第一章:平穏で幸せに満ち溢れた日々の中で/06
その後、朝も早くから大学に――――私立御浜国際大学に顔を出した戒斗は、大学を午前いっぱいで切り上げて。そのまま帰宅し、自宅に隣接する純喫茶『ノワール・エンフォーサー』に足を運んでいた。
まあ、本来なら今日も大学、午後の課程もあるにはあったのだが。しかし戒斗は面倒くさくなってフケてしまっていた。
…………実を言うと戒斗、単位不足で留年一歩手前だったりする。
結構マズい状況なのだが、しかし戒斗自身がどうにもやる気が起きないというか……ギアが入らないというか。自分はこうして惰性で大学に来て、一体何をやっているのだろうという強烈な虚無感に襲われることが頻繁にあり。でも自分が本当にやりたいことも分からないまま、今日までこうしてダラダラと惰性で三年生になってしまっていた。
まあ、両親はそんな戒斗をそこまで叱りつけることもなく。寧ろ無理をしてまで行く必要はないとまで言ってくれている。その辺りは、ある意味で戒斗にとって救いになっていた。
だから……今の戒斗は、悩んでいる最中なのだ。これから先をどうしたら良いのかを、必死に悩んでいる。そんな時期なのだ……今の戦部戒斗は。
――――話が少し逸れ気味になってしまったか。
今度は戒斗の実家でもある純喫茶『ノワール・エンフォーサー』の話をしよう。
――――純喫茶『ノワール・エンフォーサー』。
喫茶店にしては少しばかり物騒にも聞こえる店名だが、なんでこんな名前にしたのか、その理由は名付け親である両親でさえも今となっては分からなくなってしまっている。
一応は純喫茶という謳い文句の店だが、実際には喫茶と言いつつ食事のメニューが充実しており、実体は食事処兼喫茶店といった感じだ。その為なのか、昼時には結構な混雑を見せることもしばしば。
そんな店で特にウリのメニューは……流石に純喫茶を謳っているだけあって珈琲なのだが。しかし食事メニューに関して言えば、ときたま戒斗が店を手伝っている時にのみ出される、いわゆる裏メニュー的な焼きそば。通称『戒斗スペシャル』が食べ盛りの学生たちを中心に結構な人気を博している。
この焼きそば『戒斗スペシャル』、麺四玉ぐらいを豪快に突っ込んだ上で、更にそこにキャベツと豚バラ肉をこれでもかと突っ込んだ超絶スタミナメニューだ。その見た目はまさに肉の山、山盛りの麺の上に豚肉がドカ盛りされた見た目はチョモランマが如し。焼きそばを食わせたいのか肉を食わせたいのか、真面目に分からなくなるレベルで麺が肉に埋まってしまっている様相だ。
この『戒斗スペシャル』、元々は戒斗が
ちなみに……普通の鉄板プレートだとどう考えても盛りきらない量なので、これを出す際には特別製のかなり大きな鉄板プレートを使用することになっているなど、見た目のインパクト以外にも滅茶苦茶なメニューだ。一応は採算が取れるだけの値段設定になっているから、問題無いといえば無いのだが。
――――閑話休題。
それ以外に人気の食事メニューといえば、時折店を手伝ってくれるアンジェお手製のアップルパイやキッシュなどか。この辺りは主に女性客を中心に人気が高い。
とまあ、戒斗の実家でもある『ノワール・エンフォーサー』はそんな風変わりな喫茶店なのだ。
Z33をガレージに収めた戒斗は、そんな店の戸を潜っていく。カランコロンと鳴るベルの音に誘われるようにして、戒斗は慣れ親しんだ店の中へと足を踏み入れていった。
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