エピローグ:雨の奏でる詩/02
一方その頃、P.C.C.S本部の地下にある篠宮有紀のラボでは。
「ふむ…………」
電灯の灯されていない薄暗い部屋の中、エルゴノミック・チェアに腰掛けた篠宮有紀は独り、デスクトップPCに接続してある目の前のモニタに映る映像データをじっと眺めていた。
有紀の見るモニタに映し出されているのは、今回の戦闘で得られた映像データだ。そこには謎の神姫ウィスタリア・セイレーンと、セラの変身した姿である神姫ガーネット・フェニックス。そして……覚醒したアンジェが変身した、神姫ヴァーミリオン・ミラージュの姿がそれぞれ収められている。
「アンジェリーヌ・リュミエール……アンジェくんか。まさか、喫茶店のあの
ひとりごちながら、有紀は傍らにあるPCのマウスを操作して。モニタに流す映像データを別のものに……先日、商店街で起こった戦闘の映像データに切り替えた。
そうして画面に映るのは、蒼い焔が揺れる商店街の中に立ち尽くすセイレーンの姿と、そして彼女に守られていた戒斗とアンジェの二人。三人とも、ハッキリとその姿をカメラに収められていた。
――――実を言うと、戒斗とアンジェの二人があの場に居合わせていたことを、有紀は初めから知っていた。
それをセラが隠していることも、最初から全て承知の上で黙っていた。彼女が何故こんな大事なことを隠していたのか、報告義務を怠っていたのか……その理由も、有紀は何となく察している。
察した上で、敢えて有紀は見逃していたのだ。総司令官の石神にも隠したまま、自分の胸の内だけにひっそりと収めていた。
「……セラくんに、そしてウィスタリア・セイレーン。多くの神姫と接触したことが、アンジェくんが秘めていたヴァルキュリア因子に強く覚醒を促した……と見るのが一番か」
そうして今回の戦闘と、以前の商店街での戦闘。二つの映像データを見比べつつ、有紀は考えを整理するように独り言を口走る。
独り言を呟くのと同時に、有紀はこうも思っていた。
(何にせよ、いずれどこかのタイミングで彼女に……アンジェくんに接触せねばならないね。あの店の常連としてじゃあなく、国連の超常犯罪対策班……P.C.C.Sの一員として)
思いながら、どうにも有紀は憂鬱な気分になってしまう。
出来ることならば、彼女とはずっと今までのような関係でいたかった。P.C.C.Sは一切関係ない、ただの常連客と看板娘という立場で……彼女と接していきたかった。
有紀はアンジェのことを憎からず思っている。同じぐらいにディープな深みに嵌まった特撮マニアの同志としても、そして純粋にヒトとしても。有紀はアンジェのことを気に入っていたのだ。
だからこそ……P.C.C.Sの関係者として彼女に接触せねばならないことが、有紀はどうしても憂鬱で仕方なかった。
それでも、やらねばならないことだ。セラにやらせるよりはよっぽどマシだろう。彼女はどうにも直球で行きすぎるというか……口下手というワケではないのだが、不器用なところがある。
何よりも、セラにとってアンジェは大事な友達なのだ。だから有紀は彼女にやらせるよりは、自分がアンジェに話した方が良いだろうと思い。敢えてこの憂鬱な気分を理性で押さえ付けつつ、時を見計らってアンジェに自分が接触しようと思っていたのだ。
「それにしても、戒斗くんか」
内心でそんなことを思いつつ、有紀はボソリと呟き。モニタに映る彼を――――戦部戒斗をチラリと見る。
その後で、有紀はモニタから視線を離し。薄暗いラボの奥に鎮座している何かへと視線を向けた。
暗闇の向こう、ラボの奥に鎮座するそれは――――鎧、と表現するのが一番正しいだろうか。
そんな謎の物体に視線を流しつつ、有紀はニヤリと笑んでみせる。
「ひょっとすると――――彼ならば、或いは『ヴァルキュリア・システム』に相応しい心の持ち主かもだね」
ニヒルな笑みを浮かべつつ、独り言を呟く有紀の視線の先には――――数多のケーブルに繋がれた複合装甲の鎧、漆黒の重騎士が鎮座していた。静かに、目覚めの
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