エピローグ:雨の奏でる詩/01
エピローグ:雨の奏でる詩
――――超常犯罪対策班P.C.C.S本部、地下司令室。
相も変わらず十数名のオペレータ職員がキーボードを叩く忙しない音が響くこの広い司令室の中、セラの報告を聞いた総司令官の石神時三郎が神妙な顔でセラと顔を突き合わせていた。
「ううむ……」
腕組みをしつつ、悩ましげな唸り声を上げる石神の視線は目の前のセラと、そして司令室の突き当たりにある大きなモニタとを行ったり来たりしている。
そのモニタに映るのは、三人目の神姫。赤と白の新たなる神姫……ヴァーミリオン・ミラージュの姿を映した映像だった。
「まさか、セラくんの友達が神姫に覚醒してしまうとはな……」
渋い顔で、石神が唸る。どうしたものかと判断しかねる様子で、彼はモニタに映る神姫の姿を……アンジェの姿を遠くからじっと眺める。
「…………アンジェ、どうして」
そんな彼を前にして、やはりセラも難しい顔をしていた。
彼女もまた――――凄く、複雑な心境なのだ。友達が神姫に覚醒してしまったこと、アンジェが神姫に覚醒してしまったという事実を……セラは未だ、受け入れきれないでいた。
これ以上、自分とシャーロット以外に神姫なんて必要ない。こんな悲しみを、こんな苦しみを背負うのはもう自分たちだけで十分だと。そう思い続けてきたが故に、セラは間宮遥と……セイレーンと刃を交わすことまでしたというのに。なのにアンジェまでもが神姫になってしまったとあれば、彼女がこうも暗い表情を浮かべるのも仕方のないことだった。
「アンジェ……」
セラは凄く複雑な面持ちで、俯いたままボソリと呟く。他の誰でもない、彼女の名を。
「……そういえば、有紀はどうしたの?」
そうしてひとりごちた後で、セラは有紀がこの場に居ないことに気が付いて。今更だと思いつつも、あの有紀がこんな場に同席しないなんて珍しいと思い、小さく首を傾げながら目の前の石神にそう問うてみた。
「有紀くんか? 今頃はラボに籠もっているはずだが」
すると石神はきょとんとした顔で、今更の質問に短くそう答えてくれる。
――――ラボ。
篠宮有紀はあれでいて、この国連直轄・超常犯罪対策班P.C.C.Sの技術開発部門のチーフの立場にある。つまりは歴とした科学者なのだ、あれでも。年中羽織っている白衣は伊達でも酔狂でも何でもなく、彼女が類い希な才能を有した科学者である何よりもの証明なのだ。
だから、石神の言う通りなら……有紀は今、このP.C.C.S本部にあるラボ。即ち彼女に与えられた研究室に引きこもって何かの作業をしているということになる。
まあ、有紀がラボに引きこもるのは別に珍しいことじゃあない。研究が大詰めだからといってラボに泊まり込み、二徹三徹と徹夜を繰り返すのは日常茶飯事だ。
だから、彼女がラボに籠もっているという部分は問題にならない。それよりも気になるのは……こんな状況にも関わらず、彼女がこの場に居ないことだ。
新たな神姫の出現、それも相手がアンジェとあっては、あの有紀が食い付かない方がおかしい。有紀にとってもアンジェは決して知らぬ仲ではないはずだ。
なのに有紀がこの場に居ないことを、セラは疑問に思っていたのだが。しかし彼女がラボに籠もっていると石神に教えられると、セラの疑問は益々深まるばかりだった。
こんな一大事を放っておくほどのことを、有紀はラボでやっているのか…………?
「どうやらV計画がいよいよ大詰めらしいからな。有紀くんはその最終調整で忙しいようだ」
「V計画……」
続けて石神が言った一言。V計画という言葉を聞き、セラは何もかも納得したように頷く。
そんなセラに対し、石神は彼女の前で腕組みをしたままこう続けた。
「そう、『ヴァルキュリア・システム』だセラくん。――――我々人類にとっての、最後の希望だよ」
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