第二章:大切なヒトたちの笑顔の為に/02
「確か、この辺りに……!」
雨上がりの夕暮れ時、雨に濡れた道をニンジャZX‐10Rで突っ走り、現場に駆けつけた遥がバイクを停めると。しかし……その時には全てが手遅れだった。
「っ……!」
場所は広い河川敷にある高架下。そこで
――――バンディット。
神姫たる間宮遥が倒すべき、正体不明の異形の敵。四肢を有した人型ではあれど、明らかに人間ではないその異形が……今まさに、高架下でバイク小僧たちに襲い掛かっていた。
しかも一体だけではなく、二体だ。
片方は草色の体色をした、カマキリのような見た目の奴だ。両手は大きな鎌になっているし、巨大な複眼のある大きな頭も……やはりカマキリのそれと酷似している。
そしてもう片方はといえば、赤褐色の体色をした硬そうな見た目の奴。こちらは身体のあちこちに甲羅のような……喩えるならカブトムシやクワガタムシみたいな甲虫のような、そんな甲羅めいた装甲を生やしている。頭に大きな一本角を生やしている辺り、何というかカブトムシという喩えが正しいような見た目だ。
そんな二匹、カマキリのような前者はマンティス・バンディット、そしてカブトムシめいた後者はビートル・バンディットという名だった。
高架下に現れた二体のバンディットは……文字通り、暴虐の限りを尽くしていた。
バイク小僧たちは現れた異形を目の当たりにして、各々のバイクに跨がり泡を食ったように我先にと逃げ出し始めていたが。しかし……マンティスはそんな逃げようとする彼らの背中を、腕の鎌でバッサリと斬り裂いて次々と殺してしまっている。
しかも、バイクごと両断していた。背中から袈裟掛けに斬られた青年が、一緒に斬られたバイクと一緒に吹き飛んでいく光景は……ただただ、おぞましいとしか言えない光景だ。
それでも何人かはマンティスの魔の手から逃れていたのだが、しかしマンティスの鎌が取り逃がしたその数名は……飛んできたビートルがその頭に誇らしげに生やしている、あの一本角で背後から串刺しにされていってしまう。
どうやらビートルの方は飛行能力を有しているようだ。背面の装甲を展開し、そこから……やはり甲虫種のそれと酷似した羽根を出して、それで飛んでいるらしい。見た目通りのカブトムシというわけだ、あのビートル・バンディットは。
「間に合わなかった……!」
高架下では、既にバイク小僧の大半が殺されてしまっている。
そんな光景を目の当たりにして、遥は歯噛みしつつ。しかしこのまま放ってはおけないと思い、ヘルメットを脱いでバイクから降りると。そのまま遥は堤防の坂を駆け下りて、暴れる二体のバンディットに生身で飛びかかっていった。
「逃げてください、早く!」
今まさに何人目かの獲物に鎌で食らい付こうとしていたマンティス、そこに横からタックルを仕掛けて妨害しつつ、遥が今まさに殺され掛けていた青年に叫ぶ。
「あ、ああ……すまない!」
すると、その青年は突然現れた遥に困惑しつつも……彼女に感謝の言葉を伝えた後、そのまま跨がっていたバイクで走り去っていく。
「他の方たちも、早くっ!!」
よろめいたマンティスに回し蹴りを喰らわせ、飛んで来たビートルの轢き逃げめいた空中突撃を飛び退いて避けつつ。そうしてバンディットたちの注意を引きながら、遥は僅かに生き残ったバイク小僧たちを逃がしてやる。
「どうやら、少しは助けられたみたいですね」
そうして生き残りのバイク小僧たちがどうにか逃げ延びたのを見て、遥は徒手格闘で怯ませていた目の前のマンティスからバッと大きく後ろへ飛び退き。周囲に誰も居ないのを確認してから……スッと右手を胸の前へと構える。
すると――――強烈な閃光が瞬き、唸り声のような重低音が鳴り響き。とすれば次の瞬間には、彼女の右手の甲に蒼と白のガントレット状の装具が出現していた。
――――セイレーン・ブレス。
彼女が神姫である、その何よりもの証。それを出現させると……遥は精神を集中させるように、静かに構えを取る。
両腕を左右斜めに広げ、そうしてから両の腕を時計回りに、ゆっくりと半周回し。じっと気を練って、そして――――。
「チェンジ・セイレーン!」
握り締めた左手を腰に当て、右手を斜め前方に突き出し。遥の叫び声とともにその右手の甲、セイレーン・ブレスのエナジーコアが唸り声を上げ、彼女の身体が眩い閃光に包まれて…………次の瞬間にはもう、間宮遥は蒼と白の神姫へと姿を変えていた。
――――神姫ウィスタリア・セイレーン。
これこそが、彼女の真の姿。異形の敵・バンディットと戦う使命を帯びた間宮遥の……彼女の真なる姿だった。
「逃がしません……此処で止める!」
神姫に変身した遥を目の当たりにしてマンティスとビートル、二体のバンディットが恐れるようにたじろぐ。
そんな二体を、遥が鋭い眼光のコバルトブルーの瞳で睨み付ける。ふぅぅぅ……っ、と更なる気を練るような深い呼吸をしながら、神姫となった彼女は二体の異形と正対した。
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