悪にしたような見た目の黒いバンディットが一体。そして逆にほっそりとした、黄色と黒のドギツい警戒色が目を引く……こちらも明らかに蜂の類なバンディットが一体。スコーピオンと合わせて、計三体がセラの前に立ちはだかっていた。

 ――――コング・バンディット、そしてホーネット・バンディット。

 分かりやすい見た目をしたその二体は、それぞれそういう名の怪人だった。

「っ……!!」

 そんな三体のバンディットは、今まさに立駐の中に偶然居合わせていた人々を襲っているところだった。

 スコーピオンの毒針に刺されてしまった、スーツ姿の男性が身体中を紫に変色させながら毒殺されていて。その横ではコングの巨体に抱きつかれ……そのまま力いっぱい抱き締める、要はベアハッグでグチャリと身体を押し潰される形で、必死の抵抗を試みた警備員が圧殺されている。

 更に少し離れた場所では、逃げ惑っていたOLと思しき女性二人がホーネットに襲われていて。低空を滑空する怪人の指先から射出された細い毒針に刺されると、やはりそのままバタンと卒倒してしまっていた。

「ふざけた真似を……!」

 そんな光景を目の当たりにしたセラは、被っていた赤いジェット・ヘルメットを脱ぎながらバイクを降り。闘志剥き出しの表情を露わにしながら、バッと突き出した両手を身体の前でクロスさせる。

 クロスした両手を、手の甲を見せつけるようにクルリと回す。

 すると、眩い閃光と低い唸り声とともに……彼女の両手に、赤と黒のガントレットが現れる。

 ――――フェニックス・ガントレット。

 セラフィナ・マックスウェルが神姫たる証を両手の甲に出現させた彼女は、雄叫びとともに構えを取った。

「重装転身!」

 身体の前に突き出し、クロスさせた両腕を腰の位置までグッと引く。

 すると、高鳴る唸り声と強烈な閃光にセラの身体は包み込まれ――――そうすれば、彼女の身体を一瞬の内に赤と黒の神姫装甲が包み込み。セラは瞬時にその姿を神姫ガーネット・フェニックスのモノへと変貌させていた。

「行くわよ!」

 基本形態のガーネットフォームに変身したセラは、虚空よりレヴァー・アクション式のショットガンを二挺呼び出し。それの銃把を両手に握り締めると、二挺拳銃……拳銃ではないのだが、つまり両手で振り回す形で構え、非道の限りを尽くすバンディットたちの懐へと飛び込んでいく。

「邪魔だぁッ!!」

 行く手を遮る雑魚、コフィンを数体ほどショットガンで吹き飛ばしつつ、両手のショットガンをくるくると回してスピンコックで再装填しつつ……セラはまず、一番面倒そうな相手と判断したコング・バンディットの懐へと飛び込んでいった。

「ガラ空きよ!」

 その巨体が故に鈍重な動きしか出来ないコングの懐に容易く潜り込むと、セラはニヤリと不敵な笑みを湛えて右手のショットガンを構え。その銃口をコングの顔面に突き付ける。

「その首、貰ったぁッ!!」

 セラはそのまま引鉄ひきがねを絞り、ショットガンを発砲。銃口で強烈な火花が瞬き、コングの顔面へと零距離から散弾が叩き込まれる。

 取った――――。

 至近距離から顔面への一撃、これで仕留めた。

 確かな手応えを感じつつ、セラはそう確信していた。

「グルルルル……」

「嘘……!?」

 だが――――散弾を顔面にモロに喰らったはずのコングはピンピンしていて。ハッと眼を見開いて驚くセラを睨み付けると、威嚇の声を上げながら……無防備な彼女を、その豪腕で横薙ぎに殴り付けてきた。

「がぁっ!?」

 コングの殴打をモロに喰らい、セラはショットガンを取り落としながら大きく吹き飛んでいく。

 そうすれば、吹っ飛んだ彼女の身体は立駐に停まっていたセダンに激突。彼女の背中が叩き付けられた車のフロント・ウィンドウが粉々に砕ける中、セラは呻きながらどうにか車のボンネットの上から地面に転げ落ちる。

「なんて硬さなのよ……!?」

 地面に転がり、どうにかこうにかセラは立ち上がるが――――そこに、ドスンドスンと重い足音を立てながらコングが迫ってくる。

「グルルルル……!!」

「ああもう! しつこい男は嫌われるわよ!?」

 そうして接近してきたコングに……セラは反撃が間に合わないと即座に判断。コングが連続して繰り出してくる殴打に対し、セラは敢えて回避に徹した。

 ひょいひょいと飛び跳ね、時には壁を蹴って三角飛びをすることで回避。

 そんな風にセラが避ける度、空振りしたコングの豪腕が立駐の床を、壁を、停まっている車を、そして太い鉄筋コンクリートの柱を粉々に吹き飛ばしていく。

「っ…………!!」

(こんなの……マトモに喰らったら、今度こそヤバいわよね…………!!)

 そんなコングの凄まじい威力を目の当たりにして、それを飛び退いて避けるセラは内心で青ざめていた。

 さっきはそこまでの威力が乗せられていない一撃だったから、運良く軽傷で済んだだけだ。もしも真正面からこの威力の拳をマトモに食らってしまえば……今度こそ、生命いのちは無いかも知れない。

「っ、やっば……!!」

 セラがそんな風にコングを冷静に分析していると、すると彼女はいつの間にか壁際にまで追い詰められていた。

「グルルルル……!!」

 気付いたセラが逃げる間もなく、拳を振りかぶったコングが迫ってくる。

 このままでは、やられてしまう――――。

「ちぃっ!!」

 仕方なしにセラはその場でガーディアンフォームへとフォームチェンジ。咄嗟に出現させた巨大なシールドを構え、それで以てコングの強烈な殴打を防ぎ、危機一髪の状況を凌いだ。

「グオオオ! オオオオオ!!」

「ったく、執着強すぎ……!! 悪いけどね、アタシはアンタみたいなのは趣味じゃないのよ!!」

 だが、コングの攻撃はそれだけでは収まらない。

 一発が防がれたと見ると、コングはセラの構えたシールドに対し何度も、何度も何度も……それこそラッシュと表現するに相応しい勢いで拳を連続して繰り出してくる。

 それをシールドで防ぐセラは、表面上でこそそんな軽口を叩いていたが……しかし、内心では冷や汗を掻いていた。

(この威力、やっぱりモロに貰ったらヤバいわ。それに……他の連中も、じきにアタシの方に来る。早めに何とかしないとね…………)

 実際、コングの一撃一撃はセラの想定以上に重い。鉄壁を誇るこのシールドで防げてはいるが……しかしシールドを構える腕が痺れてくるぐらいの威力だ。

 まして、敵はコイツ一体だけではない。今でこそスコーピオンもホーネットも、他のコフィンたちも逃げ惑う人々に気を取られているが……いつセラの方に注意が向くか分からないのだ。

 だとすれば――――やれることは、こちらも力押し。圧倒的な火力による広範囲殲滅が最善手だ。

「さあてと――――!!」

 そうしてセラがシールドでコングを押し返し、重砲撃形態のストライクフォームへフォームチェンジしようと構えた――――その瞬間だった。

「――――チェンジ・ミラージュ!!」

 何処からか駆けてきたアンジェ、アンジェリーヌ・リュミエールが左手の甲に赤と白のガントレット『ミラージュ・ブレス』を出現させ、走りながら神姫ヴァーミリオン・ミラージュに変身し……今まさにセラがシールドで押し返したコング・バンディットに向かって、全速力で飛びかかってきたのは。

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