第二章:大切なヒトたちの笑顔の為に/03

「ハッ……!」

 先に仕掛けたのは、遥の方からだった。

 彼女は虚空から自身の武器たる長剣、聖剣ウィスタリア・エッジを召喚し。右手でその蒼と白の長剣のつかを握り締めると、一気に踏み込んで……まずは目の前のマンティスの懐へと飛び込んでいく。

 遥の素早い踏み込みにバンディットたちは反応しきれず。二体が無様な隙を晒す中、遥はそのまま右手のウィスタリア・エッジでマンティスの腹を三撃ほど斬りつける。

 彼女の刃が草色の身体を撫でる度、マンティスは身体から激しい火花を上げて何歩も後ろにたたらを踏む。

「見えています……!」

 そうしてマンティスが苦悶の声を上げる中、彼女は駆け寄ってきたビートルに背後から殴られそうになっていたが……しかし遥はその動きも全て読んでいて。背後を一瞥もしないまま、振り向きざまの一閃を喰らわせて逆にビートルに手傷を負わせてやる。

 洗練されたその動きは、まるで頭の後ろに眼が付いているかのような正確さだ。ビートルは遥の剣で額……この見た目で額がどの辺りなのかは分からないが、とにかく人間にしてみればその辺りを斬りつけられ、やはり痛みに喘ぎながら何歩も後ずさっていく。

「っ!」

 そうした頃、今度は背後からマンティスが襲い掛かってきた。

 振り下ろされる鎌の一撃を、やはり遥は振り向きざまに構えたウィスタリア・エッジで防ぎ、斬撃を受け流す。

 だが彼女の剣は一本きり、対してマンティスの方は両手が鎌……つまりは二刀流だ。幾ら遥の戦技が圧倒的にマンティスを上回っているとしても、剣が一本と二本ではどうしても手数の差が出てしまう。

「くっ……!!」

 故に遥は二本の鎌で襲い掛かってくるマンティスに対し、やはり手数の差で若干押され気味になっていた。

 防戦一方というワケではないものの、しかしどうしても防御の割合の方が多くなってしまう。今のままマンティスと剣で勝負をするには、明らかに遥の方が不利だった。

「流石に厳しいですね、これは……!」

 加えて、敵は一匹だけではないのだ。

 二本の鎌から繰り出されるマンティスの斬撃をいなしながら、隙を見て反撃しつつ……それに加えて、遥はビートルの方の相手もしなければならないのだ。

 頭の一本角を突き出して突撃してくるビートルを避けつつ、すれ違いざまにウィスタリア・エッジで一撃を叩き込みながら……またマンティスとの攻防戦に戻っていく。二対一の状況で接近戦、今のシチュエーションは圧倒的に遥の方が不利だった。

 寧ろ、この不利すぎる状況下で彼女は善戦している方と言えるだろう。どうしても防御ばかりになってしまいつつも、隙を見て反撃の一閃を叩き込んでいるから……マンティス、ビートルともに未だ健在ではあるものの、しかしその身体には着実にダメージが蓄積されていた。

 それでも、このままではいずれ遥の方が押されてしまうのは目に見えている。

「なら、これで……!」

 だからこそ、遥は斬り掛かってきたマンティスの腹に蹴りを喰らわせて怯ませ、その隙に大きく飛び退いて距離を取ると……何故かウィスタリア・エッジを投げ捨てた。

 バッと右腕を横に投げ出した構えを取ると、すると彼女の右手の甲、セイレーン・ブレスの下半分に埋め込まれた大きなクリスタル状の物質……『エレメント・クリスタル』が金色に光り出した。

 すると……遥の身体が空間ごと一瞬だけ歪み。そうすれば次の瞬間には、遥の姿は今までのものとはまた別のものに変化していた。

「…………」

 右腕の装甲が肩から下、その全てが今までより鋭角なシルエットの神姫装甲に変化している。そんな右腕の神姫装甲には今までの蒼と白の他、新たに金色が差し色程度に増えていた。

 そして……彼女の右眼もまた、金色に変色している。

 左眼は今まで通りのコバルトブルーのまま、右眼だけがメッシュの増えた前髪とともに金色に変わっていた。まるで……オッドアイのように。

「ハッ……!」

 そうして右腕と右眼を変化させた遥は、構えた右手で新たな武器を虚空から召喚する。

 空間が歪み、彼女の右手が掴み取ったのは……大きな拳銃だった。

 ――――聖銃ライトニング・マグナム。

 変化した右腕と同じく、蒼と白を基調に金色が入った、そんな大きな拳銃だ。遥はその銃把を握り締めると、右手一本で構えたそれをバッと目の前の二体に突き付ける。

 ――――ライトニングフォーム。

 先程までの基本形態、セイレーンフォームから変化した、遥の……神姫ウィスタリア・セイレーンの遠距離戦形態。これまでの戦い方では決定打に欠けると判断したからこそ、彼女はこの形態へと姿を変えたのだ。

「……決着を付けましょう」

 右手で構えた聖銃ライトニング・マグナム、その銃口越しに二体のバンディットを睨み付けながら……間宮遥は静かに呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る