僕と妹の二人暮らし
ノエル
第一話『いってきます』
「裕ちゃん、起きないと遅刻するよー」
とある平日の朝、僕はエプロン姿に妹を起こすために布団で丸まっている妹、周防 裕を起こす。
「あと…五分…」
僕の呼びかけに亀のように顔だけ出し、まだ眠いと言ってすぐに布団に入り込む。
「さっきもそれ聞いたから。朝ごはん出来てるから食べるぞ」
「うーん、ちょっと待って、今起きるから。…よいしょっと!」
「裕ちゃん、なんかおばさんくさいぞ」
「うるさいな〜これが一番起きやすいんだって」
勢いをつけ、ベッドから一気に飛び起きる。寝起きがいいんだか、悪いんだか。
既にテーブルには朝食であるピザトーストが皿に盛られており、横にはサラダと豪華のように感じる。実際に僕基準だと結構豪華である。
「お、今日の朝ごはんは私の大好きなピザトーストじゃん!どうして?滅多に作らないじゃん」
匂いを嗅ぎつけた裕は真っ先に椅子に座り、僕の着席を待つ。周防家では、家族で一緒にご飯を食べるという決まりがある。
前までは母が早い出勤で早起きして食べたものだ…。
「今日裕ちゃんの入学式だろ。その祝いだよ」
「じゃ早く食べよ、いただきまーす」
「いただきます」
いただきますを合図に裕はピザトーストに食らいつく。
「裕ちゃん、中学生になった気分はどう?」
「うーん、よく分からない。だって小学校のメンツ変わらないし、あ、でも制服は可愛いくて嬉しい」
「じゃあ、お祝いに裕ちゃんにシャーペンをあげよう」
そう言って僕はスクールバッグの中から小さな紙袋からにシャーペンとシャー芯を取り出した。それを裕ちゃんに渡す。
「ありがとう!」
「大事に使えよ」
「うん!」
もらったシャーペンを大事そうに抱え、筆箱にしまう。
再び食事を開始すると裕ちゃんが僕の方を見て、何かに気づいたようだ。
「あ、お兄ちゃん、お母さんのエプロン使ってる」
「ああ。昨日、エプロンが破けちゃって、代わりに母さんの使ってるんだ」
僕の格好は制服姿にその上から母の形見であるエプロンを使ってる。
「うん、よく似合ってるよ!お母さんのエプロン姿思い出すな」
幼い頃、台所で立っていた母の姿を思い出す。よく、台所に入ってつまみ食いをしていた裕は
「そうだな、懐かしいな」
僕はそう言って、棚の上に飾られている母の写真を見ながら思い出す。あの日のことを思い出す。
✴︎
二年前、僕たちの両親は僕が中学三年の時にこの世を去った。原因は交通事故だ。母と父が乗る普通乗用車にトラックが信号無視で衝突した。両親は即死だったらしい。トラックの運転手は軽傷で今は牢屋の中にいる。
妹の裕はまだ小学五年生であの日のことはまだ記憶に新しい。妹も今の状態になるまで大分苦労した。
交通事故のあと親戚がらみを色々あったが僕たちは名義上叔母さんに引き取られ、兄妹で二人暮らしを始めた。僕たちが住んでいるのは都内のボロいアパートの一室である。1Kで築七十年の代物。
最初はこの生活は大変だったが今となっては、快適である。住めば都とはよく言ったものだ。
「じゃあ行ってきまーす」
朝ごはんを食べ終え、一通り支度を終えた裕は、元気よく玄関を開けた。裕は両親が死んだときは、活気が無く、空っぽな感じだった。中学生になったからなのか大分心に余裕が出来て、今のように元気に登校している。
「悪いな今日の入学式行けなくて」
「別にいいよ、お兄ちゃんも今日から高校二年生なんだからお互い頑張ろ」
「そうだな、いってらっしゃい」
妹を励ますつもりが励まされてしまう始末。中学生になって、精神年齢も大分成長している。もしや僕の方が精神年齢が下かもしれない。まずいな、これは早急に手を打たねば、と言っても兄としては嬉しい限りである。
「僕も準備しないと」
と言ってもほとんど終えているので関係ないが、少しだけ家事をやる。食器洗いなど先に済ませておくと後々、楽なので朝やることにしている。
「そろそろ行くか」
時計の短針が八時を指しており、僕はスクールバッグを肩にかけ、ローファーを履く。高校二年になってこの制服姿がやっと板について来た。家を出ようとするが大事なことを忘れていた。
「その前にやることがあった」
ローファーを脱ぎ、両親の祭壇に向かう。両親の祭壇を前に正座して、蝋燭に火をつけ線香をあげる。
「裕は今日から中学生になりました。今はとても元気で笑顔もあります。僕も今日から高校二年です。もう心配しなくても大丈夫です」
報告を終え、蝋燭を消す。
再度、ローファーを履き、玄関を開ける。
ーーいってらっしゃいーー
ふと、後ろから母の声が聞こえたような気がした。懐かしくて、暖かい。線香が天に昇る。線香の意味は分からないけど僕の思いが届いたかもしれない。
今も僕たちを見守っているかもしれない。そんなことを考えて、笑みが溢れる。
それと同時に去来するあの日の記憶。それが僕の笑みを奪う。
幻聴かもしれないがそんなことはどうでもいい。ただ久しぶりに聞いた声に僕は心を打ち付けられる。表情を戻し、いつもの『自分』作る。
「いってきます」
その言葉に応えるように僕は歩き出した。
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