第四話『バイトの道のり』

 「勝手に帰ってわるいことしちゃったかな?」


 パリピの連中が僕から軽く意識が逸れたので好機と思い、お調子者にこと短かに伝えて出て来てしまった。バイトのことは嘘ではないが、時間には多少余裕はある。


 ともあれあのパリピ共に関わりたくないのが本音だ。理由としてはパリピならではの強引さだ。

 一つ目はお調子者である。奴は、僕に恨みでもあるのか分からないがここ最近、春休みの間も電話を掛けてきた。しかし僕はバイトが一日中びっしりと入っているため、ほとんどが留守電だった。内容は『今日暇?』と聞いてくる。暇ではないが、暇だったとしてもお前と遊びたくない。ていうかなんで僕の電話番号知ってるんだよ。怖いわ。

 二つ目はギャルもとい凛子さんが苦手だからである。お調子者は嫌いだが凛子さんは苦手という部類に入る。パリピ軍団は苦手だが凛子さんだけはそれ以上である。最近は僕に対してよく突っかかる。多分、僕を虫けらかゴミ屑の何かと思っているだろう。はい、塵取りで払われます。


 と以上の理由から関わりたくないのである。ともあれこの後のバイトに遅れないように僕はバイト先にそのまま向かった。


 時間に余裕があるため、いつもよりペースを落として歩いてみた。するといつもと違う景色がやってくる。季節は春。あたりは満開の桜で覆われていた。朝も見たはずなのにここにある桜は他とは違う感じがした。直感的な、言葉で表現出来ない何かで目が離さずにいた。そうだ、これは懐かしい感覚だ。言葉は案外そこらへんに落ちていて、簡単に拾えた。


 「なんでこんなに懐かしいのだろうか」


 言葉で表現出来ないのは、懐かしいというさらに奥の何かにある。懐かしいという感覚はもともとあった。しかしこの胸を蠢く何かを言葉に出来なかったのだ。何か忘れているような、大事な何かを失ったような、そんな思いが思考をぐるぐると駆け巡っていた。


 そんな事を考えながら歩いていると、近くに公園が見えた。公園が賑わっており、今はジャングルジムが人気のようだ。幼稚園の先生方が外で遊ばせているのだろう。園児たちは楽しそうに駆け回っている。

 しかし、中には馴染めない園児が先生にくっついていた。先生は、集団に混ぜるよう催促するがその園児は離れないようにしている。優しく諭して、やっと園児は輪の中に入ろうとする。そんな時こんな声が聞こえた。


 「ーー君、足遅いし鈍臭いからつまんない」


 子供だからだろう。オブラートにも何も包まず、トゲのまま、鋭利なまま、殺傷生を浴びた声は容赦なくその園児を切り刻む。その声を聞いたのだろう。先生が


 「ーー君!そんな事を言っちゃダメでしょう!悪いこと言ったらなんて言うの?」


 飴と鞭を使い分け、園児を叱り付ける。園児はその園児のところにいき、ごめんなさいと言っていた。


 精神も身体も幼い彼たちはこの経験を受け、影響を受け、それらが性格という基盤に反映されて行くのだろう。幼いからこそ最も影響を受けやすく、何にでもなれる可能性を秘めている。


 僕は思う。叱られた園児はその園児に対して、恐らく客観的に自分と周りを比較してでた答えなのだろう。だから叱られた園児は、その答えをそのまま彼に伝えた。少なくとも先生はその答えを否定した。それはつまり叱られた園児の考えを否定する事になる。園児の心に何かしらの影響を与えた筈だ。


 先生にくっついていた園児はそれを言われる事を知っていた。一番傷つかない、誰もがそれで幸せになれる。そんな答えを彼も導き出したのだろう。言われる事を知っていながらも、彼は行くざるを得なかった。結果、その園児は傷ついているのが見てわかる。泣いてはいないが悲しそうな顔をしていた。


 園児たちの中でもやはりヒエラルキーは存在しており、あのように言った子はリーダー格なのだろう。今回の経験をどう活かすか、様々な選択肢を得られる。その選択によって人生も変わっていくのだろう。

 子供は日本の宝とはよく言ったものだ。純粋で可能性が大いに秘められている。いわば、これは大人の圧力。これからも圧力鍋のように負荷が大きなるだろう。そしてお調子者のように柔らかくなるといい。

 それは怖いな。全員がお調子者だったら、ナンパパーティーになっちゃうよ。

 

 こんなにも園児たちを眺めていたらロリコンやショタコン疑惑が浮上してきてしまうので、そろそろ立ち去るとしようか。知り合いにでも見られたら僕の人生が軽く詰む。


 「あれ?お兄ちゃんじゃん」


 「お、裕ちゃん!?」


 「そうだよー、奇遇だね」


 見られた?見られたよね。しかも知り合いどころか兄妹でした!

 無邪気な笑みでこちらに手を振りながら向かってくる。もう片方の手でスクールバッグが肩から落ちないように支える。


 「そっかお兄ちゃんは始業式だから、こんなに早いのか」


 「裕ちゃんは入学式どうだった?仲良くなれそうな友達見つけたか?」


 やはり兄としては、妹の事は唯一の家族でもあるため、心配になる。本音は僕のロリ疑惑から話題を逸らすために早めに別の話題を提示する。


 「隣の席の子なんだけど小さくてめっちゃ可愛いの!絶対に仲良くなる、なってみせる!」


 初対面の人に話しかけれるのは凄いと思う。僕は高校入学式で自己紹介の時に思いっきり噛んだしまった事を思い出す。そのおかげもあって、今の僕に友達言える存在はクラスにいない。パリピ共の関係は仮初であると思う。


 兄としては嬉しい事だ。明確な目標とはモチベーションを上げるには最高の材料だ。今までの生活から見て、妹はコミュニケーション能力お化けであると思う。商店街で買い物したときは、何度おまけをしてもらった事か。


 「その子と仲良くなれると良いな」


 「…うん。私のことはもういいでしょ。それよりもお兄ちゃんもまだお昼ご飯食べてないでしょ。お兄ちゃんの奢りでどっか食べに行かない?」


 僕の奢りか…、それなりにバイトはしているためお金には最初に比べたら余裕はある。妹を不自由にさせないほどある。

 しかし、僕にはこの後すぐにバイトがあり向かわなければならない。


 「悪いけど今日もバイトがあるんだ。また今度行こうな」


 「私よりもバイトなの…、ちょっとはかまってよ…」


 「なんかいったか?」


 「ううん何も!バイト頑張ってね」


 「おう、今日も帰りが遅くなるから夜ご飯先に食べてていいからな」


 「うん、いってらっしゃい」


 僕は妹に送り出され、やっとバイトに向かった。


  

 


 




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僕と妹の二人暮らし ノエル @1225hiro

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