二十一発目 最強銃士とランクアップとその他苦難



コンコンコン、宿の扉が叩かれた。なんだ?こんな時間に、時刻は早朝、いくらマスターと言えどもこんな時間に用は無いはずだ、そんなことを考えながら、両脇にいる翠とアルバを起こさないようにすっとベッドから抜け出し、扉の前まで行く。

マスター「坊主、王国騎士が来た、準備が出来たら下まで来てくれると助かる」

王国騎士?俺なんかしたか?…いや、理由しかねぇ

異例の最速ゴールドランカー

大人数での討伐を量っていたオーガの単独殲滅

一日で突如現れた火龍の討伐

あげればいっぱいだぁ。なんだろー。

俺は何の気なしに上着を羽織り、下へと続く螺旋階段を降りていった。

騎士「あなたがトーヤさんですか?」

冬弥「いかにも、俺がトーヤ・ヤマトオだ」

騎士「は!そうでしたか!随分とお若いのですね」

騎士が慌てた様子で椅子から立ち上がり、俺に敬礼する。

冬弥「あぁ、いいよいいよそういうのわからんから、で、要件はなんだ?」

騎士「話が早くて助かります、実はですねーー」

騎士が淡々と内容をはなしだした。何とも、今回、冒険者及び騎士団の集団教育訓練が行われるらしく、その教官を俺達に務めて欲しいらしい。

冬弥「断る」

騎士「え?」

騎士は承諾してくれると思っていたらしく、間の抜けた返事をした。

冬弥「だって俺ら側にメリットねぇもん、なんでわざわざお前らの国の育成に付き合わないといけねぇんだよ」

騎士「う、うぐ…でもこれは勅撰で」

冬弥「関係ねぇよ、俺この国のやつじゃねぇもん」

騎士「それは…」

冬弥「受ける理由も義理もないぞ」

騎士「今回、受けてくだされば、これからの旅についても優遇処置を致します!」

冬弥「てことは断ったら?」

騎士「各国に通達して、厳正な処理を行わせていただきます」

騎士がキリッとした真面目な目で俺を見つめる。

冬弥「それは脅迫と取っていいんだな?」

騎士「そう受けとっていただいても差し支えございません」

冬弥「お前らの国のゴールド以下全ての人民を犠牲に俺らに処置を下すんだな?」

騎士「どういうことでございますか?」

なるほど、力量差がわからんのか…。

冬弥「もし、俺らが国に蜂起を起こしたとするだろ?その場合何人死ぬと思う?」

騎士「そ、それは、」

冬弥「解はほとんど全ての国民が死ぬぞ、第一考えてみろよ、Sランク魔物を単独でも撃破可能、ゴブリン1000体を30秒で殲滅する相手だぞ?しかも、まだ余力は十分に残しているつもりだ」

騎士「なっ…そ、それほど?!」

騎士が驚いた顔をしている。ほんとだもん。

冬弥「と、言うわけで、俺らに脅迫するということは、宣戦布告ととって、この国を命と引き換えに壊滅させる」

俺が本気で睨みつけると、白い鎧を着た騎士はビクッとした後、ほんの微妙に小刻みに震えだした。

翠「こら、初対面の騎士さんいじめない」

冬弥「あ、起こしちゃった?」

アルバ「起きたら冬弥の腕がなくて心配したのです!」

冬弥「ごめんごめん、用事があったんだ」

アルバ「用事なら仕方ないのです、用事は大事なのです」

アルバが真剣な目で訴えかけてくる。仕方ないじゃん、文句はこいつに言ってくれ。

翠「で?どういう話?」

冬弥「なんか国の訓練監督をしろとの通達だと、さもないとお前らの社会的身分をなくすぞとのこと」

翠「ふーん、訓練…ねぇ」

翠が何かを思いついたような顔をする。何か嫌な予感がします。

翠「騎士さん、それって、なんの職業の人がいる?」

騎士「はっ!ええっと…剣士、弓兵、魔術師、拳闘士の4職が大まかな構成です!」

翠「のうちでどれの監督官を?」

騎士「いえ、どれがという訳ではなく、総監督をして頂きたく、全職業合同訓練の時などの指揮を頼みたいのです」

翠「ほへー、じゃあある程度の融通は通るんだ」

冬弥「おい、お前…」

翠「冬弥、受けよう」

騎士「ほんとですか!」

騎士が驚嘆と喜福の感情が同時に出たような声を上げる。俺も驚きだよ、うん。まさかのね。

冬弥「なんでだよ?なんか理由があるだろ?」

俺が翠に耳打ちで質問するとその答えが帰ってきた。

翠「私たち、こっちに来てまだ日が浅いでしょ?この世界の常識やレベルを知っておくべきじゃない?仮にも、ひとつの都が総出で行うものなんだから、クオリティは高いんだろうし」

