第十章:ヴァルキュリア・スクランブル/01

 第十章:ヴァルキュリア・スクランブル



 ――――そうして戒斗が有紀から最悪の報せを受けていた頃、間宮遥もまた敵の出現を感じ取っていた。

「ッ……!?」

 夕飯の食材の買い出しを頼まれ、バイクを走らせていたのだが。しかし遥はその最中に突然、頭の中に耳鳴りのような甲高い感覚を覚えていた。

「この感覚は……バンディット!?」

 ある意味で慣れ親しんだこの感覚、本能の告げる警鐘をまさか彼女が間違えるはずもない。この感覚は――――間違いなく、敵の出現を知らせるものだ。

 だが、今日は何かがおかしい。普段に比べて何倍も感覚が強いというか、強烈に感じるというか……とにかく、変なのだ。

(まさか……私の想像もしていない数が、一度に現れたとでも?)

 可能性としては考えられる話だ。これだけ強い警鐘は……記憶を失った一年半前から今日に至るまで、遥は一度も感じたことがない。少なくとも、彼女が間宮遥を名乗っている間は、これほどまでの強さで感じたことは一度もないのだ。

 だとすれば、きっとこの予想は当たってしまっている。ふと頭に過ぎった、最悪の予想は的中してしまっているだろう。

 しかし――――それでも、行かなければならない。

 例え敵の数が自分の想像を絶していようとも、それでも敵が現れたのならば……遥に背を向けるという選択肢はないのだ。神姫として、大切な誰かの笑顔を護り抜く為に。

「少し遠い……でも、必ず間に合わせます」

 そう思うと、遥は道路のド真ん中でバイクを派手に横滑りさせながら停め。そのまま後輪を激しく空転させつつ、真後ろにUターン。そうすれば、今までとは全く別の方向へとフルスロットルで駆けていく。ひとえに、誰かの笑顔を守るために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る