第五章:もしも、誰かの笑顔を守れるのなら/01

 第五章:もしも、誰かの笑顔を守れるのなら



「ん? なんだろ……?」

 三人で商店街を歩いている最中、周囲の様子が段々とおかしくなり始めていることに最初に気付いたのは、他でもないアンジェだった。

「何かの祭りか……ってそういう時期でもないしな」

「うーん、何かな……?」

 歩く三人の前方から、何やら大勢の人の群れが駆けてきている。

 一見すると、それは祭りのようにも見える光景。だが奇妙な点は、走る人々が明らかに全速力である点と、そして皆が皆、一様に血相を変えている点だ。まるで何かから必死に逃れようとしているような、そんな人の群れが戒斗たちの方に押し掛けて来ていた。

 それを眺めながら呑気に呟く戒斗と、うーんと不思議そうに首を傾げるアンジェ。

「なんだろうな、事故でも起こったのか……?」

 戒斗も戒斗で、本当に何が起こったのかと不思議そうに首を傾げる。

「本当に、どうしたんでしょうね――――っ!?」

 そんな二人の横で、遥もバイクを押しながら首を傾げようとした……その瞬間だった。

 ――――遥が、あの耳鳴りのような甲高い感触を頭の中に感じたのは。

「この感覚……まさかっ!?」

 間違いない。幾度もこの感覚を経験してきた自分が、何十、何百という敵を人知れず倒してきた自分が、この奇妙な感覚を間違えるはずがない。

 これは――――間違いなく、バンディットの気配を感じた時の感覚だ。

(そんな、こんな時に……!!)

 すぐにでも駆け出したくなった遥だったが、しかし今はグッと堪える。

 何せ、すぐ傍には戒斗とアンジェが居るのだ。二人に自分が神姫であることを知られるワケにはいかない。

 いいや、それ以前に……あの騒ぎから察するに、バンディットが出現したのは此処からそう離れていない場所だろう。きっとあの群衆は、現れたバンディットから逃げてきた人々なんだ。

 敵はすぐ傍にまで迫っている。だとすれば、まず自分が最優先にすべきことは。

 …………戒斗とアンジェを、逃がさなければ。

「お二人とも、早く逃げてくださいっ!!」

 そう思うと、遥は必死の形相で二人に呼び掛けていた。

「えっ? ちょっ、遥!?」

「遥さん、どうしちゃったの?」

「いいから! 戒斗さんもアンジェさんも、一刻も早く此処から離れてください!!」

 だが、状況がイマイチ把握出来ていない二人は困惑した顔をするのみで。遥は戒斗の肩を掴んで彼を激しく揺さぶりながら、必死の形相で二人に訴えかけた。

「逃げてください! でないと……」

「でないと、どうしたってんだよ遥――――」

 と、戒斗が自分の肩を掴んで揺らしてくる遥に戸惑い気味に訊き返そうとした、その時だった。

 ――――遠くから、何かが破裂するような音が聞こえてきたのだ。

「ねえカイト、これって……!?」

「ああ……銃声だ……!!」

 それは、明らかに銃声だった。

 しかも一度じゃない、何度も何度も。一度収まったかと思いきや、今度はタタタタタ……と連続発射する音まで聞こえてきたではないか。

 拳銃だけじゃない、フルオート・ウェポンの発砲音まで聞こえてきたとあっては……今まで困惑していた戒斗もアンジェも、流石にこれはただ事ではないと悟ったようだった。

「カイト、遥さんの言うとおりだよ。此処に居たら危ない、逃げよう……?」

「……そうだな、逃げようアンジェ」

「早く、お二人ともこっちに!!」

 二人が深刻な顔で頷き合っているのを見て、すぐさま遥は二人の手を取り、そうしてバイクを置いて逃げようとしたのだが――――。

「っ!?」

「わぁっ!?」

「……そんな、早すぎる」

「――――フシュルルルル……」

 そうして逃げようとした途端、三人の目の前に何かが降ってきて。不気味な声を上げて降り立った異形を前に、三人は一様に驚いていた。

 ――――スパイダー・バンディット。

 応戦した警官三人を始末したスパイダーが定めた次なる標的は、他でもない戒斗たちだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る