第三話『三時間目の放課後』

 「聡くーん、この後いつメンでカラオケ行くんだけど来る?」


 「悪い、今日もバイトだ。また今度誘ってくれ」


 始業式を終え、その後のレクリエーションなどを済ませた放課後、今日は内容の全てが午前中に終えるので、日は高く、春らしい暖かい気候となっている。クラス替えも行ったのでクラスの顔も変化しているが変わらない顔もいる。


 お調子者のクラスメイトは変わらない顔もさの一人である。その後ろにいる男女四人の組み合わせもまた変わらない。お調子者と後ろにいる人たちはクラス替え初日にして、このクラスのヒエラルキーの頂点にいる。


 むしろなんで僕を誘うのか理解が出来ない。

 いつメン、いつもいるメンツの略なのだが、なんで僕もいつメンの一人に入っているのか。一年の夏あたりから誘われるようになったが、遊びに行けた事なんて数回しかない。


 始めた誘われたときなんか誰に声かけてんだろうってスルーしてたら僕だったていうぐらいいきなりで驚かさられた。


 毎回断るこちらの身にもなってくれ心が痛いよ。後ろにいる女子が残念そうな顔をしているがしょうがないだろとしか言いようがない。


 「またバイトなの?聡君さバイト入れすぎじゃね」


 確かにノリは悪いかもしれないがバイトなのだ。僕の生活の生命線はバイトなので一日でも多く、妹に不自由をさせないため働かなければならない。僕が働かなくても、両親の遺産で生活は出来るが、僕は一人でも妹を立派に育てようと思ったからであり、そのために金銭面では自立しようとしている。


 お調子者がごねていると、後ろからいつメンの一人、先程から残念そうな顔をした、ギャル代表の女子が


 「いつまでごねてんのよ。聡だって、一人暮らしで大変なのよ」

 

 フォローしてくれた。ありがとうギャル。さっきからギャルとか言ってごめん。金髪だし、ピアスあいてるし、第一印象がギャルなんだ。

 ごめんギャル。本当は妹と二人で暮らしてんだけど、これ言うとなんか面倒くさそうなことが起きる気がするから黙ってるんだ。


 「だって聡君が来ると凛子りんこすげー楽しそうなんだもん。いつもよりめっちゃ笑顔だからね。隠し切れてないよ、もうバレバレ。そうだよね?みんな知ってるよね?」

 

 後ろで固まっているいつメンにお調子者は聞く。いつメンは、気まずそうに苦笑いしながら


 「「うん、知ってる」」


 口を揃えて、肯定した。いつメンの中ではこれは周知の認識で通っていた。


 「なんで!?そんなに顔に出てる?」

 「出てるよ。逆になんで聡君は気付かないのか不思議だよ」

 「恥ず、もう生きてらんないわ。よりによってお調子者にバレるなんて」


 お調子者が呆れた表情で言う。いつメンも首を縦に振り、頷いている。それを聞いてギャルは顔をトマトのように真っ赤にした。


 「まあまあ凛子ちゃんも落ち着いてよ。私、凛子ちゃんの力になるよ。なんでもいいから相談してみ」


 といつメンの可愛い枠にいる女子がフォローに入った。胸を張り、ドンと拳で任せない!と自信満々に胸を打った。

 涙目になっていたギャルは何かに気付いたように


 「は!全部聡に聞かれてんじゃん!?う、嘘だからね、別にアンタなんかなんともおもって…、あれ、聡は?」

 

 周りを見渡しても、この教室には聡の影は一つもない。疑問に対して、お調子者が


 「聡君ならバイトだから先に行くって走って教室出たよ」

 「え?じゃさっきの話は聞かれてないよね」

 「凛子が出て来たあたりに帰ったよ。本当に忙しい身だよな」

 「うん。あたしも何か手伝えることがあったらいいのにな。……もしかしてあたし

 「ベタ惚れじゃん。だけど聡君カッコいいから他の女も狙ってると思うよ。早く行動に移さないととられるよ」


 お調子者は冷静に分析して、ギャルにつたえる。お調子者が考えるに聡はモテると思っている。顔は普通にカッコよく、運動神経も悪くない。歌も上手い。これはカラオケに行ったときに判明している。おまけに優しいたきた。問題点があるとすれば付き合いとノリが悪いぐらいだろう。

 しかし、その付き合いの悪さがクールという印象を持たせている。


 「そんな事言われなくても分かってるけど、やっぱり無理だよ。そんな勇気があるなら去年の夏には告ってるつーの」


 染めた金髪をくるくるといじりながら凛子は言う。そこに先程から聞き役に回っていた眼鏡をかけた女子生徒が手を顎に当てながら、


 「成る程、惚れたのはやはり去年の夏だったか」

 「まあ、夏休みから少し変わってたよね」


 眼鏡生徒の言葉に可愛い枠の生徒が同調する。


 「もういいだろあたしの恋バナなんて。それに今日はカラオケ行くんだろ。行かないとすぐに埋まっちゃうよ」


 痺れを切らしたように、話題転換を図ろうとするが可愛い枠の女生徒が机を叩いて立ち上がり、


 「だめだよ!凛子ちゃんの青春だよ!別にカラオケが満席になったからって関係ないよ。男子もいるし、言いづらいだろうから今日は女子で遊ぶよ」

 「えー、なんでだよ。俺らも混ぜろよー」

 「凛子ちゃんの青春を邪魔しないでくれる?」


 と可愛い枠がヤバイ雰囲気を醸し出したのでお調子者を含む男子たちは引く。


 「じゃ行くよ凛子ちゃん。眼鏡も行くよ!」


 そのまま可愛い枠を先頭に女三人が教室を出た。取り残された男子二人は目を合わせずにお調子者は遠いところをみつめる。もう一人の低身長イケメンは忠告するように


 「それよりもいいのか、お前凛子のこと好きなんだろ。仮にもお前の立場は今応援する友達の一人だぞ。お前が動かないとこの現状は変わらないよ」

 

 お調子者の対して、背の低いイケメン男子が言う。お調子者の片思いに対して、辛辣な言葉を浴びせる。しかし、お調子者は


 「俺、一年生の最後に凛子に告白したんだよ。付き合ってくれって、そしたらあたし好きな人いるし、だから付き合えないとか言われてフラれた。それに今日の朝会ったら『お前とは友達の方がいい』って言われたよ」

 「マジか…、お前告ったのかよ。それで完璧にフラれのか」


 お調子者の告白に狼狽えた低身長イケメンは完膚なきまでに振られた事を聞いて、少し考える。そして続けるように


 「よし!お調子者、カラオケ行くぞ。お前の散った青春に今日だけ俺が奢ってやる」

 「そ、そんな。男らしすぎる。女だったら惚れてたぜ」

 「今日は歌いまくるぞ!」


 男子の馬鹿なノリが二人のボルテージを上げ、意気揚々にカラオケに向かった。


 

 

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