マツのせい


 ~ 一月一日(水祝) ~

 マツの花言葉 不老長寿



「新年」

「明けまして」


「「おめでとうございますなの」」


「道久君、語尾が、なのになってるの」

「伝染しましたね」

「あたしの口癖を伝染病みたく言わないで欲しいの」

「お? 今年からは心機一転、突っ込みに転身ですか?」

「けっこういつでも突っ込んでるの。どっちかって言うと道久君の方がボケなの」

「どの口が言いますか」

「……その格好で言われてもなの」

「そうですね。この、恒例になった真っ赤な晴れ着姿。ボケとしか言いようがないですよね」

「だから、きっちりあたしが突っ込むから、道久君は話を進めながら、うまいことボケるの」

「はあ。……君の晴れ着のウメ、綺麗ですねえ」

「綺麗なの」

「それに対して、俺の柄はマツ」

「ひとつ足りないの」

「何がです?」

「マツ、ウメときたら」

「そうですね。足りませんね」

「サクラが」

「六文なのです」


「「おあとがよろしいようで」」


「…………今のは、どっちが突っ込んだことになるの?」

「どっちもボケたのだと思いますよ?」

「それじゃだめなの。ボケは道久君なの」

「どっちでも構わないのですが、無茶ぶりなのです。急に読者様の前で漫才をしろと言われましても」

「面白かったらおひねり下さいなの」

「図々しい! 君、前にも読者様にお年玉をせがんだことありましたよね」

「十円ぽっちで、秋立への出演権を獲得した人がいるの」

「ぽっちとか言いなさんな。今年は何か特典があるのですか?」

「金額次第で、帯を引っ張って、あーれーする権利が貰えるの」

「おいいい! ダメですよ、秋立は男性読者様も多いのですから!」

「……道久君の」

「はい?」

「道久君の帯」

「誰得?」

「………………道久君?」

「確かに。ちょっと楽しそうなのです」


「「おあとがよろしいようで」」


「今の、オチてたの?」

「いいえ。二人でボケたおしただけだと思いますよ?」

「だから、それじゃだめなの。ボケはやっぱり道久君じゃないと」

「努力してはみますが、天然ものには勝てる気がしません」

「天然ものと言えば、天然ハマチの柵を買って解凍してるの。あとで食べるの」

「俺、お子様舌なので。天然物より養殖物のハマチの方が美味しいと思うのです」

「養殖って、なにが天然と違うの?」

「確か巨大な網で海に囲いを作って育てるのではなかったかなと」

「ちと分かりにくいの」

「では、水槽に入れたのが養殖ってことで」

「なら、丁度いいの」

「なにが?」

「柵、水槽で解凍してっから。養殖なの」

「……その発言が天然なのです」

「んで、バターソテーして食べるの」

「その発言は、洋食なのです」


「「おあとがよろしいようで」」


「…………今のも、オチて無いような気がするの」

「にわか漫才ではこんなものでしょう」

「あとね? 結局、あたしがトークを回して、道久君が突っ込んでるの」

「そこで膨れられましても。じゃあ、突っ込んでいいのです」

「そうは言っても。道久君がトークを転がさないと突っ込めないの」

「ええと……、でも、話題と言われましても」

「めでたいお話とかすればいいの。例えば、昇進したとか」

「ほうほう。どなたか昇進しましたか?」

「えっとね? ご近所さんでそんなお話聞いたの」

「昇進したの?」

「課長さんに」

「どなたが?」

「伊野さんとこの旦那さん」

「六文なのです」

「…………ん?」


「おあとが……」


「待つの。今の、よく分かんないの」

「世界で今のが分からないのは君一人なのです」

「孤独感」

「後で説明してあげますから」

「それにやっぱり、あたしばっかり話してるの」

「だって、トークを転がすとか無理なのです。穂咲がトークを転がしなさいな、俺がうまいことボケますので」

「ほんとに?」

「俺だって、たまにはボケてみたいのです。穂咲より面白いことを言う自信くらいありますし」

「じゃあそうするの。……えっと、じつは今日のお着物の柄、ウメじゃないの」

「え? では、何のお花なのです?」

「ボケ」

「………………やはり、勝てそうにありません」


「「おあとがよろしいようで」」


「さあ、終わったからおひねり投げるの」

「どこまでも突っ込みたくなる人ですね君は! おやめなさいって!」

「ふっふっふ。実は、ボケが出来る人の方が頭がいいらしいの。道久君にはボケなんかできるはず無いの」

「そんなこと無いですよ!? 君が呼吸をするようにボケるので間に合っていないだけです!」

「じゃあ、やってみるがいいの」

「え」

「やってみるがいいの」

「ええと……。か、課長になった伊野さん所、赤タンが生まれましたよね」

「……ん?」

「いや、そこで六文なのって言ってもらわないと」

「意味が分からないの」

「…………突っ込みの方が知力必要じゃありません?」

「全然違うの。あたしの方が頭いいの」

「はあ」

「でも、六文とか分かんないの」

「すいません」

「だからあたしの天才的なボケを、サンコウにすると良いの」

「…………六文なのです」



 おあとがよろしいようで



 本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

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