二十発目 最強銃士と独りの龍娘



俺たちは山をおりながら今後のことについて話し合っていた。

冬弥「なぁ、ビジャンニ?」

ビジャンニ「はい、なんですか?」

冬弥「お前の名前って本名か?」

ビジャンニ「と、言いますと…?」

ビジャンニが首を傾げてこちらを伺っている。

冬弥「いや、俺らの国でビジャンニって意味が少しあれでな、本名なら名付け親がどうなんだって感じで」

ビジャンニ「あ、いえ!私たち龍人族の子には1人前になるまで、『ビジャンニ』という役名で呼ばれるのです」

その龍娘は慌てた様子で手をパタパタと否定のジェスチャーをしている。ひかえめに言ってかわいい。

翠「そっかー、じゃああながちあっちの意味でも間違いじゃないのかな?」

ビジャンニ「あっちの意味とは?」

翠「名無しだよ」

ビジャンニ「なら、私たちと同じですね、名を着いていない仔龍と言う意味です」

冬弥「なぁ、じゃあ俺らがつけていいか?名前」

ビジャンニ「いいのですか!」

少し暗い顔になっていたその顔はぱっと明るくなった。しっぽもパタパタとしている。

冬弥「白い髪…碧眼…透き通る肌…」

翠「冬弥なんか気持ち悪い」

冬弥「え、酷くね?」

ビジャンニ「全然気持ち悪くなんてないです!私のことを拾い上げていただいた御方…普段なら慰みものになってもおかしくないのです!」

冬弥「慰みものって…あーそうだ、アルバなんてどうだ?意味は透き通った白って意味なんだが…?!」

その少女の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。

アルバ「そのような…素晴らしい名をいただけるなんて…本当に…本当にありがとうございます…」

正直ここまで喜んでくれると思わなかった。

そんな驚きを他所にアルバの名前を呼ぶとアルバの周りが光り出した。

冬弥「これ、大丈夫なやつ?」

アルバ「はい、龍人族にとって名付けというのはとても重要なことでして、小さい頃に、「名前がついた時に盛大に祝う」魔法をかけられているんです」

翠「ほへぇーすごぉー」

たしかに凄い。ってあれ?

冬弥「俺、そんなに重要なことしちゃってよかったの?」

アルバ「はい、今の私のあるじは冬弥さんなので」

冬弥「あるじ?!」

アルバ「はい、あるじです」

翠「あるじって主人って意味のあの?」

アルバ「あのあるじです」

アルバがきょとんとした顔で俺たちを見ている。俺と翠は1度顔を見合わせた。

冬弥「あるじかぁ…まぁいいか」

アルバ「なら、良かったです」

冬弥「良かった?」

アルバ「ええ、私たち龍人族はあるじから拒絶される=死を意味するので、もし、御二方に拒絶された場合、自害するつもりでした」

冬弥「やめろよ?」

翠「冬弥?」

冬弥「アルバ、お前の命は誰のためにあるのか知ってるか?」

アルバ「はい、我があるじのためです」

冬弥「違う、お前の命はお前のために存在する、つまり、お前は他人に死を握られてはならない」

アルバ「冬弥さん?あるじのために死ぬのは龍人にとって大変な名誉です」

冬弥「名誉どうこうの話じゃない、俺が死んで欲しくない、お前に生きて欲しい」

翠「冬弥?それなんかおかしくない?」

冬弥「そうかもな、でも、俺はお前と生きて行きたい、だから簡単に自分の命を投げ捨てるな、手脚をもがれても、光を失っても、絶対に生きてくれ、頼む」

アルバ「冬弥さん…分かりました、私は私の命を守るために生きます」

冬弥「それがいいさ、ほかの理由なんて後で見つかる、それと、俺と翠に「さん」付はいらない」

翠「あと敬語もね!」

アルバ「ですが、それだと主従関係が周りに示せなくなってしまいます」

翠「そんなの要らないよ?主人従者の関係なんて疲れちゃうでしょ、そんなことよりみんなでゆるーく楽しく過ごす方がいいよ!」

そう、彼女は龍人族として、縦社会を生き抜いてきた。ほんの少しの物事で力関係が存在する、だからこそ、人間の、俺たちのルールで生きて欲しい。

冬弥「俺たちだけ楽してて、お前に堅苦しく辛い思いさせるのはおかしいだろ?みんな対等だ」

アルバ「…わかりました」

翠「ん?」

アルバ「う…わかったのです」

アルバが顔を俯けて恥ずかしそうに話す。うん、美少女には敬語よりもフランクに話して欲しいよね。決して趣味とかではないぞ、さっきのは本意だ。

冬弥「じゃ、日が暮れる前に街に戻るか」

翠「1番先に着いた人が勝ちね!よーいどん!」

アルバ「あ!まっ、待って!ずるいです!」

冬弥「あんのやろー、なめんなよぉ!」

何はともあれ、アルバが打ち解けてくれてよかった。余計なギクシャクした関係は連携のもつれに繋がるからな。

そんなこんなで日暮れ、赤橙色の夕日が空を紅く染めている時間帯。無事に俺たちはセントブリューエルの入口に帰ってきた。

冬弥「今日はギルドしまっちまったし、今日は宿で寝るか」

翠「うん!そーしよ!早くご飯食べてお風呂入りたい!」

アルバ「宿って何処にあるのです?」

冬弥「そこの路地曲がったとこ、あ、ついた」

宿の前に着いた。でかでかと塗られた木製の看板が目を引いた。こーいうのって分かりやすくていいよな。

翠「こんばんはー、マスター?部屋空いてる?」

宿のマスター「おー、坊主に嬢ちゃん、すまねぇな、今日は人が多くてあと一部屋しか空いてねぇんだ」

翠「それでいいよ」

アルバ「私も、それでいいで、それでいいのです」

宿のマスター「お、坊主、両手に花か、楽しめよ!」

冬弥「楽しむような余裕があればな」

マスター「そうかもな!じゃあ空いてる部屋の鍵だ、ここに寝泊まりしてくれてや」

冬弥「りょー」

俺たちはその足でそのまま二階にある部屋へと向かった。そこには大きなベッドがふたつとソファがひとつ、ベランダには机と椅子が2組あった。言ってしまえば結構いい部屋だ。

冬弥「さってと…2人はベッド使っていいぞ」

アルバ「冬弥はどこで寝るのです?」

アルバが心配そうに俺を覗いてきている、が、心配はない。

冬弥「どこって、ソファがあるだろ?」

アルバ「そんなのダメなのです!ベッドで寝るのです!」

翠「アルバ、その人ね、立ったままでも寝れるの」

冬弥「ん?普通じゃね?」

違うのか?

アルバ「普通じゃないのです!どうぞ、このベッドを使ってください!どうしても譲るというのなら、私と一緒に寝ましょう!」

ん?今なんかすごいこと言った?

冬弥「ん?いや待て待て、ん?」

翠「アルバ?自分が何言ってるかわかってる?」

やば、翠がこわい。

アルバ「わかってるのです!冬弥をベッドで寝てもらうにはこれがいいのです!」

冬弥「…わかった、わかった、よし、こうしようまずベッドをくっつける、そしてそこに3人で寝ようそれなら翠もいいだろ?」

翠「いい妥協点見つけたわね」

翠が呆れた顔で承諾してくれる、仕方ないじゃん、着地する場所ここ以外マグマだもん。

アルバ「…それならいいのです」

アルバには後で人との関わり方について教えないと、特に男に対して、アルバはかわいいのにそういう所を学んでないんだよな。危険だ。

そんなこんなで、俺たちの慌ただしい一日は終わりを告げたのだった。

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