自身の力は後へ送る
二十二発目 最強銃士と後人育成
俺と翠は早朝、都の西端にある野原へと来ていた。
翠 「で?今日の正午に訓練講師として行かないといけないけど?どうする?」
冬弥 「俺も育成とかあんましねぇから分かんねぇな、とりま俺らの腕鳴らししておくか?」
翠「そだね、じゃあアルバ、開始お願い出来る?」
アルバ「分かったのです!」
アルバが俺と翠の間に立ち、手を真っ直ぐに下ろす。
アルバ「武器なし、素手のみ、準備はOKですか?」
翠「うん」
冬弥「おう、あぁ、翠何階まで出す?」
翠「うーん5階かな」
冬弥「了解、アルバこっちもOKだ」
階というのは俺らが勝手に決めた本気レベルでこれだけ聞くとなんかクソいきリな高校生の妄想感がすごいがそんな大層なものじゃなくてただの力の調節しながらどんどんと体を慣らしてくようなもんだ。
例えばジムのランニングマシーンとかで最初はウォーキング、ジョグってどんどんスピードを上げてく感じと思ってもらえればいい。
アルバ「行きます!試合!開始!」
開始の合図とともにアルバが腕を大きく空へと伸ばす。
俺と翠はその合図を見ると即座に相手の方へと跳び、拳を違える。
翠の拳が俺の頭を狙うが、首を傾けることで空を切った。右のストレートが外れた事に一瞥をやった翠は短く舌打ちをして、側頭部を狙った左ハイキック。それを右手でいなすと、その回転を使って右での回し蹴り。連続技を考慮して左腕で相殺すると。1歩後ろへ飛んだ。
冬弥 「いった!なんか強なってね?」
翠「ん?まだまだだよっ!」
翠が言い終わる前に走り跳び、俺の正中線に五連、叩き込みに来る。俺は咄嗟にガードの方を取ると、それをバレていたらしく、バツ字に組んだ俺の腕に発勁を打ち込む。不完全な体勢だった為、それほどの威力は喰らわなかったが、俺は後ろへと吹き飛ばされた。
翠「んー?なんか体なまってるかも?」
冬弥「同意。お前のそれほんとに鈍ってんの?」
俺が体勢を直している間に、翠がパキパキと指を慣らしている。
冬弥「次!第2階!」
俺はゆっくりと翠の方へと歩き、翠の前へと立つ。翠は完全に受け身の形で臨戦態勢を取っている。
互いの間合いに入ると、翠の顔に険しさがマシた。
冬弥「喰らえ」
俺の繰り出した高速のジャブに翠は反応し、右手ですいとずらす。左、右、と繰り返すジャブは全てずらし、いなされる。が、そのリズムを突然崩すように、翠の右腕をつかみ、足をかける。翠はそれも知ってると言わんばかりに、一瞬脱力し、俺の手をするりと抜ける。無防備になった俺の背中に向け、高くあげた踵を振り下ろそうとする。すぐさまに向き直り、不安定な体勢のまま振り上げられた右脚に回し蹴りをくらわす。翠はいっと吐息にも満たない言葉を零し、攻撃をリセットして、後ろへと跳ぶ。そのまま追撃せんと、翠の方へ走ると、翠がニヤリと微笑む。
翠「第3階」
しかと構えられた腕は俺の腕と軸足を叩き落とした。そのまま払われなかった左腕を盾に翠の次の攻撃を警戒して後ろに跳ぶ。体勢を立て直そうと、翠の方を向くと、そこには翠の姿はない。その瞬間、背筋に走った悪寒を頼りに、右へと体をずらす。
俺の腕の下に、空を切った拳があった。その拳に反応し、俺は向き直る回転力を利用してローリングソバットを決め込む。後ろにそのまま吹き飛ぶ翠を見て、口を開く。
冬弥「ふぅ、よし、もういっか」
翠「えぇー、まだやりたいよ!まだ3階だよ?」
冬弥「なんか今の身体で5階以上をやると後に響きそう」
平和ボケしすぎてなんだか体も勘も鈍っているみたいだ。4階までは行けそうだが、これから訓練の講師業務もあるからな。あまり無理はできないだろう。
冬弥「まぁ、そこまで無理するような訓練でもないし、本調子になるまでぼちぼち続けてこーぜ」
翠「むー、分かったよ、じゃあご飯食べに行こー!」
ふくれっ面から、満面の笑みとか表情変わりすぎだろ。かわいっ!なにあれ。なんて動物?同じ人間か?そんなことを思ってると、横でアルバがふくれっ面をしている。
アルバ「翠ばっかりずるいのです!私にも構うのです!」
冬弥「んー?アルバもかわいいぞ?」
アルバ「ホントなのです?やったのです!」
なのです口調もいいよね。とかオタクムーブ全開のことを考えていると、俺たちの泊まっている宿へと着いた。
カランカランと扉を開く時になるベルの音を聞いて、親父さんがこちらを向く。あぁ、もうそんな時間かと言うような表情をして、カウンターへとはいる。
マスター「おう、お前ら、もう訓練とやらはいいのか?」
冬弥「あぁ、ちょっと体鈍ってたけどまぁぼちぼちOKって感じかな」
翠「朝ごはんくーださい!」
アルバ「私も欲しいのです!」
翠とアルバがカウンターの席へと座り、元気よく手を挙げる。すると、それまで静かだった店の食堂がふわっとにこやかな雰囲気になる。
マスター「おぉ、分かったよ、嬢ちゃん達、メニューはおまかせでいいかな?」
翠「いいよ!マスターのご飯なんでも美味しいもん!」
アルバ「なのです!」
親父「はっはっはっ!そう言ってくれると腕がなるってんだ、ありがとな!」
親父はそう言って腕を捲りながら、店の厨房へと入っていると、ものの数分で3人分のモーニングセットが出てきた。
冬弥「うん、うん、このスピードでこの美味さはすげぇな」
マスター「はっはっはっ!わけぇのに口がうめぇな!坊主!」
冬弥「いやいや、マジで美味いよ、宿屋じゃなくても店出せるレベル、あっ、宿屋がまずいって訳じゃなくてな」
マスター「わかってるわかってる、お前らみたいな若者たちがこの都にも増えてくれるとなぁ」
宿屋の親父さんは感慨深そうに食器をカチャカチャと棚に並べている。
さてと、正午になるまでもう少し時間あるよなぁ。
ちらりと魔力時計に目をやると時刻は8時を指していた。
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