第二話『駅話』
四月の上旬、明朗な春の訪れを感じた。春の暖かさが今日この頃、花々を開かせ、満開へと追いやっている。
家から駅まで徒歩で向かっている最中に道路の両側に植えられたクローンのソメイヨシノはほぼ満開となり、民家で一際目立っている木蓮は蕾が開いているものもちらちらと見受けられる。
クローンっていう言葉は男心を震わせるよね!僕もソメイヨシノがクローンだなんて知ったときには今までの桜が何倍にも綺麗に見えたものだ。
今年の春は例年より気温が高い傾向がある。これも地球温暖化の影響なのか又は偶然か。僕にとって、『春眠暁を覚えず』だなと思うぐらい適した暖かさだった。
✴︎
駅について、電車に乗り込む。乗り込んだ電車に揺られながら、今日の予定を確認するためにポケットからスマホを取り出そうと手を入れるが生憎とこの時間帯は通勤ラッシュと被っており、この狭さで携帯をいじるには到底無理な話だ。
「
「ああ、おはよう。昨日はバイトであまり寝る時間がなかったんだ」
身長が僕よりも高いのに狭い間をすり抜けてきた僕の友人の古谷
通勤ラッシュなのに、でかい図体で来るとか周りの迷惑を考えろよ。まあ僕もこの混んでいる状態で携帯をいじろうとしてたけど。
「お前、ここまで来たのかよ。周りの人に迷惑だろ」
「目の前に妊婦さんがいて席を譲ったら、聡の姿が見えたから話しかけただけだよ」
「そ、そうなのか。よくやった」
「おう、肥満体型の人でなくて、しっかり妊婦さんだから安心していいよ」
良い人すぎんだろ。寧ろ、めっちゃ良いことしてんじゃん。誰だよさっき、迷惑だぞって言ったやつ、そいつの方が携帯いじろうとして、周りに迷惑かけてんじゃん。
優男のイケメン男子の名前は陸。身長180センチという身長で羨ましい。最近は彼女が出来たそうで幸せそうだ。
僕の家庭の事情を知る数少ない友人の一人であり、僕としても陸は信用できる良い奴で他の人からも信頼が厚い好青年だ。部活はバスケ部に入っており、一年の頃からレギュラーだったと言う。スポーツ万能、学力標準である。陸とは高校から知り合った仲であるがお互いに気が合って、親友に等しい関係である。
「聡、バイト少し減らしたらどうだ?お前の身体持たないぞ」
「心配御無用。隈はひどいかも知れないけど全然眠くない」
「無理すんなよ」
「おう」
そうこう話しているうちに目的地の駅に着いたので降りる。降りてくるのはやはり僕と同じ高校の生徒ばかりだ。
陸は駅にあるコンビニで昼ごはんを買うと言っていたので僕はコンビニの前で待つ。今日は始業式なので午前中に帰れるはずなのだが、陸は部活に入っているため午後から部活をやるらしい。そのために買い弁するという帰宅部の僕から見たら、耐えれる気がしない。
待っていると、後ろから肩を叩かれた。叩かれた逆の方向に振り向くと指がむぎゅっと僕の頬にめり込んだ。指ををそのまま引っ込め、後ろから笑い声が聞こえる。指のストッパーが無くなったので改めて振り返る。
「イェーイ、引っかかった」
「やっぱりお前か、
「おはよ!」
竹を割ったような性格の彼女の名前は
周りの同じ高校生(男子)から視線を受けるのもこれが原因だろう。
「おはよう。相変わらず元気だな」
「逆に聡は元気なさすぎだよ」
「じゃあ分けてくれ」
俺はそう言うと紗奈の手を握った。
「な、な、何してんの!?」
茹でたタコのように真っ赤になった。
「だって、お前とは小学生の頃からの付き合いなんだし別にこれぐらいいいだろう」
「いきなり触られてびっくりしてるの!」
「ごめんごめん」
あたふたと動揺していたため、面白くなってしまった。いけない、いけない、これじゃまるで嫌がらせのお返しになってしまう。
「悪い聡、待たせた。お、紗奈も来たか」
タイミングよく陸が買い物を終えた。手に持っているビニール袋の中には外からでも分かるほどたくさんの食べ物が詰まっている。
「聡、これやるよ」
といきなり僕に丸い何かをを投げてきた。慌ててキャッチするとそれがおにぎりであると分かった。
「聡、寝不足ならしっかり元気つかないと貧血で始業式倒れるぞ」
「いや、受け取れないよ。陸のお金で買ったんだろ」
「気にすんな、今度困ったら倍にして返してくれ」
とツナマヨおにぎりを渡された。ツナマヨは好きか嫌いかで聞かれたらそれはもちろんの事大好きと答える。僕のために買ってくれたのだろうがやはり気が引ける。しかし、陸の善意も無視出来ない。ここはありがたく頂戴する。いい奴すぎる。
「ねえねえ、私の分ってある?」
「ねえよ、紗奈は食べると止まらないだろ。絶対に始業式の途中でトイレに行くだろ」
「年頃の女子に大便の話とかセクハラだよ。しかもくれないとかパワハラ」
「年頃の女子ならもう少しオブラートに包め。それとパワハラ受けてんのははこっちだからな」
僕と陸と紗奈、この三人でよくつるんでる。高校一年の時はよく一緒に過ごした。僕と紗奈に陸が入ってきた感じだ。出会った経緯は後で語る。
ツナマヨを美味しくいただき、学校ヘ向かう。
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