冬弥「なーるー」

アルバ「どうしたのです!ずるいです!」

なんかアルバが幼児退化したのは気のせいだろうかまぁ、可愛いから許す。尊みが深い。もう、山より高くて海より深い尊みに俺は感激だよ。

翠「冬弥、話聞いてる?」

冬弥「なっ!失礼な!俺は今でもお前一筋だぞ!」

翠「ばっ!バカっ!人の居る前何言ってんの!」

え?俺なんかやばい事言った?あ…言ったわ。

騎士「そ、それでは、受けていただけるということでよろしいのですね!明日の正午に都南の草原に起こし下さい!」

騎士は何かを察したようで、そそくさと帰っていった。

冬弥「さて、俺らも依頼達成させに行くかぁ」

俺が伸びをしながら2階に戻ろうとすると翠が大きな声をあげた。

翠「あ!!そ、そう言えば…私ら、火龍の討伐証明部位もってない!」

冬弥「あ」

アルバ「あ、それなら、私がウェド様から預かってるのです、これを出せばいいのです」

冬弥「よかったぁ…不達成になるとこだった」

翠「ありがとぉあるばぁ」

アルバ「2人にはお世話になる身として当然なのです」

アルバが胸を張って言う。ギカントかわゆす。おっと、これは死語だった。

翠「じゃあ私たちは着替えてから行くから冬弥は先に行ってて!」

アルバ「なのです!」

冬弥「へいへーい、ギルドで待ってるからな、ないとは思うけど、何かあった場合は即座に連絡をよこしてくれ、用件よりも現在地だ」

そう言って、耳についてるイヤーカフスをカツカツと人差し指で叩きながら俺は宿の外へ出て言った。

冬弥「眩しっ」

外へ出ると、照りつける陽射しに目が痛む。冒険者になってからというもの、夕方以降の活動が多いせいで、陽射しというものに久々に当たった気分だ。

冬弥「あ、そう言えば、あそこに寄っていくか」

俺は路地の裏にある宝具店に一度寄り道して、その足でそのままギルドへ向かった。

ギルドの中で数分待っていると、入口にアルバと翠の姿が見えた。

冬弥「おーい、こっちだぞー」

手を振っていると、こちらに気づいたらしく、パタパタと小走りでこちらへと駆け寄ってくる。

翠「ねぇねぇ、どう?これ!」

翠の服装は青いパーカーにゆったりとした暗めのジーパン、後ろで淡い蒼色の髪を一本に結っている。

冬弥「もう、素晴らしいの一言に尽きるな。目立たせすぎず、かつ自分の長所を潰さないいい服だ」

アルバ「わ、私はどうなのです?」

アルバがくるりとその場で一回転する。

アルバはシャツの上にカーディガン質のフードの着いたパーカーで下は少し長めのスカート、これだけだと重く見えるが、輝くまでの白い髪と白い無地の靴で上と下両方に締まりができている。これは翠の入れ知恵だな。

冬弥「うん、アルバもいいな、重くなりがちな黒を基調にした服でありながらもしっかりと締めて、色の扱いと服の合わせ方がうまい」

あのカーディガンのビロビロのヘビロテ感って素晴らしいよね。うん。

翠「それを聞きたいわけじゃないけど…まぁ、服褒めてもらったし許そう」

冬弥「他人を褒めるのは難しいから嫌だね」

アルバ「言葉って選ぶのが難しいのです」

そんなことを言いながらも、またもや俺たちはファミスのいる受付へと歩いていった。

冬弥「よっ、依頼報告」

ファミス「相変わらず早すぎる帰還ね…」

ファミスが半分呆れ顔で身体の向きを直す。

翠「はい、これ証明部位」

ファミス「…はい、この品質なら問題ないわね、達成完了ですっ」

それを言い終えた直後、ファミスの顔が暗くなる。

冬弥「どうした?」

ファミス「大変言いずらいんだけどね…」

翠「うん?」

ファミス「昨日の深夜の段階で即完了の機嫌が過ぎてしまったの、ギルドに掛け合ってみたけど、規則は規則の一点張りで…」

冬弥「まぁ、しゃあなし」

ファミス「それで、何とか、1人のランクアップだけは承諾してくれたの」

冬弥「じゃあ翠で」

翠「ん?冬弥でしょ?」

冬弥「いや、これはお前一択だろ、後々楽だぞ」

翠「うーん…そうかもしれない、けど、頑張ってくれたの冬弥だよ?」

冬弥「なら俺に権利があるな?ファミス、緑で頼む」

半ば強制的に翠のランクをゴールドからプラチナへとあげた。これでいよいよ宝石色だけだな。

ファミス「はい、了解、ミドリ、ギルドカードを出してくれる?」

翠「あ、はーい」

翠がギルドカードをファミスに差し出すと、ファミスが帳簿をしてギルドの奥へと行き、数分後に新しいギルドカードを奥から持ってきた。そのギルドカードは白銀色でキラキラと輝いている。

冬弥「よし、これで終わりか」

ファミス「待って待って、報酬の金貨1000枚よ」

冬弥「はぁ?!1000枚?!」

え?なんでそんな貰えんの?なに?希少種だった?

ファミス「あら?今回は以前より、危険度が高かったから妥当な金額よ?」

冬弥「金銭の感覚がわからん」

翠「まぁ、貰っておこ!」

翠が金貨の入った麻袋を受け取り、マジックボックスへ入れる。

ファミス「そう言えば、その子はどちら様?」

冬弥「あぁ、火山にいた孤児でさ、戦闘の資質もあるし、俺らが養子として貰ってもいいか?」

ファミス「そうね、誘拐とか出ない孤児であるなら、本人間の承諾さえあれば可能よ」

冬弥「じゃあギルドの登録もできるか?」

ファミス「ええ、お嬢さん?名前は?」

アルバ「アルバなのです!」

ファミス「アルバ…っと、セカンドはトーヤのヤマトオでいいかしら?」

アルバ「構わないのです」

諸々の契約が終わった後、アルバはその日のうちに試験を受けたのだが、500というゴブリンの数を3分間の詠唱により殲滅させたとかいう化け物火力を見せて、またギルドを大慌てさせてた。

その結果、アルバはシルバーIII、ゴールドの一個下になった。アルバならも少し行けそーだけどな

まあいいか。取り敢えず、色々な手続きは一件落着か?

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